第3話ターニングポイント1:氷魔聖帝との邂逅

村長の案内が一通り終え、地面に深く根を張った斬り倒された木の断面に腰を下ろしていた私は、額に深々と皺をつくり唸る姿の村長を見上げた。

「うぅぅむぅ……うぅぅ……どうしたものかぁ……あやつに……やはり、会わせない方が……うぅむぅ」

「あのぅー……どうされましたか、村長さん?」

「……ああぁ、すまないねミシャアルさん。気は進まないのじゃが……良いかね、ミシャアルさんや?」

「……?ああ、はい。私は……」

私は首を傾げ、一瞬遅れながらも返答した。

「休んどるとこすまないがね、付いて来てくれんかいミシャアルさんや?」

「分かりました。どちらへ……?」

腰を浮かせ、立ち上がった私は村長が歩き出した背後をついて行く。

「まあ、そないに警戒せんでくれい。とって食おうと言っとるんじゃないじゃ……儂らにとって付き合いが難しいというだけのヤツでな。まあ、お嬢さんとは年齢としが近いんじゃし気は合うと思うてな、会わそうと思うとるんじゃよ」


進んでいくうちに、地面が雑草で生い茂り始めていく。

木々が密集した森に足を踏み入れる頃には、雑草が膝あたりまで伸びており掻き分けなければ

ならないほどだった。


森を抜け、腰あたりまで伸び続ける青々とした雑草を掻き分けた先には、母親が読み聞かせてくれた書物に出てきた木造のコテージらしき建物が建っていた。

今にも倒壊しそうな木造の建物で、朽ち果てた建物に見え、誰かが住んでいるようには見えなかった。

雑草は相変わらず生い茂っているが、くるぶしよりも短い。

扉に続く薄い木板の階段を一段ずつ上がる村長。階段はギィギィと軋んでいた。

扉をドンドンとノックしながら家主と思われる名前を叫ぶ村長。

「エクヴィドルアさんっ、おらんかい?エクヴィドルアさん、おるんなら出てきてくれんかい?エクヴィドルアさんや——」

20分も呼ばれ続けた家主さんが不満を露わにした表情で姿を見せた。

「うっせぇなァ、じぃさんよぉ〜……って、何の用件で来たんだよ暇人よ〜ぅ!」

「ああ、すまないね……急に押し掛けてすまなんだ。この村に住みたいって来たお嬢さんを案内しておって——」

怯えながら声を震わし続ける村長の話を遮り、突然叫んでから、階段の下で立ち尽くしている私のもとに大股で近付いてきた華奢な身体の少女。

「お嬢さんだとぉーッッ!それを早く言えってんだッッ!」

「怯えさせて悪かったね、可愛い子が居るとは思わなくて。さぁさぁ、もてなせる程の自宅うちじゃないけどあがってあがって!」

奇抜な髪色をした髪を揺らしながら肩を掴んできて招く少女に圧倒されて、促されるままに木造の建物の敷居を跨いだ私だった。


村長の足音が遠のいた頃に奥へと姿を消した少女がワイングラスに似たガラスの器を片手に持ちながら、満面の笑みで近付いてきた。

「警戒しなくていいんだよ。怖くないよ〜優しいからね、私」

「ああ……はい……」

「暑いのに大変だったね。口あたりが良いからお嬢ちゃんに。おかわりがあるから、遠慮せずに言ってね」

警戒心をほぐそうと、片手に持った透明な何かが山盛りに盛られたガラスの器を差し出してきた彼女。

「えっと……あのぅ、これは……?」

「えっ?あぁー知らないんだ……かき氷って言うの、これ。毒なんか盛っちゃいないから、安心して食べな」

「カキ、ゴオリ……?う、うん……あ、ありがとう、ございます。いっ……いただき、ます」

聞いたことのない名前を呟き、警戒しながらも恐る恐るスプーンを握り、山盛りに盛られた透明な何かを掬い口に入れる。

口の中が一瞬にしてヒンヤリと冷たさが広がり、思わず驚きの声をあげた私。

「わっ!冷た……美味しいです!美味しいです、えっとこれは……どういう食べ物なんですか?」

「あははっ!でしょ〜ぅ、美味いんだよかき氷って!氷を細かく削った食べもんだよ、そんだけなのにすっげぇ〜美味いだろ!」

豪快な笑い声をあげ、誇らしそうな表情を浮かべながら、説明してくれる彼女。


居間に通された私は、彼女に促されて椅子に腰を下ろした。

「ウチはエクヴィドルアってんだ。訳あって、この村に住んでるんだ。これからよろしくね。あーっと……」

「私はミシャアルと申します。これからよろしくお願いしますぅっ、エクヴィドルアさん!」

「ぷぶっ、申すって……かしこまんなくて良いよ、ウチになんて」

吹き出し、笑う彼女は毛先だけが赤く染まる鮮やかな青髪を揺らしながら愉快そうに笑顔を向ける。



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厳しい実家を離れ、スローライフを満喫したい 闇野ゆかい @kouyann

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