終章

その日は、秋がやってきたというのに、何故か暑い日で、半袖で居なければ、行けないかなと思う日だった。何故か知らないけれど、最近そういう日が多い。いつまで経っても夏のような暑さで、暑い日が続いて、大規模な台風が、何回もやってくるという日がいつまでも続いてしまうのだ。幸い、日本付近に台風が直撃しないのがまだいいところなのであるが、被災した国家では大変な事になっていることだろう。それを、大変だなあと思いながら、黙って見過ごすしか無いというのが、一般人にできることである。

その日も、杉ちゃんとジョチさんは、製鉄所で着物を縫ったり、書類を描いたりしているのであったが。いきなり、ドドドドッと走ってくる音がして、華岡が、飛び込んできた。

「おい!大変だ大変だ。事件が一気に展開したぞ。あの、二胡奏者の殺害の犯人が逮捕されたんだ。と言っても、別件で逮捕されていて、再逮捕でもあるけどな。」

「まあ待て待て、落ち着きな。本当に、逮捕されたんだろうか?本当に犯人だと思われる、証拠でも出たのかよ。」

と杉ちゃんが、華岡に言った。

「とりあえず、まずは概要を話していただけないと、僕達は何も、わかりませんね。ちゃんと落ち着いて喋っていただかないと困ります。」

と、ジョチさんが華岡をたしなめた。ああそうだったなあ、ごめんごめんと言って、華岡は、額の汗を拭き、ちょっと呼吸を整えて、急いで話し始めた。

「まずはじめに、犯人の名は、鈴木誠司という男で、年は、23歳。覚醒剤使用で取り調べて居たんだが、そのときに、二胡奏者殺害を口にしたため、再逮捕したというわけだ。一週間前に、覚醒剤使用で捕まえたんだが、なんでも、殺人を依頼するウェブサイトに、書いてあったので、それを実行したという話だ。」

「はあ、、、。で、そいつは、どうやって、三浦良太郎さんを殺害したの?」

と、杉ちゃんが聞くと、

「ああ。なんでも、宅配業者を装って、三浦家に侵入し、電気コードで首を締めて殺害したということだ。それで、自殺を図ったかのように細工した。そして、また何食わぬ顔で帰ったそうだ。全くなあ、金のためとはいえ、平気でそういう事をやってしまうやつが居るとは、信じられないよ。」

と、華岡は答えた。

「ということはだよ。それでは誰か、指示を出したやつが居るってことだよな。それは一体誰かなあ?」

と、杉ちゃんが聞くと、

「まあ、それは、鈴木の供述を聞いていればわかると思うけど。俺たちも、まだ、何もわかっていないところなのでな。」

と、華岡は答えた。

「何だ。そういうことだったのか。じゃあまだ、事件の事は、はっきりわかってないわけね。それで、あの三人の女性と、その鈴木なんとかっていう男の、関係性なんかはわかったの?」

と、杉ちゃんは言った。

「それがねえ。」

と、華岡はいう。

「それが、小林萌、戸倉文、岡本妙子の三人に聞いてみたんだが、だれも鈴木誠司という男を知らないんだそうだ。それに、三人は、三浦良太郎を嫌なやつだと思った事は確かにあったそうだが、そのようなウェブサイトにアクセスしたことはないし、殺害してしまおうと思った事は、無いと言っていた。三人とも涙をこぼして言っていたので、間違いは無いと思うよ。」

「なるほど、、、。そういうことですか。じゃあ、三人の女性が顔をあわせた事はあったんでしょうか?」

と、ジョチさんが言うと、

「ああ、そこははっきりしている。彼女たちは、水穂さんが言ったとおり、水穂さんと、共演したコンサートで顔合わせしている。三人の女性が、コンサートホールから出てきたのが、目撃されている。三人とも、仲の良さそうに話していたこともわかっている。」

と、華岡は答えた。

「じゃあやっぱり、あの女性たちは三浦良太郎さんに習って、すぐに上の先生に引き渡されて、それに馴染めなかったというのもあったのかな?」

と、杉ちゃんが聞くと、

「うん、それは確かにそう言っている。そういう事は、俺も、彼女たちから聞いた。でも、彼女たちは、本気になって、三浦を殺害というわけには至らなかったようだ。」

と、華岡は答えた。

「そうなんだねえ。じゃあ、ウェブサイトに書き込んだのは、誰か別の人が居たってことだね。そういうことなんだな。それが一体だれなのか?」

「そうなんだよね。まあ、あのときのコンサートで、三人の女性を目撃した人に、事情を聞いてみたいんだが、何しろ、市民センターのホールは満席だったようで、その中から、絞り出すのは、難しいよ。」

杉ちゃんがいうと、華岡はそう言って頭をかじった。

「顧客リストとか、そういうものはなかったんですか?」

ジョチさんがそうきくと、

「それがあれば苦労はしない。何しろ自主公演だったので、そういうスポンサーがいれば公演の記録がもう少し残っていると思われるが、そのようなものが一切なかった。」

と、華岡は言った。

「それじゃあ、動機はあって、実行犯は逮捕されて、それで、その2つを結びつけた人物はどこにもいないってわけか。はあ、変な事件があるもんだ。でも、実行されてんだから、どこかに居たってことだと思うけどな。」

「まあ、その当たり、また調べてみるのも警察の仕事ですよね。しっかりやってくださいよ。そのところまで、ちゃんとやらないと、警察は、何もしていないって、また叱られますよ。」

ジョチさんは、華岡に言った。

「はい、すみません。俺たち、ちゃんとやりますから、バカにしないでください。」

と、華岡は言ったのであるが、もう事件は終わったという魂胆が見え見えで、もう解決してしまったと言いたげであった。

「本当にちゃんやるの?事件が多すぎて、もう解決した事は、もういいやで終わりにしちゃうんじゃない?」

杉ちゃんが華岡にいうと、

「はい!わかりました!ちゃんとやります!」

華岡はムキになってそういった。これでちゃんとやれるんだろうなと、杉ちゃんたちも思った。

「それにしても、三人の女性が喋っていたのを、インターネットのウェブサイトに書き込んで、事件を実際に起こした人物が居たというのがわかっているという、おかしな事件だったな。」

「そうですね。もしかしたら、彼女たち三人も本心で喋っていたわけではなかったのかもしれませんね。じゃあ、インターネットのウェブサイトに書いたのは、誰ですかね?」

杉ちゃんとジョチさんは、お互いの顔を見合わせてそういう事を言った。同時に、華岡のスマートフォンが鳴る。

「もしもし、華岡です。ああ、ああ、もうそんな時間か。すぐ行くから待ってくれ。よろしく頼むな。」

と、華岡は、急いでそう言って、スマートフォンを切り、

「杉ちゃん、ジョチさん、悪いけど、捜査会議が始まってしまって。」

と言って、椅子から立ち上がり、急いで製鉄所を出ていった。

「あれが本当の捜査会議なんですかね。それとも、また別の事件でしょうか?」

ジョチさんが、それを眺めながらそういう事を言う。

「さあねえ。いずれにしても、実行犯が逮捕されれば、終わりになっちまうのが、警察だからさ。」

と、杉ちゃんが言った。

その頃、戸倉文の家では、戸倉文がパソコンに向かってなにかしている。小林萌の家でも同じことをしている。そして、遠く離れた福島で、岡本妙子が、同じ様にパソコンに向かって、一生懸命キーボードを操作していた。と言っても、話す内容は、三浦良太郎が、殺害された犯人が捕まったということで、私達は、そんな事思ったことは一度も無いのに、と思っていたのに、まさか本当にやっちゃうとは、恐ろしい世の中だわと言っている内容であった。彼女たちは、電話ではなく、ウェブサイトを経由して文字で会話している、いわゆるチャットというものであった。思えば、自分たちが、知り合ったのも、ウェブサイトを経由してのものであった。ウェブサイトのプロフィール欄に二胡を習っている事を書いたら、三人が顔を合わせただけのことだ。彼女たちは、それ以外の付き合いでもなかった。別に深い付き合いは無いと思っていた。同じ二胡の先生について、同じ様に、上の先生に引き合わされて、失敗をしたというところだけが共通していたから、話が盛り上がっただけの事。特にそれが、なにかに繋がったわけでもない。それが、実際に事件にいたってしまったとは。彼女たちは、チャットでそんな事を話していた。

「私達、別れたほうが、いいのかな?」

戸倉文と書かれた文字の隣に、こんな文字が浮上した。

「まあ、三人居ると、マスコミにも追いかけられるでしょうし、なにかいわれても嫌だしね。」

と、小林萌と書かれた文字の隣に、その文書が浮上する。

「大事になっちゃったし、もう私達は、居ないほうがいいかもね。実際に事件が起きるとは、考えても見なかった。声はすぐに消えるけど、文字は残っちゃうのね。そんな事、よく思い知らされた事件だったわ。」

ちょっと文字を打つのに長けている、岡本妙子の文字から、こんな長文が浮上した。

「すごいね。妙子さんは、やっぱりコンピューターを使いこなしてるね。」

「あたしたちは、ただの主婦だし、妙子さん見たいに、なにかコンピューターを使いこなしてたようなことは、できないわよ。」

二人の女性は、岡本妙子に、そう言っているが、妙子はちょっと後ろめたさというか、そんな気がしてしまった。実は、妙子は、クラウドソーシングを少々やっていたのだ。それで、そのウェブサイトの募集記事に、二胡教室についてのアンケートなるものが、掲載されていたので、そこに正直に書いただけのことだ。それなのに、なんで、それが、殺しの道具になってしまったのだろうか?妙子は、自分の責任なのだろうかと思ったが、それで、報酬ももらったのだから、ちゃんと仕事としてやっただけなのに。

「まあ、これで、あたしたちも終わりかな。じゃあ。またどこかで。」

「はい。」

「ありがとうございます。」

三人の女性は、こうして別れたのであった。

またしばらく経って、やっと秋らしい日が、ちらりほらりとやってきた。台風もあったけれど、今回は日本列島を直撃しないでくれたので、皆普通の生活を送ることができた。製鉄所でも、日常生活が続いているのだったが。

「水穂さんどうしたんですか。そんな考え込んだような顔しちゃって。」

と、ブッチャーが聞いた。水穂さんは、布団の中でなにか考えていた。

「いえ、あの、三浦さんがなくなって、もう、何ヶ月経ったのかなと思って。」

「はあ、またあの人のこと考えてるんですか。少々考えすぎですよ。それでは、いつまで経っても、進歩しませんよ。確かに、水穂さんにとっては、大事な共演者だったかもしれませんが、思い出し過ぎも行けないんじゃないですか?」

水穂さんがそう答えるので、ブッチャーは代わりに言った。

「でも、僕にとっては、とても優しい方でしたから。」

「そうですねえ。まあ、そういう思い出が少しでも残っているんでしたら、いい人何じゃないですか。その人は。」

ブッチャーは、とりあえずそういう事を言っておいた。水穂さんには、もうその人のことは考えないでほしいと思ったが、水穂さんには無理な話かと思った。


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さいま 増田朋美 @masubuchi4996

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