庭師
ワシ等は幼少の頃からジジイに連れられて、このあたりの庭木のお世話をさせていただいています。
特にこの館の庭の手入れを行うのは、ワシ等だけと決まっております。
館におるのはお二人の高貴なお方です。どういった方かは……いえ、無駄な事は言いますまい。
とにもかくにも、お二人は長く長くこの館に留まられており、入ってから一度たりとも敷地の外へは出ておられないようです。ワシ等よりも少しお年を召しておらておいて、孫が成人していてもおかしくないご年齢ですが、今でも度々庭に出ては、お二人で剣の稽古をされております。時折門番の兵士を相手にしておりますが、まだまだ若い者たちに引けを取らない腕前です。これがもっと若いころだったならば、その強さは国どころか、世界にその名が知れ渡っていたのではないかと思うのです。
この館は様々な名前で呼ばれており、咎人の館などという別名もございます。そう、何か罪を犯した高貴なお方が住まう場所です。しかしあんなにも快活なお方が、大きな罪を犯したのかと信じられぬ思いでございます。庭からお見掛けするお二人のご様子を見ると、とても穏やかにお過ごしになっているようです。
「お館様。庭のお花が咲きました。よろしければお部屋に飾っていただけると幸いにございます」
膝をつき、先程摘み取った花を差し出した。
「おお。庭先に咲いている花だな。今年も紫の花が咲いたと二人で話しておった」
「ラドリンという花です。これは花弁も種も根も薬に使うことのできる花でございます」
「ずいぶん可憐なのに優秀なのだな」
「はい」
「気に入った。あのおいぼれ先生に活けてもらうか。植物のことは詳しいからな」
「かしこまりました」
昔は気にも留めないようでしたが、今は花や木にもお心を向けられるお二方のために、ワシ等もよりいっそう草木の世話に精を出そうと思っております。
最近、風も暖かくなってきております。春の一番風が吹くのももうすぐでしょう。
ワシ等はこの季節が一等好きでございます。草木が芽生え鳥たちがさえずり、冬の苦しい季節を乗り越えた動物たちが生きるために動き出す。しかし、夏よりも苛烈ではない。
庭師の
腹の出たこの身体で不細工な踊りでも踊って、喜びを天に届けたいと思います。戦争も飢饉も災害も無い今のこの世界を。
すべて世は事も無し。天におります神に感謝を!
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