願い事
私がケイスケと赤い橋で出会う少し前…
私は交通事故の影響で骨がおかしくなってしまい定期的に病院に通っていた。
「はぁ…ミライちゃんも今年で21歳か…」
「長い間お世話になっています。まぁ、まだまだ通わないとだけど」
「そうだね…頑張って治していきましょう!では、素敵なお誕生日を」
「ありがとうございます!」
小学生の頃からお世話になっている看護師のお姉さんに深く頭を下げて、病院を後にする。病院から見えている赤い橋を越えたところに団地が並んで建っている。
「この橋…も…へ?何してるの?あの子」
橋の上で防護柵に足を掛けようとしている男の人を見つける。
見つけた途端、走り出す。
止めた後にどんな話をしたらいいとか、どんな対応がいいと考えていなかったが、
ただ止めなければ!とそれだけを思い、走り出した。
「ねぇ、君。何しているの?」
優しく声をかけたら突然、目の前に水しぶきが飛んだ。
これが、ケイスケとの出会いだった。
ケイスケは、どこか暗い様な未来が見えない感じにみえた。どうしてかは分からないけど、助けてあげたい!と思った。きっと、私に似ていると思ったのだろう…
そんなケイスケを私はどこか知っていると感じた。けど、記憶は曖昧で自信がなかった。自信がなかったのには、もう一つ理由があった。
「ケイスケは何も私について聞いてこないな…」
何も尋ねてこないケイスケに何としてもケイスケの口から昔の事を言わせてやりたいと言う目標ができた。この小さな目標がどんな形でもいいから叶えば良いと七夕にも参加しない私が思った。
「七夕…か…ふふ」
頭で呟いていたつもりが、口に出していたことにびっくりする。1人で話をすることを独り言。独り言もたまに不気味に思うが、思い出し笑いも不気味に見える。両方とも1人で急に話したり、笑ったりしてる。ミライは今の状況を思い出して、恥ずかしくなる。
数日後、プルルル…とミライの携帯が鳴る。携帯を手に取り、着信画面を確認する。
《ケイスケのアホ》と表示されている。
「なによ、こんな朝から…はい?」
「ミライか?ごめんな、朝から」
「大丈夫。で?用事は?」
「突然だけど、七夕祭りに行かないか?」
「はぁ!?たたたたたた七夕祭り!?」
ケイスケの耳がキーンと鳴っていることは知るよしもない。それ以上に七夕祭りに参加しようなんて、馬鹿げていると思ったのだ。
「……ごめん。いきなり…祭りなんか誘って」
「いや、誘ってくれてありがとう…」
「良かった。じゃあ、今夜7時にあの赤い橋で待ち合わせな?」
ケイスケとの通話を終えると、なぜ馬鹿げていると思っていた七夕祭りに行くなんて言ったのかベッドの上で頭を抱えてゴロゴロ転がっていた。
「あー何言ってのよ!“誘ってくれてありがとう”なんて…」
普段は日常に溶け込んであまり赤いと意識しないが、七夕祭りのために装飾されてライトアップされるとより赤い橋だと思える。橋の周りに笹がたくさん置かれて不気味な橋にも見える。
「お!ミライー!こっちだ、こっち」
「わ、わかったから呼ばないで!恥ずかしい」
「わるい、嬉しくて…つい。好きなんだ、祭り」
「七夕祭り…ねぇ…良かったわね、来られて…」
「ミライは、来たことないのか?」
「あまり好きじゃないの。願い事をするしたら叶うみたいなイベントが…はっ!」
あの時、なぜ誘ってくれてありがとうなんて声に出していたのか?
確実ではないイベント。願い事をしたら叶うなんで、夢見たいなイベントに行きたいなんて思えないのに…。なのに、行きたいと思えたのはケイスケが前向きに生きて行こうとしているのを見てケイスケにかけた言葉が自分にも当てはまると気づけたから、叶えてみたいと思えたのかもしれない。
「アホケイスケの癖に…」
「ん?なんだよ、それ」
「なーんでもない」
「昔から変わらないよな、その寂しそうな顔は」
「…!?へ?…覚えてたの?あの時のこと」
「あぁ、ちゃんと覚えてたよ。いつ話すか迷って遅くなったけどな」
「全く…だからアホケイスケなのよ…ふふ」
自然と溢れる笑顔は、不気味な笑いではなく幸せそうに感じられた。ずっと願い事なんて馬鹿げていると思っていたが、たった1つの願い事が叶うだけで気持ちが軽くなるなんて思ってもみなかった。この先の未来に明るい兆しが見えたようだった。これからは、願い事や目標を立てて前向きに考えて行くのも楽しいのかもしれない。
ケイスケと一緒なら、より楽しんでいけそうだと思えた。ありがとう、ケイスケ。
「ほら!ミライ、七夕祭りは始まったばかりだぞ?来いよ!!」
差し出された手を取って、2人は歩き始める。
【人間として、生まれたからには何かやるべきことがあるのだろう.】 クロネコ @kurokuroneko
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