第47話 魔のタワー6階の水際
六階のフロアは、なんと天井に蛍光灯が点いていた。
このビルは、外側が一面ガラス張りの構造だ。そのため街の灯りや月明かりが入り、室内でもなんとか見えた。だが、やはり電気の灯りがあると落ち着く。
周囲を確認した。なにもない部屋だ。さきに続くドアがひとつあるだけ。
ここまで、あわてすぎな気がする。床に腰をおろした。一度落ち着こう。リュックに入っているものも確認したほうがいいと思う。
『ドルイドの薬草』そして『人型の呪いのクッキー』は全て使った。あとは、さきほど置いてきた『ピンク・ランタン』だ。
リュックをあける。まず、かさばっているのがこれ『魔法のランプ』だ。霧の巨人がでるというオモチャ。ランプをひとまず床に置くと、次に見えた魔導具にため息がでた。
「ウソやん店長、戦力になりまへんやん」
袋に入った5枚の金貨。坂本店長が『消えるコイン』と言った品だ。
まあ、とりあえず金貨の入った袋も床に置く。その下、なんでリュックが重かったのか、理由が判明した。
リュックの底にあったのは、石を丸くした球だ。ちょうど軟式野球と同じぐらいの大きさだ。その内のひとつが紙に包まれている。紙には、なにかマジックペンで書かれていた。
紙だけ引き剥がして取りだす。しわしわな紙を伸ばすと、文字が読めた。
「生き物にぶつけると、氷の魔法が発動しる」
店長の走り書きだ。最後の『する』が『しる』になっている。そうとう急いで書いたな。
しかし氷の魔法か! 球を一個取りだし、ながめてみる。水晶を丸くしたような球の中、たしかに吹雪が舞っていた。
すげえ。これはきっと、おれ用だ。おれは野球をやっていたから投げるのは得意だ。それを聞いた坂本店長が、取り寄せてくれたにちがいない。
氷の魔法が込められた球、勝手に『ブリザード・ボール』と名づけるが、そのさらに下、ぺっちゃんこになったオニギリが一個。焼き鳥の4本パックが一個。
今日は夕飯を食べていない。バイトが終わり、家に帰ったら小林さんからの電話。それで学校に行って、玲奈がさらわれた。そしてここだ。おなかは、めちゃくちゃに減っている。
食べたいのは山々だが、口が呪いのクッキーでパッサパサ。どこかで水を飲んで、この潰れたオニギリをひとくちかじろう。それだけでも元気がでそうな気がする。
「よし! 屋上に急ぐとともに、水も探すぞ!」
気合いを入れ直し、荷物をリュックに詰めなおした。立ちあがってリュックを背負う。
水、水だ。吸血族の瀬尾と戦う前に、パッサパサの口をどうにかしたい。
「水!」
気合いを入れてドアをひらいた。
「水ーーーーーーーーーー!」
さけんで踏みだそうとした足を止めた。その部屋は一面が水だった。
この部屋も蛍光灯が点いている。なんの部屋かわかった。さすが金持ち、プールだ。
両側にプールサイドはあった。片方はガラス張りになっていて、夜景が見える。もう片方のプールサイドには、寝そべるためのデッキチェアがあった。
問題はドアのある下だ。プールサイドはなく、すぐにドボンとプール。真正面に見える壁にもドアはあるが、そちらもプールサイドがない。壁にドアがあるだけだ。
プールの水深は浅そうだった。底が見える。横の壁に水深のマークがあった。目盛りが、1m50cmのところで水面がゆれている。
入れないことはない。だが、なんだか小さな魚がちょろちょろ見える。金持ちといえばプール。では金持ちが飼う魚は? もう嫌な予感しかしない。
リュックから焼き鳥のパックをだした。パックをやぶり、一本取りだす。
ドボン! とドアのすぐ下にあるプールに投げ入れた。わっさー! と小魚が群がってくる。うん。嫌な予感が的中。肉食の淡水魚、ピラニアだ。
「うおい!」
ピラニアが一匹、こっちに跳ねてきた! あわててよける。
ドアを閉め、ふり返る。小っちゃなピラニアが床でピチピチ動いていた。
「っせい!」
ピラニアを部屋の角に蹴っておく。
困ったぞこれは。集まってきた小さなピラニアは、夏祭りの金魚すくいぐらい大量にいた。
そういえば!
おれのリュックは前側にも入れるところがある。さきほど、オニギリと焼き鳥を見て空腹のあまりチェックし忘れてた。
っていうか、焼き鳥、落とした!
ドアを閉めるさいに、向こう側に落としてしまった。くそう。指先についたタレをなめる。一本引きぬいたときについたやつだ。うん、うまい。
リュックをおろし、前側にある小さめのチャックをひらいた。布で大事そうに巻かれたものが入ってある。
「おお、起死回生か!」
取りだして布を外した。
「
小さな緑色の半透明な瓶。いや、めっちゃ重要だけど、いまは使えない。プールに
ひとまず
ポケットに入れようとしたら、上着に焼き鳥のタレが、めっちゃかかってた。さっき、あわててドアを閉めたときだ。
「うん?」
布じゃない。ひらくと
「
火事で燃えた残りと言ってたやつだ。床にひろげる。
「飛べ!」
飛ばない。
んー、これもスイッチがわからない。
そういや、ブリザード・ボールは生き物に当たると魔法が発動すると書いてあった。これもそうか?
ハンカチぐらいの絨毯に乗ってみる。おう、浮いた!
小さいので魔力が弱いのか、床から10cmほどしか浮いていない。進むのだろうか?
からだを前にちょっと傾けると、浮いた絨毯は前へと進んだ。おっとヤバイ。リュックを忘れている。からだを横に倒すと旋回した。
シルバーカーぐらいのゆったりとした動作で進み、リュックを拾ってドアに向かう。
プールへのドアをあけた。そういえば、空中に浮くスケボーが水の上では進まない、そんなSF映画があった気がするが、脳内から消し去ろうと頭をふった。魔法はイメージだ。
ドアのへりをつかむ。真正面、プールのさきにあるドアを見つめた。あそこまで、びゅんと飛ぶぞ。3、2、1、それ!
「うぇぇぇぇぇ!」
ドアからでるとストンと落ちた。このままドボンかと思いきや、水面のすぐ上で止まった。
「セーフ!」
からだを前に倒すと小さな絨毯は動きだす。
ポチャン! と音がしたと思ったら、絨毯のはしに小さなピラニアが食いついていた。もしかして、この絨毯で焼き鳥のタレを拭いたからじゃないよね?
またポチャン! と一匹が跳ねて絨毯に食いつく。
「おおお、やべえ! 急げ、急げ!」
意味があるのかないのか、左手の盾でボートを漕ぐように空気をかく。気持ち、速くなった気がした。
「危ねっ!」
顔にピラニアが跳ねてきてよける。
「おおお、急げ、この、ぼろきれ!」
しまった。速度が遅くなった気がする。
「ウソ! 偉大なるマジカルカーペット様、急ぎたてまつりまする!」
おう、ちょっと速くなった。そうだね、野球でも言われたっけ。使う道具は大事に愛をこめて使いなさいと。
・・・・・・って、ついでに下のプールも、めっちゃ小魚が集まってきてる!
「マジカルちゃん、すごい! 模様がキレイ! もっと速く! きみならできる!」
きたきたー! 加速きたー! と同時にピラニアもびゅんびゅん跳ねてくる。飛んでくる小さなピラニアをなんとか革の盾で防いだ。
ガブッ! と盾の下側に噛みつくピラニアもいたが、振りまわすとすぐ落ちた。革が欠けた様子もない。木の板になめした革を張った安物っぽい盾だが、意外とがんじょう!
向かいのドアが近づいてくる。
「マジカルちゃん、上昇! 上にあがって!」
絨毯があがった! ドアノブをつかんでまわす。
次の部屋になだれ込んだ。やっぱさ、盾といい、絨毯といい、性能はいいけど大きいのが欲しいのよ!
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