赤い橋で

(なぜ、俺は生まれたんだろう…?)ふとそんな事を考えた。

俺は、生まれてくる前に何かしらの試験を受けたり、何かしらの契約書にサインをして同意をしたから人間として生きることになったのだろうか?なら、何かやるべきことがあるのだろうか?人生ってわからないな。


「ねぇ、君。何してるの?」


声をかけられるまで少女の存在に気づかなかった。というより気がついたら川の中だった。そんな事あるわけないと思うだろう?あるんだな、それが。実際、俺は川に落ちている。


「ごめんなさい、まさか落ちるとは思わなくて…」


米粒が走っている?と思うほど小柄な少女は橋から小走りで俺の近くに来る。


「お、おい!それ以上、来たら濡れるぞ?」


俺は慌てて立ち上がる。


「へ?大丈夫よ?入ったりしないわ」


ほぉ、俺の心配も虚しく終わったということか。まぁ、いいさ。


「で?なんで話しかけた?」

「前にも似たようなことをしようとしている人を知っているのだから」

「そうなのか、一応確認しておくけど自殺したかった訳じゃないぞ?」

おい、目!目が取れるぞ?そんなにびっくりすることか?

「!?どうして、ここに居たの?」

「どうして…か。何でだろうな」

「分からないで、ここに居るの?」

「あぁ。俺、何で人間として生きているのか分からなくて考えていたらここに居た」

「そっか。その答えは見つかりそう?」

「分からないな」

「なら、見つからなくてもいいと思うけど?」

「その、心は?」

「私、謎かけに参加した記憶はないけど?」

「そうだな、俺も開催した記憶はないが。答えてくれないか?」

「いいけど。そんな事を考えるだけ時間の無駄じゃないかしら?」


 そうか、この少女自身の話だったのか。だから、さっき「前にも似たようなことをしようとしている人を知っているのだから」って言ってたのか。


「だからここで俺を見た時、声をかけたのか?同じ理由だから」

「うん、私と同じ様な顔をしていたから…手伝ってあげたかった。探してみない?」

「人間に生まれた理由、探しか。いいぜ!手伝ってやる」


 俺はずっと、探す理由が欲しかったのかもしれない。きっと、1人じゃ出来なかったと思う。何かと理由をつけて、見て見ぬふりをして結局分からぬまま死んでいたと思う。だから、この少女と出会えて良かった。


「俺はケイスケ」

「ん?ケイスケ?」

「俺の名前だよ。一緒に探すなら必要だろ?」

「そうね。私はミライ。改めてよろしく、ケイスケ」


 ミライと名乗るこの少女。改めて見ると本当に幼く見える。もしかして、小学生なんじゃ?だとしたらヤバくないか?ゆゆゆゆ誘拐になったりしないか?勢いで手伝うと言ったものの逮捕されたら?それは、やばい!!


「ねぇ、ケイスケ。あなた、今失礼なこと考えてるでしょ?」と足を踏まれる。

「いでっ!考えてなんか…」

「目が泳いでるわ」

「ごめんなさい…考えた。ミライが何歳なのか、気になって」

「はぁ、だと思ったわ。私、よく見た目で判断されやすいから」

「じゃあ、何歳なんだ?」

「21よ。どうせ、未成年だと思ってたでしょ?」

「なんだ、21か。……?21!?嘘だろ?俺より年上!?俺が未成年??」

「あら?未成年なの?」

「あぁ、19だ」

「大人っぽいのね」

「おいっ!笑いこらえてるのわかるぞ?」

「ごめんなさい…」


 ミライに声をかけられ、川に落ちた翌日の朝はよく晴れて暖かく温暖化を心配するな。温暖化が進むと頭もふわふわしてくるのか…。遠くで俺と添い寝をしている携帯が光っている。ん?メール?《何回、電話しても出ないからメールした。これ見たら電話して!》そうだった。あと後、連絡先も交換して帰ったのか。ひとまず、電話しよう。プルルル…プルルル…


「もしもし…?ミライか?」

「あ!やっとかかった!もー!今まで何してたの?」

「ごめん、寝てた」

「ん?ねぇ、電波悪くない?ガサガサしてる、あんたの声」

「ガサガサしてない!ただ、少し温暖化の影響で頭がふわふわしてる」

「はぁ?温暖化で頭はふわふわしないわ?それ…風邪よ!馬鹿ね…」

「風邪?小学生の頃以来、引いてないぞ?」

「そうね…馬鹿は風邪引かないでしょうね。馬鹿は。はぁ…」

「おい!馬鹿にする為に電話させたのか?」

「違うけど、結果そうなったわね…早速、出掛けようと思ってた。けど風邪なら安静にしてゆっくり休みなさい。また、連絡するわ」ピッと電話が切れる音が聞こる。


だよな…分かってたさ、風邪だって。でも、あるだろ?「俺は、花粉症じゃない!」って完璧、花粉症の症状出てるに認めたら負けだと思って否定すること。気合いの問題だと決めて誤魔化して認めず、アレルギー検査すら受けずに非花粉症の人間に「あ、花粉症?」って軽く笑われながら通販の「でも、お高いんでしょ?」と同じテンションで、「辛いんでしょ?」と軽く馬鹿にされる。俺は今。そんな、気分だ。


「ひとまず、水分を取って眠ろう…ミライと軽く話だけだが、疲れたな」


俺は目を閉じ、眠る。そして、夢の中でも川に落ちた。


ーーー朝


目を覚まして気づいたが、夢でも川に落ちていたと思っていた。が落ちたのはベッドからだった。ケツが痛い。プルルル…プルルル…鳴り響く携帯の着信音。誰だ?こんな朝から。


「はい、もしもし?」

「おはよう、生きてる?」

「お、おう。生きてるよ。すっかり元気だ」

「じゃあ!待ち合わせ。11時に出会った橋の前ね?」

「わかった。11時な」


相変わらず、外は暑いし聞きたくない蝉の会話が嫌でも耳に入ってくる。なら、聞こえなくしたらいい。ポケットからイヤホンと携帯を取り出して最近、音楽が気に入って始めたアイドル育成ゲームを始める。シャンシャン…シャンシャン…《CLEAR!! RANK SS》と表示される。


「ふーん。そいう子が趣味なのか…ケイスケは」


いつの間にか到着していたミライが目の前で呆れた顔をして立っている。


「おぉ!居たのか!気づかなかった…ごめん」

「ううん、いいよ。今来たとこだしね。それ、好きなの?」

「あぁ、音楽がな。アイドルに興味は無いよ」

「ねぇ、そのSSRってなに?どんな意味なの?」

「SSRはスーパー・スペシャル・レアの略でレア度を示してる。もしかして、ゲームやらないのか?」

「あまり…やらないわ。なに?珍しい?」

「いや、そんなことはない…と思うぞ?」

「少し、質問してもいい?」

「あぁ、答えられることなら」

「このゲームのレア度ってSSRの他に何があるの?」

「他には…SR・Rだな。説明するとSRはスーパー・レアの略でSSRよりレア度は低い。そして、Rはレアの略で1番低いレア度だ。ガチャでよく出る」

「そう…。なんだか…人生みたいね…」


腕を後ろで組み、歩き出す。


「人生…?どいう意味だ?」

「例えば、レア度の低いRはたくさんいるけどSSRは少ししか居ないレアな存在ならこの人生にも置き換えて考えられると思うの。一流企業に勤める人をSSR。一流企業ではないけど、会社に勤めている人をSR。そして、私たちみたいに何の為に生きていて何をしたらいいのかすらまだ分からない人をRとしたらどう?」

「なるほどな。そしたら、Rを人間として生かした神様は課金勢だということになるな。Rには見向きもせずにSSRやSRにばかり育成して育てあげる」

「あら?そんなこと言うの?神様に失礼じゃない?たとえRだとしても一流企業に勤めてるRだっている。たくさんのRがいるけれど、RはRなりに努力が出来るのかもしれないわよ?育てがいのあるRにね!」

「なれるだろうか…育てがいのあるRに」

「分からないわ。ケイスケ次第じゃないかしら?なれるといいわね」


今すぐにとはいかないが、これから死ぬまでの長い時間の中でゆっくりゆっくりRとして目的を持って1つずつCLEARを目指していけたらきっと生まれてきた意味を理解出来ると思う。俺は、生まれてきて良かったのか?と問いかけることも無くなっていると願いたい。あの日、ミライに声をかけられ風邪を引いて良かった。ミライの考えを聞いて気持ちが軽くなった。ミライ…ありがとう!俺、前を向いて歩けてるよ。

俺は、前を歩くミライの背中を追いかける…。


「遅いわー!ケイスケ、置いていくわよー!!」大きく腕を振り、叫ぶ。

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