理想の先輩
夏伐
バブル
先輩はぼくの理想ともいえるサラリーマンだった。
ぼくよりも一年先輩というのが信じられないほど仕事が出来る。結婚していて最近子供が生まれたばかり。部下にも慕われて、上司にも可愛がられている。
将来は先輩のようになりたい。
そう思っていた。
そんな先輩は「遊ぶのも仕事だけど、ほどほどにな。俺はすぐに帰るけど」と言いながら帰宅する。可愛らしい奥さんが待っているお家にウキウキと帰っていく背中はやっかみと羨望の視線が集まっていた。
だが突如として、そんな先輩が変わってしまった。
目をギラギラさせてずっとスマホを見る。小さな事でもイライラして怒鳴るようになった。そしてしばらくして先輩は会社を辞めた。
ご両親の説得により実家に帰ったらしい。
先輩のご両親が会社に来て事情を話していた時に盗み聞いた話だ。
ぼくは先輩をとても慕っていたから、壁の薄い会議室の隣の壁にぺったりと張り付いていても見逃してもらえたようだ。
なんと先輩はFXに憑りつかれていたらしい。
そして読みを間違えて大敗。何とか取り戻そうとして貯金をつぎ込んでさらに負け、借金を背負ったそうだ。
「子供が生まれたばかりだっていうのに……、何も辞めることはないのではないですか?」
先輩はかなり優秀だった。上司はご両親を説得しようとしていた。
「――は?」
「いえ、これからお金もかかるでしょうし……」
「あの、息子は独身ですが?」
「えっ? 家族の写真を机に飾っていましたよ? ボブヘアの可愛らしい……あれ?」
「はぁ……、でも結婚なんてしていないはずですよ」
かみ合わない会話。上司がよくよく聞きだしてみると、なんと先輩は親戚の写真を奥さんと子供だと偽って会社で話していたようだ。
理想的なサラリーマンだった先輩。僕は先輩を目指して一生懸命働いていたけれど、先輩は先輩の理想の世界で生きていたのか。
俺の理想は虚像だった。俺の中で先輩の株が大暴落していく。目の前が真っ暗になった。
理想の先輩 夏伐 @brs83875an
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます