*第3話 七色の蝶々

この世界で手紙を届ける方法は二つ。

自分で郵便魔法を使う。

教会に依頼する。

通常はそのどちらかである。


郵便魔法は自分の契約精霊に依頼して

郵便を専門に請け負う精霊を呼び出して貰う。

高位の上級精霊の呼びかけでなければ、

郵便精霊は応じて呉れない。


従って一般的には教会に依頼する事になる。


*********


この数日、シオンは部屋にこもり泣き続けている。

食事も喉を通らない。

辛うじて薄いスープを口にする程度である。

無理に食べさせても吐いてしまう。


本人も食べようとはするのだが、体が受け付けて呉れない。

少女の存在は揺らぎ始めて、徐々に消え去ろうとしていた。


日毎にやつれて行く娘をなぐさめる事も出来ない。

何と言ってはげませば良いのか?

「愛人も悪く無いよ!」

などとは言える筈も無い。


このままでは本当に死んでしまう。

ケイコールは意を決した。

部屋の中でシオンは泣き疲れて寝ている。

起こすのは可哀そうだが大事な話が有る。


「シオンや、起ぎな、起ぎなへ。」

「か、かか様・・・」

「逃げるべさ、シオン。」


「逃げる?」

「んだ、オバルトさ行げ。」

「オバルトだべが?」


「聖女様に、エルサーシア様にお願ぇするべさ。」

「だども、そったら事すたら・・・」


この谷で村長に逆らったら暮らしては行けない。

他所の土地に縁者も居ない。


「後の事はえがら、我がの明日さ考げぇるべさ。」

「かか様・・・」

「まんず食ぇ、がへねだばまいね体力が無いと駄目だよ。」

「わがたちゃね。」


オバルト王国へ行くには陸路で約60日。

海路の方が早いが非常に高額であり、

金持ち相手の商売なので庶民は相手にされない。


陸路で行くにしても銀貨40枚は必要だ。

親子3人が半年は暮らせる大金である。


「街さ着いだら、売るべさ。」

ケイコールは小箱から髪留めを取り出す。

七色の宝玉が嵌め込まれた蝶々の形をしている。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330664848688030


「かか様!こでは!」

それは昔、エルサーシアから送られた友情の証。

母の宝物。


「おさの為に売るだ、エルサーシア様も許すて呉りょべさ。

んでこの手紙さ出すべな。」


エルサーシアに救援を乞う内容が書かれている手紙だ。

この谷にも教会は在るが、村長の息が掛かっているので信用が出来ない。


季節は後陽も半ばを過ぎ、北国の短い夏が駆け足で逃げて行く。

旅立つのならば急がなければ途中で雪が道を塞ぐ。


「10日後の夜さ立つべな。」

「わがたす」


***********




この世界の暦と地理に関しては

「エルサーシアの遺言 ウキペデア」

https://kakuyomu.jp/works/16816700428210395182

こちらをご覧ください

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る