ハーバリウム

郷野すみれ

第1話

大学祭ではあるけれど、お祭りの浮き足立った雰囲気は、やっぱり苦手だ。どうしようかな、と冷めた目を隠しきれずに廊下をまわる。偶然、向こうから黒いスーツ姿の、パンキョーのゼミの後輩である修斗君が来るのが目に入った。珍しいけれど、細身でとても似合っていてかっこいい。手にピンク色の何かを持っているのが少しミスマッチで面白い。


「あっ、咲さん。ちょうどいいところに」


 一気に天にも昇る気持ちになる。探していた? いや、そんなはずはないだろう。落ち着け、私。


「何?」

「まず、はい、これ」


 そう言って手渡されたので、思わず両手で受け取る。それは、手に持っていた、ハーバリウムのペットボトル版。ピンクのお花が詰まっている。ピンクは私の好きな色だ。どこかのイベントで作ったのだろうか。


「え、いいの? ありがとう!」

「今日この後、サークルとかで飲み会あります?」


 話しかけられたので、見入っていたお花から目を離して、修斗君を見上げる。


「いや、ない。誰も企画していないし。あったとしても行かないだろうけど」


 いつものような私の言葉にふっと笑った修斗君が呟く。


「じゃあ、予告していた通りにゼミのメンバーでやるかー」


 予告、私聞いていないなと少し落ち込みつつも、混んでいる廊下をお互いなんとはなしに歩くと、混んでいるから不可抗力で肩とか腕とかがぶつかり、触れ合う。顔が熱くなっている気がする。うう、平常心、平常心。階段まで来たら私はそのまままっすぐで、修斗君は下ろうとする。


「じゃあ、また」


別れた直後、そういえばなんで私の予定を聞いたのだろう、とハーバリウムを握り締めながら疑問に思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハーバリウム 郷野すみれ @satono_sumire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ