踏み出す一歩

@nana-hime

第1話

大きく息を吸い込んだ

「すーーーっ」

よし!心のなかで合図をし

握られた手がほどけた瞬間―


カラン カラン


勢いよく飛び出したサイコロはテーブルの上を元気よく転がったのちにピタリと止まった


サイコロの目は赤く上を向いている

「やった!1だ!」

11月1日生まれの僕のラッキーナンバーはもちろんNo.1

毎朝サイコロを振り、その日の運勢を占う

それが僕のルーティン

「今日はいけるかも…」

期待と共に気持ちを抑えつつかばんを手に取り家を出た


駅へと続く並木道の街路樹達は色づき始め、少し冷たさを感じる風が通りを抜けていく

「もう…秋がきたんだなぁ」

心の中でつぶやく

行き交う人たちの服装も少しずつ暖かさが増している


少し足早になっている自分に気づいた

一歩 また一歩 駅へと近づくにつれ高鳴る鼓動

トクン… トクン…

静かに流れる血液を確認するかのように左胸に手を当てる

「大丈夫」

自分に言い聞かせ鞄を握る手に力を込める

ほてりを感じた頬に当たる風が気持ちいい

もう一度大きく息を吸い込み、駅のなかへと踏み出した


すれ違う人々の話し声や笑い声、電車の発着を知らせるアナウンス、発車のベルの音…

聞き慣れたいつもの光景のなか目的地を目指す―


改札を抜けゆっくり進んで行く

コツ コツ…

少しうつむきかげんで歩く僕の耳には靴の音だけがやたら大きく聴こえる


ふいに歩みを止め、目を閉じる

一瞬の静寂ののち…

 

―ゆっくり瞼をあけていく―


目の前に広がるのは見慣れたホーム

君の姿を探す

スーツ姿のサラリーマン、お洒落に気合いが入るOLさん、さまざまな制服の高校生達…たくさんの人で織り成しているこの世界で君を見つけることがこんなに容易たやすいなんて…


僕の瞳は瞬時に君に釘付けになった

ココロの核を貫かれたような衝撃に少しだけ足がすくんでしまう

震える足を、気持ちをふるい立たせ僕は君へと距離を近づける

大きく波打つ鼓動が僕の耳まで紅く染めていく


今朝のサイコロの目を思い出す

「今日こそは伝える」

僕のラッキーダイスに誓う


君まであと3メートル…2メートル…1メートル…


「すーっ」

息を吸い込んだ


「おはよう!!…あの………」

END

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