ヨぶ魔法といふもの
泉 水
第1話
「やっぱ、召喚術だと思うのよ、究極ぅ。」
肩まで伸びた金髪を、ムダにうねうねと風になびかせ、俺の相方、剣士のロンは腰に手を当て、だだっぴろい草原で仁王立ち。ちなみに逆光で、俺からはよく顔が見えない。立ち姿だけは威風堂々。
肉体派剣士コンビ、ロンと俺は、早朝からトボトボと歩いて昼前に到着したこの草原に這いつくばり、薬草集めの依頼をチマチマとこなしていた。
強い魔獣を倒したり、恐ろしいモンスター蠢くダンジョン捜索に挑むような力もないし、命をかける根性もない俺達のような弱小パーティーにとって、薬草集めはそれなりに儲けになる冒険者ギルドでの依頼物件ではあった。
ただいかんせん地味な作業、手間がかかる。その上這いつくばったりしゃがんだりが続くのでけっこう疲れる、それも地味に足腰にくる。
相方のロンはすでに飽きてきたのか、先ほどから寝っ転がったり、おやつ替わりの干しブドウなどを口に放り込んだりしながら、テキトー作業になりつつある。
とはいえ、俺も疲れてきたのでそろそろ昼休憩でも取るか、と声をかけようとした中、急に立ち上がったロンが発した言葉が召喚術うんぬんのセリフである。
ビミョーな語尾で、若干イラっときたが。
召喚術。それはこの世のもので非ざるものを呼びよせる魔法の一種。
大きな話で言えば、過去の邪悪な魔王との戦いにおいて、異世界の勇者を召喚し、その圧倒的な能力で戦争を終結へと導いた国があったとか、伝説の神獣を呼び出し、難攻不落と言われたダンジョンを攻略したパーティーがいたとか。
小さな話で言えば、妖精や精霊、魔獣等を呼び出して、戦いの際、肉体や魔法の強化をしてもらうとか、直接相手を攻撃をさせるとか、ケガの治療や毒や麻痺などの状態異常を回復させるとか、その有用性は多岐にわたる。
勇者とか伝説の神獣を召喚するのは一般レベルではムリだとしても、ある程度までの魔獣や妖精、精霊を召喚するくらいの術者なら冒険者として活動している者もけっこーいたりする。
以前数パーティー合同での依頼中に出くわしたオーガ相手に、風の精霊に自身の風魔法を強化させて戦った老魔法使いがいた。
召喚術を使える魔法使いがいれば、戦力アップはモチのこと、召喚されたものの能力によって俺達も能力アップの恩恵に預かれるかもしれない。
ただ魔法使いがいるパーティーというのは、その他のメンバーも相当な熟練者であったり、また相応の報酬をペイできる懐の暖かいパーティーというのが大体の相場。
「・・・どうやって召喚術者を探し出して、でもってどのくらい見返りを出せるかだな。」
俺はやや自嘲気味に、俺達の実力、懐具合の現実ってのを含めて、ロンに返してみた。
「ふっふっふ。それがだな、実はアタリをつけてある。」
ロンは自信満々、そう答えた。
アタリをつけているだと?これまでこいつが提案する『魔法使い』を探したことがあったが、行き当たりバッタリでなんの成果もないままできたというのに。
「アタリをつけたって、具体的な話があるのか?」
俺は若干食い気味。
「ああ、これがそうだ。」
ロンは懐に手を入れると、大げさな動作で何やら小汚い巻物のようなものを取り出した。
「ジャッ、ジャーン。これにはな、召喚魔法陣が描かれてるんだ!」
ロンは草原の上にその巻物を広げつつ、
「こないだの帝都の祭りでな、いろいろガラクタを並べている屋台があったんだが、これは俺の『見る目』ってヤツが見つけ出したホンモノだ!!!」
と俺をビシィっと指さし、そう断言した。
何が『見る目』だ。薬草すらロクに見つけられないというのに。
その上ガラクタ売ってた屋台で買っただと?そんなもん、祭りの雰囲気で気分がハイになった勢いで買ったりするもんで、フツー子供でも翌日の朝になったら「あれ?なんでこんなもの買ったんだろう?」と冷めて自分に問いかけるものだ。
何ファンタジー持続させてんだよ。なんか粉とか葉っぱとかでもキメてんのかよ。
すでに圧倒的に嫌な予感しかしない・・・。
ロンはそんな俺のダウンな気分など我関せず、魔法陣に目が釘付けである。目がキッラキラしてやがる。
「残念ながら、この魔法陣で召喚できる時間には制限があるらしい。で召喚の為には陣に魔力を込めてもいいが。。。。屋台のオヤジが言うにはだな、食いモンとかカネとか、何かしら捧げ物を供えても可能らしい。」
OH-戦いの最中に、わざわざ食いモンだのカネだのを供えて祈るのかよ・・・
「薬草集めは名目、召喚実験を行おうと誰もいないこの草っ原まで来たというわけだ。」
ロンは、俺って知恵者じゃね?といった様子で。どことなく上から目線で一気に話し、懐から帝国金貨1枚を取り出した。が、何を思ったか金貨を懐に戻し、あらためて銀貨を取り出した。
「さっそく実験だ。この銀貨を供える。頼むぜ、カモン!」
「あ、待て!肝心の何が呼び出されるのかわかってるのか!」
俺が止める間もなく、ロンは魔法陣の中央に銀貨を置いた。
すると銀貨はまるで吸い込まれるように魔法陣の中に消えていき、同時に魔法陣がまばゆいばかりに発光しだし、周囲を白い光で覆い始めた。
「うお!」
「なんだこの光は!」
俺達二人は突然の魔法陣の発光に手で目を覆った。
どのくらい経ったか、しばらくするとその発光はウソのように収まった。
恐る恐る目を開け、魔法陣の方を見ると・・・・いた!
なんかキタ!
「・・・ここ・・・は・・・天国か・・・バ、バアさんは・・・どこじゃ・・・」
そこにはヨボヨボのジ―サンが横たわっていて、歯がほとんど無いだろう口をフゴフゴ動かし、弱弱しくそう呟いた。
俺とロンはただ立ち尽くしたまま、そのジーサンを見下ろしていた。
ジーサンといえば、息するのも苦しいようで、俺達がまるで見えていないようだ。
「・・・成功だな・・・」とロン。
「・・・なにがやねん・・・」と俺。
「いや、だからまあ、召喚そのものは成功したというわけだ。」
ロンは取り繕うように言った。
どうみても先に亡くなったバーサンがジーサンを『あの世に呼んだ』という構図じゃねえか。
ジーサン、息が荒くなってきた。
何かが近い!
さすがにすっぱり他人事だ、とは言えないこの状況で、俺は焦った。
「ロンよ・・・。どうすんだよ、これ。」
「・・・いやまあ、時間がきたら、勝手に還るだろう・・・」
「時間が来たらって、どっちに還るんだよ?元いたところか、それとも土にか?」
「・・・うまいじゃないか。」
感心してんじゃねえよ!
そんなこんなでアタフタしてると、また魔法陣を中心にジーサンの体が白く光り出した。
「まぶしっ!時間切れか?!」俺は右手で目を覆った。
「どうやらそのようだ!」
ロンもその光を直視できないようで、目を固くつぶってしまっている。
やがて白い光が辺りを包んだかと思うと、急にフっとそのまばゆさは消えた。
しばらく二人とも動けずにいたが、ジーサンの姿はもうなかった。どうやら元の世界へと戻ったらしい。
俺達は気が抜けてしまい、その場に座り込んだ。
・・・たかが銀貨一枚を供物に、強力な味方を呼び出そうだなんて、
俺 「欲張り過ぎた。」
ロン「ケチり過ぎた。」
二人の声はハモって絡んで草原の上を、ピーヒュルルーと風に流されていくのであった。
ヨぶ魔法といふもの 泉 水 @katatsumurikan
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