ケイスケの過去

「ケイスケー!学校行くから急いで!」

「わかった…待って、お母さん」


ランドセルを背負って玄関に向かう。

靴を履いたお母さんがヘルメットを持って立っている。


「いい?今日から新しい小学校だけど頑張って行こうね!」

「……うん、頑張る」

「さ!自転車に乗るからヘルメット被って!朝は送って行くけど、帰りは1人で帰ってくるのよ?いい?」

「……うん」


自転車に乗せてもらい、小学校に向けて出発する。

団地を出発して、数分後……通りの向こうで悲鳴が聞こえてくる。


「お、おい!!トラックが!?」

「え?今。女の子にぶつからなかった??」

「きゃぁぁぁぁ!!!ち、ち、血!!トラックから血が!」

「きゅ救急車!救急車!!呼んだのか??」


この時の事故で覚えているのは救急車と大勢の人たちがざわざわと慌てている姿だ。僕は何が起きたのか理解できないまま、小学校に到着した。

小学校に到着すると、職員室に案内される。


「では、お母さん。あとはこちらで編入手続きしますので…」

「分かりました、よろしくお願いします!」


担任の先生に引き渡され「しっかりやるのよ?」とお母さんに頭を撫でられる。


「初めまして、あなたのクラスの担任。小さい林と書いて小林です!よろしくね、ケイスケ君」

「………うん」

「じゃあ、ケイスケ君の教室に行こうか!」

「………」

「緊張するよねー新しい小学校。クラスの子たちはー」


新しい小学校に緊張してるわけでは無かった。

登校中に自転車の中から見た事故が脳裏に焼きついて怯えていた。

僕の小学校の思い出は、ほぼ覚えていないが小学生の頃の記憶で鮮明に覚えている記憶が1つある。


授業が終わり、事故を見たことの恐怖であまり話せなかった僕はクラスに馴染むことはできないまま1人、家に向かい歩いていた。登校中、お母さんはずっと「ここを真っ直ぐ進むと⚪︎×マーケットがー」と道を教えながら自転車を漕いでいたが、僕は事故が気になり聞いていなかった。小学校から途中まではクラスの子たちの後を追って歩いていたから順調に帰れていた。それから間もなくして、右も左もわからなくなるが、とりあえず進む。なんとなく、歩みを止めたらいけない気がした。何かに導かれるように真っ直ぐ進むと目の前に赤いカラーコーンと黄色いテープが出てくる。


「…あぁ、朝の場所だ…」


自転車から見た景色を見て何故か安心した。この大きな町に1人ではないと思えた。安心したからか、堂々と前を向いて進んで歩いて行けると自信たっぷりだった。

団地まで続く長い道を歩いているとまた不安に襲われる。


「何個目の団地…だっけ?」


この街には、35棟の団地が並んでいる。玄関を出たときに「ケイスケ、お家は28号棟の504号室だからね?」と話していた。


「お家は28号棟の504号室…お家は28号棟の…」


繰り返し繰り返し声に出して勇気を出そうとするが、玄関を出た時のことを思い出して涙が出てくる。ふと見上げた空に犬のような雲を見つける。すごく綺麗な青色に白い雲が勇気をくれる。


「あ!28だ!!見つけたぁー!」


一気に嬉しくなり、思わず足取りが速くなる。さっきまで重たいと感じていたランドセルは身に付けていないぐらい気持ちは軽やかだった。28号棟の一階に設置してあるポストを端から見て504号室を探すことにした。が、ここで問題が起きる。


「……あれ?ここじゃない…隣り?」


そう、28号棟には504号室が4部屋あったのだ。その中には、名前を書いていない部屋もあり探すのが大変だった。作戦を変更することにした。


「わかった!もう、5階まで上がろう!」


4部屋全てのドアの前まで行き、自分の部屋を見つけることにした僕はヘトヘトになりながら辿り着いた頃には綺麗な青も赤くなり、夜になろうとしていた。


ーーーガチャッと鍵が開く音が聞こえる。


「ただいまー!ケイスケ!!」

「おかえりなさい!!お母さん」


事故を目撃してから1ヶ月くらいが経った頃、1人で遊びに出かけた。

お母さんに「遊びに出かけていいのは、団地近くにある公園までよ」と言われていた。けど、少し遠くに行きたいと思った。


「あの、赤い橋まで行ってみよう」


この時の選択が正しい選択だったのか?この時はまだわからなかった。

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