降りた幕の裏――少し過去の話【完結】

「おいおい。こんなところに隠し扉があるぞ!」

「本当だ。3年もこの部屋を使っていたのに気づかなかったぞ、兄弟」

「奥には……図書室だ。ずいぶんと蔵書が多い」

「それにだいぶかび臭いな」

「うん? この棚、動かないか?」

「本当だ、これはなんだ?」

「もしかして」

「もしかして」

「とうとう見つかってしまったのですねぇ」

「おや。俺もなまってしまったか、置いてけぼり先生の気配に気づかないとは。さては先生、ここの存在を知っていたのだな」

「と、いうことは、もしかしてこの部屋は弟が使っていたのか」

「さようでございますよ。ここは最初の主の王女様が、幽閉される際に建てられた館。どうやら、当時の父君たる国王様方が哀れみを覚え、この図書室をこっそり作ったようです。ちなみに、この棚はこのように」

「ほぅ。こんなところに隠し通路か。もしや外に出ることができるのか」

「国王様がお忍びで王女様に会いに来られていたそうでございます。当時は貴族たちからの苛烈な批判があり、こうして忍んでお会いになられたみたいですね」

「もしかしてあの時、弟はここから逃げたのか?」

「さようでございますよ。この出口を知らなかった兵士たちは、てんで見当違いのところをお探しになったようですねぇ。ははは。笑えるではございませんか」

「開いていた窓から逃げたと思ったからな」

「さすれば、俺達もここから外に出ることができるというわけだ」

「そういうことだな」

「どうぞご勝手に。わたくしはあなた様方の監視役でも先生でもございません」

「はっは。お前はいまだに弟の教師なのだな。まだ弟に置いてかれた事、根に持っておるのか」

「なんのことやら」

「弟は今、自由なのだろう。王家に関係のないところで」

「さようでございます。もう王家とは一切の縁もございませぬ。ゆえに王家に瑕疵などございません」

「何度も聞いたさ」

「……ゆえに第二王子様方の罪もごさいません」

「……何度も聞いた。しかし、傷つけ血を流したのは事実だ。恐れ多い罪だ」

「何度も聞いております」

「そういえば、そろそろ弟達が来る時間だな」

「また隣国との揉め事が起きたとか。きっと泣きついてくるぞ」

「国王の座について何年たっていると思っているのか。どれ大いに泣かしてやろうか」

「……どうやってそのような情報を……」

「まぁ、これでも一度は王座に一番近かったのだからな」

「退屈だがそれなりに楽しくやっている。お前も案ずるな」

「案じてなどおりませぬ」

「さて。戻るか兄弟」

「そうだな。我が半身よ」


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王子の帰還 トーン @toooooooooon

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