第48話 魔のタワー7階は台所
やっと七階だ。
六階のプールはやばかった。プールをわたったあと、何匹か小さなピラニアが食いついていた。制服のすそや小さな絨毯のはしに鋭い歯でガブっと。そいつらをはたき落とし、やっと階段をあがってきた。
階段をあがり七階のドアをあける。ここも工事の途中だ。しかし向こうのほうから電灯の灯りが漏れている。
むきだしのコンクリートで造られた柱、それに区画を分ける壁。進んでいくと、奥に明々と電気の点いたエリアがある。換気扇のようなフード、うしろにあるのは冷蔵庫?
・・・・・・つまり、キッチンか!
今風のシステムキッチンだ。コンクリートの壁に囲まれたひとつの区画に作られている。もちろん駆け寄った。
シンクには蛇口が付いている。ひねると水がでた。
これ、罠ってことはないよね。ちょっとなめてみる。ただの水だ。問題はなさそう。食器棚もあり、ワイングラスなども入っていた。
ワイングラスを棚からだし水を入れる。なんかこのグラス、輝きがちがう。クリスタルとかじゃないだろうか。
高級ワイングラスで水道水を飲み、ひと息つく。やっと、パッサパサの口が治った。おそるべし、呪いのクッキー。
リュックからオニギリをだし、ひとくち食べた。うまい。からだは疲れも感じてきている。オニギリはありがたい。左手に盾を持ち、右手にオニギリを持った。
キッチンの奥にはドアがある。右手のオニギリを口にくわえ、ドアをあけた。
見えた光景に思わずおどろき、くわえたオニギリを落としそうになる。あわてて右手で受けた。
リビングだ。普通のリビングルームがある。
大きなリビングテーブルに、革のロングソファー。おお、その長いソファーの上にはペルシャ猫が丸まって寝ている。
「キシャァァァァァァ!」
えっ? ペルシャ猫が鳴いた。ひらいた目は赤い。魔獣かよ!
からだを沈め飛びかかろうとしている。猫にオニギリを思わず投げた。空中で猫の顔とオニギリがぶつかり二つが落下する。おれは急いでドアを閉めた。
あ、あぶねえ。
スマホが震えた。取りだしてみると坂本店長からメールだ。
「言い忘れたが、吸血族は自分の血を飲ませて動物を配下にできる。ペットがいたら魔獣化しているので気をつけろ」
店長、それは早く言おう。
ということは、あの吸血コウモリなんかも輸入して、自分の血を与えて魔獣化させているのか。なんだかあの瀬尾って男は、女に薬を盛ったり、動物に血をやったりと、やることが、いびつ。
とりあえず問題は、あの『魔獣猫』だ。リビングの向こうにドアがあった。上に登るドアと見てまちがいないだろう。
キッチンの戸棚をあける。調味料などがあった。ペペロンチーノのソースもある。あんにゃろ、室田邸でニンニク爆弾の匂いを嗅いで、ほんとに買いやがったな。
キャットフードの缶詰もある。これで気を引けないか。ふたつ取り出し、小さめなのでポケットに予備として入れた。もうひとつのフタをあける。鮭缶みたいな、おいしそうな匂いがした。
いや、待てよ。
キッチンを探る。欲しいものはあった。ビニール袋とトングだ。
それを持って、さきほどの階段を降りる。プール手前の部屋までいくと、床に何匹かのピラニアが落ちていた。まだピチピチ動いている。
トングを使ってビニール袋に入れようとしたが、トングだとすべる。けっきょく、噛まれないように尾びれを手で持った。
「うぇぇぇぇい!」
二匹目をつかんだ瞬間、めっちゃ暴れるのでビビった。
七階にもどり、キッチンへ。
盾をいったん置き、左手でビニール袋を持つ。そして右手はドアノブへ。
「そりゃ!」
ドアを少しあけ、ビニール袋を投げ入れた。そしてすぐにドアを閉める。
しばらく待った。
「キッシャァァァァァァ!」
あのへんな鳴き声が響いた。そっとドアをあけて中をうかがう。
魔獣猫は床の上でピラニアと戦っていた。ピラニアが魔獣猫の顔に噛みついている。よし、ここだ!
盾をひろい、ロングソファーの上に飛び乗って走る。部屋を横切り、向かいのドアをあける。階段だった。すぐに入ってドアを閉める。ふー、七階クリア!
あわれ魔獣猫。これは頭脳戦だな。時には手を汚さず勝たないと。そう思ったが、魚をつかんだ手からは、生臭い匂いがただよっていた。
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