第16話 新たな職業
王都セプタンブルに到着した。
御者のベンさんから聞いたところによれば、王都の外壁門には出入り口が二つあって、一つは貴族用でほぼ待つことなく通れるらしいが、平民用の方は通る人数が多いこともあっていつも長蛇の列でかなりの時間を待たされるらしい。
今回、馬車は家紋入りの貴族の馬車だが乗っているのは平民だけという状況でどちらを選択するのかと思っていたら長蛇の列の最後尾に馬車が控えた。
なんだ。馬車は貴族用でも乗ってるのが平民だけならやっぱり平民用なんだなと納得した。
二時間近く待たされてる間に物売りが声をかけていくこと数回。
興味本位で売られてる物を少し見せて貰ったら食糧がほとんどで、茹でた芋、茹でた豆、茹でた根菜類、乾煎りしたような木の実などが大半だった。中にはナイフなどの武器を売ってる人もいたが極少数だ。
ちなみに木の実、ナッツ類は良いだろうけどこの真夏の日差しの下、茹でた根菜類などは傷んでいる確率がかなり高いと予想できた。
さらに売ってる人たち、身なりはさておき、なぜ一人一種類の商品なんだろう?
数種類、複数個の商品を持って売れば買う方も選択肢が広がって買いやすいし良く売れると思うのだが僕には理解できなかった。
これは外壁門を通って街に入り、たくさんの露店が並び、商品を陳列する前で立って商品を売っている人の中にも一つだけの商品を売っている人が何人も見られた。
まったく理解できないが、一つの商品が売れたら今日の商売終わりってことなのかも知れない。そうだとしたら「勤勉」という言葉を教えてあげたくなる。
観察しているうちに外壁門を通り抜けてナチオ男爵の王都邸に馬車はたどり着いた。
周囲の建物も途中で見てきた平民の家と違って高く大きな建物が多く、窓が鎧戸を開けるとガラスが使われていたりする家もあった。
ナチオ男爵邸は近隣の家と同じレベルのサイズ感と豪華さを持った建物だったが、促されて馬車を下りたら数人のメイドさんたちが出迎えてくれるという僕たちが経験したことのない破格の扱いで歓迎された。
「ようこそ王都のナチオ男爵邸へ。ここまでお疲れさまでした。無事到着できて一安心しました」
そう労って出迎えてくれたのはパジーニ氏だ。
「わざわざ出迎えていただきましてありがとうございます。私たちも無事にたどり着いて一安心していたところです」
エリ姉が丁寧に答えるとすぐにパジーニ氏の指示でアラベラさんが先を進んで僕たちに割り当てられた部屋へ案内してくれた。相変わらずアラベラさんの距離感は離れたままで空気感も硬いままだった。前向きにとらえるとこれがメイドのプロなのかも……が、ただのコミュ症なのかも知れないとも思えた。
割り当てられた部屋は貴族の客室なのか扉を開けると2つのベッドルーム、合計四台のベッドが置いてある部屋で、どうやら一室は従者用の部屋であると見受けられた。
従者用と言ってもこれまで孤児院の二段ベッドを使用してきた僕たちには見たことがないような豪華な部屋でむしろ広すぎて三人とも自然と隅の方に固まってしまうという庶民っぷりを披露することになった。
荷物を置くとすぐにアラベラさんに促されてナチオ男爵との面談となった。
「初めての長旅だったんだろう?セプタンブルは賑やかだろう?」
ナチオ男爵の言葉に皆が頷いて僕が答える。
「はい。こんなに人がたくさんいるのも初めて見ましたし、露店がずっと並んでいるのが面白かったです」
「ヴォージラールから来れば皆そう思うんだ。ところで明日のことだが……」
明日はフェルナン・ブリュノー国王との面談が予定されているので、ナチオ男爵はその流れを説明してくれた。公式の謁見というほど畏まった形式のものではないそうで、王城の応接室での面談ということで多少の失礼があっても公式ではないので許されるとか。
マナーもろくに頭に入っていない僕たちとしては助かったと考えてよい点でほんの少しだけ気が楽になった。
一番重要なことの打ち合わせを終えたので明日までの時間でこれまで同様に鍛錬をしておきたいので裏庭の使用許可を取りつけ、僕たちはいつも通りに魔法の鍛錬をした。
余談だが街門の内外にいる一つだけ商品を持って売っている人がなぜそうなのかと聞いてみたら強盗対策だと教えられた。たくさんの商品を持って売れば僕の言うとおりに売れるとは思うが、商人の数に見合うだけ強盗もいるらしく、一つだけの商品なら持って逃げるも、捨てて逃げるも可能だとか。王都ってなんて治安が悪いんだとげんなりしてしまった。
できた時間で裏庭に移動して三人共が魔力循環の鍛錬をしてからアリスは光魔法で、エリ姉は補助魔法の、そして僕は剣の素振りと型を練習した。
素振り、型はただ振らずに敵を仮想して振るのだとビリー隊長から教わった。素振りの時はそうでもないが型で敵を仮装すると自然と熱が入り、十五分ほど振ってから動きを止めて息を吐き出したらアリスとエリ姉が動きを止めて僕を見ていることに気付いた。
「あれ?二人とも鍛錬終了?」
僕が問いかけるとエリ姉がハッとして答えた。
「ううん。レオが、その、本当に誰かと戦っているような動きだったからつい見ていたの」
すぐにアリスが同調した。
「そうそう、ゴブリンを討伐した時くらいにキビキビした動きでちょっと怖いくらいだったよ」
「そう?ビリー隊長から鍛錬の時は敵を思い浮かべてやれって言われたから一人で鍛錬するときはそうしようって決めたんだ。少しでも早く上達しなきゃいけないからね」
一日でも早く王様に同行を認められるようにならないと。
本来のステータスを明かせば簡単に成し得ることかも知れないが、世間知らずの今の僕が簡単に明かしてエリ姉とアリスを守る立場から離されては本末転倒になってしまう。そうならないためにも一足飛びに剣技を身に着けたい。だから必死にやってみる。
鍛錬を終え、お風呂で汗を流してから豪勢な夕食を振舞われて一日を終えた。
明日は王様との面談だなぁとぼんやり考えながら就寝前に自分のステータスを確認したら新たなものが目に飛び込んできた。
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レオン・シャレット(13)人族(半神)・男
職業:聖人・町人・商人・聖騎士
体力:75752
魔力:99999
魔法:(全)
特技:器用・畏怖・神威・神気
称号:勇者・大賢者・死を超越した男
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ちなみに、前にこっそり鑑定した一般的な町人のステータスと比べると僕のステータスが化け物なみで他人に知られたら事件になるだろうと容易にわかる。
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〇〇・〇〇(25)人族・男
職業:町人
体力:1900
魔力: 200
魔法:火
特技:---
称号:---
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僕のステータスには職業に新たに聖騎士が追加されて体力が増大していた。
騎士って、確か馬に乗って戦う人だったような?
馬に乗る衛兵と何が違うんだっけ?それも騎士なのか?レオンの記憶にはもちろん、賢人の記憶でもハッキリした違いが思い出せない……
「う~ん……確か……」
つい独り言を呟いてしまったがなんとなく思い出した。
何かで見た気がするけど、騎士は僧兵と同列のもので、僧兵は僧でありながら武術を身に付けて戦う者で、騎士の場合は宗教が違うから神官や修道僧が剣をもって戦う人を指すんじゃなかったか……うろ覚えだけど……
だとすれば今の状況にはもってこいの職業、能力じゃなかろうか?いや、ここは間違っていてもそうだと言えばなんとなくいけるだろ。
剣を持って戦う神官が聖騎士だとするなら他人から見られるときのステータスを聖騎士(仮)にでもしておけば神官(仮)が剣を覚えたことで聖騎士(仮)になったと言えるんじゃないだろうか?それに立場的にもってこいだし……
前にカルラ・ウィーラーさんが僕たちを鑑定した時にハッキリと全ステータスを確認できなかったことから職業を適当に改変したところで大勢に影響しないと考えておこう。
僕はステータスを改ざんして明日に臨む。
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