天理の旅巡り
エンジョイ
序章 始まり
第1話 旅の発端
朧げな視界に2つの光が見える。1つは真紅の炎だろうか、もう片方は煌めく閃光、その中に人がいるのもわかる。その2つが混ざり合い、お互いを揉み合い、そして散った。そして見えるのは、穢れた大地と鉛色の空と、英雄だけだ。
それが現実なのか夢なのか、はたまた絵画なのか、まどろみかけている私の目にはわからなかった。目が段々と重くなり、その英雄は既に見えなくなってしまった。
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目を開けると、そこは眩しかった。空からは太陽光が降り注ぎ、木々を揺らす風が頬を心地よく撫でいている。自然の恩恵を十分に受け取って、やっと脳が違和感を感じる。
「……ここ、どこだ?」
その問いに応えるものはいない。先程までいたジメジメとした重い空気の空間、そう、2つの光が見えた。しかし、その光景を鮮明に思い出そうとするたびに更なる違和感を感じる。
あの光景の前、自分はどこにいたのか、何をしていたのか、さっぱりわからない。ただはっきりと、自分は何かを追い求めていること、何か成さなければいけないことがあると魂が呼びかけてくる。
とにかく、進むしかないだろう。
しかしながら、四方には地平線まで草原が見渡せる。どこへ行くべきか、こういう時は直感に頼るのが一番だろう。
「どこでもいいな……前か」
旅の第一歩を踏みしめながら、爽やかな風に吹かれる。蒼天の下、限りなく続く草原の上で、一人歩く旅人がいる。まだ輝く星々は見えないが、彼を幾久しく見守ってくれるだろう。
歩みを進めながら、旅人はこれからの運命に思いを馳せる。
過去の記憶も、未来の希望もない。ただ、己の心に、衝動だけに動かされている。まだ弱々しいが、たとえ水をかけられようと屈強な風に吹かれようと、絶対に消えないだろうという確信が持てる。木々が強風で簡単に倒れないように、心の火も体に深く根を張っているだろう。
しかし、旅を進めば記憶は戻るだろうか、自分の存在意義はわかるのだろうか。旅立ちの時はすでに過ぎ去ったが、旅はまだ始まっていないだろう。
どちらにせよ、それはこれから決まることだ。運命に身を任せればよい。今はただ、道なき道を進んでいくだけで運命は動いているのだ。
いまはただ進もう。未来を目指して。
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