第17話 国王との面談
翌朝、朝食を済ませてホールに集まるとナチオ男爵から言葉があった。
「それでは王城へ向かうが、昨日伝えた通り余計なことは言わず説明は私に任せるように」
「「「はい」」」
昨日言われた説明、というより命令だが要するに全てナチオ男爵が話すので許可がない限り黙って控えていろと。
いずれにせよナチオ男爵と初めて面談した時に聖女や大魔法使いだと判明した場合は国の法律で魔王討伐に向かわなければならないことが決まっているなら何か言うも何も……
せいぜい言えて皮肉くらいだろう……、あ、つまり皮肉を言っちゃダメってことか。
二頭立ての箱馬車で揺られ、三十分ほどで王城門にたどり着くとパジーニ氏がナチオ男爵の馬車であることと本日が面談予定の日であることを合わせて告げると、衛兵が馬車内を軽く覗き込んでから門を通してくれた。
門をくぐってからも馬車で移動しているが城がとにかくでかい。
遠目に見ると尖塔がいくつか目に付く某夢の国の城のような佇まいだが、近くで見ると切り出した岩の壁が堅固そうで大きさが半端ない。どれほど金を出せばこんな建築物が建つんだよ?と平民らしく考えてしまった。
他人の懐具合に嫉妬を感じているうちに馬車が停まって下車を促され、城のメイドさんの案内で入口から少し歩いた部屋へ通された。
ここに来るまでに聞いたナチオ男爵からの話だと王城には大別すると三つの出入り口があって、他国の王侯貴族や我が国の王族が出入りする正面玄関と、国内の貴族が出入りする玄関、そして平民が通ることを許された勝手口のような出入り口があるそうだ。
ここは貴族が出入りする玄関から数分歩いた部屋で応接室へ通す前に控える控室のような部屋らしい。控室とは言え重厚な家具、例えば大きな楕円型のテーブルや椅子の足は猫足だし、絨毯もふっかふっかなのだ。
僕とアリスがほえ~とか言いながら調度品や絨毯など部屋を見回していると先ほどとは違うメイドさんに促され別な部屋へ移動することとなった。
新たに通された部屋は応接室らしく、部屋に入る前に近衛兵から身体チェックを受けて入室すると、先ほどとは違いテーブルはローテーブルになり椅子はソファとなっていた。
立って待つこと五分ほど、王冠に赤いマントの人ではなく、貴族っぽい服を着た男性三名とローブを纏った女性一名が入室してきた。
ナチオ男爵が会釈をすると中央にいた柔和なおじさんが音もたてずにすっとソファにかけ、両脇の男性たちも着座した。ローブを着ている女性はソファ横でたったまま控えている。中央に座った男性が手で着座を促したことでナチオ男爵が着座して僕たちも着座した。
なんかこういうのだけで面倒だなと思ってしまう。
会話の口火を切ったのはナチオ男爵の向かいに座る白髪交じりの黒髪、黒目で四十代後半くらいのおじさんだ。
「ナチオ男爵、ご苦労であった。それが先に報告のあった聖女と大魔法使いであるか?」
「はっ、ヘルナー宰相、ご紹介させていただきます。私の隣から、聖女(仮)のエリーヌ・ソワイエクール、その隣が神官(仮)のレオン・シャレット、そして大魔法使い(仮)のアリス・ラプラスでございます。皆、挨拶を……」
促されて立って挨拶をする。
「エリーヌ・ソワイエクールと申します」
「レオン・シャレットです。よろしくお願いします」
「アリス・ラプラスです」
挨拶を聞き、中央に座っていた金髪に明るい緑色の瞳をしたおじさんがニコリと笑顔で挨拶を返してくれた。おそらく王様であろう。
「余が国王のフェルナン・ブリュノーである。此度は非公式の面談ゆえ堅苦しいことは抜きにしよう。先に質問したのがこの国の宰相、ディーデリヒ・ヘルナーで、こっちに座っているのが公爵のテオバルト・エクスラーだ。まずは掛けるがいい」
改めて許可を得て僕たちがソファにかけるとすぐに紅茶が目の前に配膳されたが、すごく柔らかい香りの紅茶だ。と言っても口をつけることも僕たちにはできない。
「これまでのことは先に手紙で報告を受けているがナチオ男爵、改めて説明をしてもらいたい」
今度はアリスの向かいに座っているエクスラー公爵だ。
「はっ、では僭越ながら私からこれまでの経緯などをご説明させていただきます。ひと月ほど前に我が領で聖女の噂を聞きつけ、すぐに当人と面談を実施してカルラ・ウィーラーに鑑定をさせたところ、エリーヌ・ソワイエクールが聖女(仮)の職能を持ち、アリス・ラプラスが大魔法使い(仮)の職能を持っていると結果が出ております」
この後、ナチオ男爵は僕が同行している理由と僕の職能が鑑定結果で神官(仮)であったことを説明した。
「ここからは私の仮説と申しますか推測となりますが、(仮)はその素養がある者で、鍛錬を積み重ねることでいずれは無くなる、つまりは現在『見習い』のような表示であると考えております」
ナチオ男爵の言葉にヘルナー宰相とエクスラー公爵がブリュノー国王にそろって振り向くと、ブリュノー国王が顎をさすりながら言葉を紡いだ。
「ふむ……ナチオ男爵よ、そちの推測、実は心当たりがあってな……」
「いかようなことからとお伺いをしても?」
「そちの領から二人の重要人物が見つかったことに報いて伝えておこうかの。エクスラー公爵領から勇者(仮)と賢者(仮)が見つかっておってな、我らも同じ考えに行きついておる」
「なんと……」
その話を聞いて眼を見開いて聞き入ってしまった。
勇者と賢者が?そっちも(仮)?僕が期待していた(仮)のない、本物の聖女や大魔法使いは結局いなかったの?そう考えているとヘルナー公爵が言葉を述べる。
「しかし、(仮)が無くなるのは今の段階では仮説ということで、その二人を戦士、いや歴戦の戦士と共に修行のため遠征に行かせているところである」
すぐにエクスラー公爵が続いた。
「それはそれとして、この者たちの鑑定を改めてしてもらう。ベレニス殿……」
エクスラー公爵から促されてこれまで横で控えていた女性が深々と腰を折って挨拶をしてくれた。
「失礼いたします。私は鑑定士のベレニス・モンタニエと申します。早速ですがお三方の職能を鑑定させていただきます」
ロングボブカットに整えられた濃い栗色の髪に深い緑色の瞳の女性が言うやいなやすぐに「鑑定」を唱えると、途端に瞳が濃い緑色に怪しく光った。一般的な鑑定は瞳が輝きを放つのかもしれない。
「エリーヌ・ソワイエクール様14歳、職業は聖女(仮)、体力2000、魔力1000、魔法は聖魔法、称号は特にありません」
あ……鑑定が詳しくできてる。まさか改ざんがバレたりしないよな?
「次にレオン・シャレット様13歳、職業は商人、聖騎士(仮)、体力2500、魔力1500、魔法は聖魔法、水魔法、土魔法、無属性魔法でおそらく水魔法と土魔法はまだ素養があるだけで使えてはいないかと思われます」
よし!改ざんしたとおりに読み上げてくれた。
鑑定結果に一番驚いていたのはナチオ男爵で思わず言葉に出たようだ。
「な?聖騎士?神官(仮)ではなかったのか?」
この言葉にベレニスさんが答える。
「職業は増えることや稀に変わることがございます。成人前は特にその傾向が顕著に現れますし……もしや、シャレット様はここにおいでになるまでに何かしらのことをされていたとか?」
注目を集めたが、ナチオ男爵へ視線で答えてよいかを窺うと小さくうなずいて肯定の意を見せたので静かに答えた。
「はい。二人を守れるよう衛兵の皆さんから教わって剣技を身につけるべく過ごしておりました」
僕の言葉にまたもナチオ男爵が声に出して驚いた。
「なんと……職業が変わることが……」
「続けさせていただきます。アリス・ラプラス様12歳、職業は大魔法使い(仮)、体力2000、魔力、よ、4000、魔法は火、水、風、土、光、闇でございますが、闇の魔法はシャレット様と同じく素養があるだけで使えてないかと思われます」
この言葉に驚いて呟いたのはエクスラー公爵だ。
「魔力4000は間違いないか?賢者(仮)でさえも、そこの聖女(仮)と同じで1000であったぞ」
「間違いありません。先のシャレット様も魔力は1500ですがラプラス様の魔力量は飛びぬけていらっしゃいます」
チラッとアリスの方に視線を向けると無表情?と思ったが片眉がぴくっと上がり耳が少し赤くなっていた。誉められたと認識してニヤつくのを我慢してるらしい。
「これは……ブリュノー国王、勇者たちと同じく修行をさせることで、女神ユノー様からの言葉通りのパーティが揃うのでは?」
エクスラー侯爵からの問いに一瞬の間をおいてブリュノー国王が答える。
「ふむ……概ね女神ユノー様の言葉通りの人員が整ったが、シャレットと言ったな?」
「はい」
「聖女と大魔法使いは決まりによりセプタンブルに残ってもらうが……君だけは今回の人選から外れることになるのだが、我が国で二人目の聖騎士という職能を持つ者として、このセプタンブルで修行を積むのはどうだね?」
答えを返す前にナチオ男爵に視線を送るとこくりと頷いたのでブリュノー国王にしっかりと視線を合わせて答えた。
「修行を積むことは願ってもないことですが、二人と共にありたいと思っています。以前に神官(仮)の職能だったのが彼女たちを守るための鍛錬をすることで聖騎士(仮)となったのなら共にあることが何かしらの意味を持つのだと考えております」
その答えを聞いてブリュノー国王の視線が少し意地の悪いものに変わった気がした。
「騎士とは誰かに忠誠を誓い、対象を守ることが本懐と思うが、君の忠誠は国王たる私ではなく彼女たちに向けられるものということかね?」
迷いなく答える。
「はい。僕は彼女たちを守るためにあります。そのために得られた職能でしょうし、そのための苦労は厭いません」
「そうか、そうか。面白い!これから先でまた職能が変わる可能性もあるしな。よかろう、二人と共に過ごすが良い。君たちには勇者(仮)達と同じ、三年の期間を与えよう。二年の間に各自の修行をして三年目は勇者(仮)と共に一年間の遠征をして、遠征から帰ったら改めて魔王討伐の旅に向かってもらう。委細は帰ってからナチオ男爵から聞くが良い」
こうして国王たちとの面談は終わった。
ナチオ男爵はその場に残り、僕たちはその場を後にしてナチオ男爵邸まで王城の馬車で送り届けられた。
これで僕たちが共に過ごせる時間は三年間となった。そして最後の一年は勇者(仮)、賢者(仮)、そして歴戦の戦士と共に遠征に行くことになる。
三年で二人がどれだけ能力を伸ばせるのか?僕自身も二人を守れる剣技と魔法をどれだけ身に付けられるのか?きっとすぐに修行の日々が始まるだろうが、二人を守れるようになるために、そして遠征後も、魔王討伐後も、共に笑顔で過ごせる日々を目指すこととしよう。
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これにて第一章は完結です。
今少し立て込んでいるので第二章のスタートまで期間を空けますがお待ちいただけると嬉しいです。
ひよこたちの日々~転生したら半神の僕に聖女の姉と大魔法使いの妹ができました~ 山本あかり @yoshidaya
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