【人間として、生まれたからには何かやるべきことがあるのだろう.】

クロネコ

ミライの過去

「ぐすッ…ぐすッ…」と両手で顔を擦り、泣きじゃくる男の子。


ーーー7時30分


「んー!よく、寝た。最近この夢をよく見るけど…誰なんだろう?」


「早く起きなさい!遅刻するわよー?」

「あ!はーい。今行くよ、お母さん」

「全く、朝からバタバタするのやめなさい?急いでると事故にあうわよ?」

「はいはい、不吉なこと言わないで」

「お母さんはもう、出かけるけど。気をつけて学校行くのよ?」

「わーかったから!いってらっしゃい!!」

「行ってきます!」


外ではスーツという鎧いを身にまとった会社員の人。自転車に子供を乗せた《母は強し》という言葉が似合う主婦の人はきっと前世は競輪選手だったと思う。今日も外は朝から賑やかだ。そんな人たちを横目に学校へ向かう……そんなはずだった。


(何か大きな物にぶつかった?何が起きたの?遠くで声が聞こえる??)


「お、おい!!トラックが!?」

「え?今。女の子にぶつからなかった??」

「きゃぁぁぁぁ!!!ち、ち、血!!トラックから血が!」

「きゅ救急車!救急車!!呼んだのか??」


(あぁ、私。事故に遭ったのか…このまま…死ぬのかな?はは)


私はゆっくり目を閉じた。あぁ、まだ小学生だったのに。やりたい事たくさん、あったのにな。友達と出かけたり、運動会や学芸会にだって出て楽しみたかった。やりたいと思っていたことを考えていると


ーーーチリンッ!鈴の音が聞こえる。

『さぁ、目を開けて?』白いベールに包まれた美しい女性に背中を押される。


次に目を開けたら病院のベッドだった。


「んー?ここ…は?」

「ミライ!!起きたの?見える?お母さんよ?」顔の前で手を左右に振る。

「お母さん…?」

「学校に行く途中でトラックと接触事故に遭って今、手術が終わって病室にいるの」

「はは…なんだ…生きられたんだ…良かった…」目頭が熱くなり、声が震える。

「そうよ、生きてるの!!ありがとう…ありがとうね、ミライ」

「そっか」ヘラっと笑うと溜まっていた涙が溢れ頬を濡らす。


その日からは怪我と向き合う日々が始まる。

病院生活は、退屈なもので。検査にリハビリの繰り返し…反復練習のみ。


「はぁ、退屈だわ。学校生活がまさかこんなスタートになるなんて…」


リハビリの部屋でゆっくりと真っ直ぐ歩く練習。こんなこと、赤ちゃんの頃に終えているのに…また練習するなんて思ってなかったな。

勉強だって、学校の教室で習うはずだったのに病室のベッドの上で受けている。

(はぁ、教室でもこんな景色を見れていかのかな…?)

窓から見える景色は、遠くまで続く青空と赤い橋が見える。

「こら!集中して!ここ、間違えてるわよ?」

「お母さん…うるさい」

ガラガラ…と重たい音を立てて扉が開く。

「ミライちゃーん!調子はどう?」

「あ!看護師さん、うん。元気だよ?」

「良かったー!元気で」

「あ!お母さん、先生がお呼びです」

「わかりました。今、向かいます。ミライ!ちょっと行っているね?すぐ、戻るからちゃんと宿題終わらせるのよ?」

「じゃ、ミライちゃん。お母さん、お借りするね?」

「うん!いってらっしゃい!」


明るい声で見送ったが、ミライの気持ちはモヤモヤと霧がさしているようだった。


(何かまずいことがあったのかな?長引くのかな?ここでの生活)


ーーーコンコン

「はい、どうぞ?」

「失礼します」

「お母さん、ミライちゃんはよく頑張っています。なので1週間後。退院して頂いて大丈夫ですが、1つ問題がありまして…」

「そうですか!ありがとうございます。問題…?」

「はい、結論から言います。ミライちゃんはこのまま成長しない可能性があります」

「どいうことですか?成長しないって!ま、まだ小学生ですよ?」

「はい。これからも通院して頂いて、検査をして頂くしかないのですが…恐らく中学生に上がる頃には成長が止まってしまう可能性があります」



ガラガラ…

「ミライー!ただいま!」

「へ?あ、おかえりなさい…?先生は?…」

「……ミライ、よく聞いてちょうだい?」

「うん、なんでも聞くよ?どうしたの?」

「た、退院…していいってさ!おめでとう!!」

「へ?退院?病院を出ていいの?」

「そう!病院生活は終わり!って言ってもあと、1週間も残ってるけど…」

「1週間したら、退院?」

お母さんはゆっくり頷く。

「やったぁー!!」


この日からの生活は、1日が早く過ぎないかとわくわくしていた。あと、何回目を閉じたら退院出来るのかとか、あと何回ここからの景色を見れるのかと考え過ぎていく寂しさと待ち遠しさで毎日が楽しかった。そんな日々が終わりを迎えようとしていた。


「はぁ、明日で退院か~なんか看護師さんに会えないのは寂しいね」

「やだ!寂しいからってまた会いに来たらだめよ?」

「えー!楽しかったからまた来たいー!」

「あ!今日もいい天気ね!ミライちゃん」

「え?あ!本当だー青空だね!気持ち良さそう!」


病室の窓に目を向け眺めていた。すると赤い橋に男の子が立っているのが見える。ミライは咄嗟に病室を飛び出す。


(私。あの子知ってる!見たことある!!)


走り出し、赤い橋に着くと男の子に近づき声をかける。


「ねぇ、君。何してるの?」

「ぐすッ…ぐすッ…」


両手で顔を擦り、泣きじゃくる男の子。

「大丈夫?落ち着いた?」

背中を優しくさする。

「ぼ、僕。迷子になっちゃて…」

「迷子か…お名前は?」

「お名前?名前は…ケイスケ」

「ケイスケ?私はミライ!」

「ミライ?」

「私の名前!一緒に探すなら、必要でしよ?」

「うん、一緒に探してくれるの?」

「私は明日で、10歳になるの!ケイスケは?」

「えっと…8歳だよ?」

「8歳か…じゃあ私がお姉さんだね!ケイスケが探してるもの。見つけるの手伝ってあげるね!」

「ありがとう…。ミライと一緒なら早く見つかる気がするよ!」

「じゃあ、行こうか!ケイスケ」


ケイスケの手を取り、赤い橋を降りようと来た道を歩いていた。

来た道を戻っていると「ケイスケー!!」と若い女の人が手を振っている。


「あ!お母さん!!!」


お母さんに気づき、走り出して行く。


「もう、また勝手に行ったらダメよ?わかった?」

「はい、ごめんなさい…」


抱き合う親子を見て「良かったね…」と声をかける。


「うん!ミライ、ありがとう!!」

「ありがとう、ミライちゃん。助けてくれて」

「どういたしまして!!」

「元気でね!!ミライ」


ケイスケと会うのは、今日で最後だと思っていた。

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