第50話 魔のタワー9階10階
階段をあがり、九階のドアをあけた。
おどろいた。赤い絨毯だ。ワンフロアぶちぬきの広い空間に、赤い絨毯が敷かれていた。
天井はむきだしのコンクリート。しかしそこから、いくつものシャンデリアがぶら下がっている。きらびやかな灯りで広いフロアを隅々まで照らしていた。
真っ赤な絨毯が敷かれたフロア。なにもないが、中央にふたつだけ。大きなダブルベッド。その横にグランドピアノ。
あいつ、こんな部屋で暮らしていたのか。真っ赤な絨毯にシャンデリア。豪華な部屋のはずが、おれにはとても寒々しく思える。こんな部屋でひとり。おれなら一ヶ月でも暮らしたくない。
いや、もっとか。吸血族は何百年と生きるはず。思えば、あいつ、ずっとひとりか。
ひとりというのは、人を狂わせるかもしれない。それでも、この世界をホームシックの道連れにされたら、たまったもんじゃない。
中央に置かれたベッドと、グランドピアノ。それを横目で見ながら、広いフロアを横切った。
ドアをあける。上へ登る階段だ。ここまで来たら罠はもうないな。おれは階段を駆けあがり十階のドアをあけた。
「マジか!」
十階のフロアを埋め尽くすもの。それは魔石の山だ。
積まれた山の大きいものでは自分の身長ほどある。透明な水晶だけでなく、赤、緑、黄色、さまざまな色の石があった。これ、宝石として使えないのかな。質屋の出張買い取りを呼びたくなった。
そして、魔石だけはない。アンティーク調のキャビネットや、古い時計などもある。魔石の山のあちらこちらに無造作に放り投げてあった。魔導具か。ありとあらゆる物から魔力を集めたんだな。
それに年代物の壺、あとは・・・・・・絵画? 魔石の山から半分見えているのは『ムンクのさけび』じゃないだろうか。たしかに、あれは魔力が込められていそう。まあ、見なかったことにして、さきを急ぐ。
魔石の山を縫うようにして歩いた。その中で、ひとつの山の一番上だ。見た覚えのある小さな木の箱があった。封じ箱か!
死神を封じて売りにだした小箱。坂本店長のところから、日本にあるほかの道具屋が買い取ったらしいが、ここに来てたのか。
魔石の山に登る。まちがいない。封じ箱だ。別名パンドラの箱。
リサイクルって重要だ。これで瀬尾を吸いこめば一発じゃないか。山の頂上に置かれたそれを手に取る。
「痛っ!」
激痛が走り、すぐに手を離した。なんだか、ウニを『ぐわしっ!』とつかんだような痛みが走った。ウニをつかんだことないけど、そんな痛みだ。
これは無理か。あの坂本店長が、魔方陣の描かれた紙でつかむはずだ。
封じ箱はあきらめて魔石の山からおりる。近くにドアがあった。屋上にあがるドアだろう。
ドアの前まで行き、リュックをおろした。中からブリザード・ボールをひとつだす。
それからリュックを背負いなおした。右手にブリザード・ボール、左手には革の盾を持った。
ドアの前で深呼吸する。
やるべきことは単純。玲奈を助けることだ。ついでに吸血族を倒し、ついでに魔方陣を壊し、ついでに世界が崩壊するのを防ぐ。
メインは玲奈の救出だ。それなのに、ついでが大きい気がする・・・・・・。
いや、気にしない。絶対に助ける。それは道理や確率でもない。絶対にだ。
「よし、行こう」
おれは顔をあげ、屋上へあがる階段へのドアをあけた。
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