第2話 危機
そろそろ暮れ方だ。どれくらい歩いただろうか、視界の先には斜陽に照らされているなだらかな山々とその麓の小さな村らしき影が見える。
段々と木々が存在を表し、もう真っ暗な森が広がっている。まだ村までは遠く、暮れまでに抜けるのは無理だろう。
「今日はここで野宿か、夜ご飯はどうするかな」
森の手前に流れる小川のほとりに腰掛ける。すでに夕方ととれる時刻だが、そこまで寒くはないようだ。
(問題はご飯か、今何も持ってないし……狩りをするにはちょっと暗すぎるな。となると)
旅人はおもむろに森の中へ進んでいく。松明も何もない暗闇で、かすかな木漏れ日が頼りだ。ところどころに岩場やトゲがあるようで、旅人のブーツは鈍い音を立てて進んでいく。
(あったあった、食えるのかな)
そこには小さい木の実が実っていた。巨木たちに栄養を持っていかれているようで、葉も実の数も僅かだ。しかし、木の実の色は清純な茶色をしていていかにも食べれそうである。自然と手が伸びて、口の中に放り込む。
「ふむ、結構うまいな。回収するか……って、痛っ」
木の実を取ろうとして横の棘のあるツタに引っかかってしまった。左腕からかすかに血が流れる。見たところ毒は無さそうでホッとする。
(まあ寝たら治るか。それより早く戻らないと結構怖いな)
随分奥まで進んできた故、まるで深夜のように何も見えない。最後の手がかりの木漏れ日も今にも消えそうだ。安全に気をつけて、来た道を手短に戻る。
何か聞こえる。遠吠えか叫びか、どちらも嫌な予感しかないが。
「グルルルルル」
前者が正解らしい、辺りにギラギラと輝く目が見える。やがて暗闇から身を呈したそれは犬くらいの大きさで、まさに狼といったところだろう。目視できるのは3体というところだ。
(狼か、戦っても勝ち目はなさそうだな。となれば)
「逃っげるんだよおおぉおお!?」
隙を縫って逃げたつもりが、次の瞬間にはもう何メートルも離れていない位置に狼が走っている。とても逃げきれなさそうだ。
(狼ってどうするんだよ。犬と同じなら持久力はないのか、いやその前に追いつかれるぞ、どうする……そうか、ここは森だぞ)
狼はもうすぐ横に並びそうだ。そして、ついに狼が旅人を噛もうと跳躍した瞬間に、旅人は後ろへ飛び込んだ。狼の上を通り過ぎ、そのまま慣性に身を任せ、近くの木を掴む。そして慌ててその木をよじのぼった。
高さは4、5メートルはあり、下で狼が辺りを囲んでいるが、届かないようで見上げているだけだ。
(狼は跳躍力はあんまりないらしいしな、木も登れないし)
しかしながら、一向に狼たちはこの場を去ろうとしない。
(……今日はここで野宿みたいだな。というかさっき木の実落としたんだけど)
湿気と呻き声の中、旅人は眠りについた。
天理の旅巡り エンジョイ @enjoy15
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