第45話 魔のタワー3階と4階
さきほどの吸血コウモリがいたのは、やはりホールのようだ。
階段をあがり入った部屋は、操作室と言うのだろうか。映画館なら映写機がある部屋。舞台ならライトの操作盤などがあるような部屋だ。
部屋はできているが、もちろんそんな機材はない。
スマホが鳴った。表示された名前は『坂本店長』だ。
「店長?」
「おう。ビルに入れたか」
「入ったはいいんですが、いま、吸血コウモリの群れから逃げたとこです」
「やっぱりな」
やっぱりとはなんだろう。千里眼の魔道具でもあるんですかと聞き返したら、理由はもっとちがった。
「この街にいる知り合いに連絡を取った。あちらこちら大勢にな。するとわかったのが駅前の再開発のなかで、一番高いビルだけは半年前から工事がストップしているらしい」
半年も前か。
「ビルのオーナーは、瀬尾不動産。あの吸血族の男は瀬尾じゃなかったか?」
「そ、そうです」
「こりゃ、事前にみっちり計画していたのかもしれねえ。気ぃつけろよ」
連絡してくれた礼を言い、電話を切った。
事前に計画か。そうなると、この土地を狙ってきたのだろうか。いや、ひょっとすると、土地というより空間かもしれない。おれと玲奈が死神を見たのは、小高い山の上の神社。このビルの屋上と同じぐらいの高さだ。
風水だとか地脈だとか、土地にもいろいろとある。それと同じで、この地域の少し上空はミッシング・リンクが起こりやすいとか、そういうのがあるかもしれない。
ホールの操作室にあたる部屋をでる。この階も工事中のままでコンクリートはむきだしだ。大きな柱と区画を分ける壁だけがあった。
人や動物の気配はない。上に行く道を探すと、はしのほうに階段を見つけた。
階段を登ると、四階に入るドアがある。学校の屋上にでるような鉄の扉だ。
あけて入る。おどろいた。灯りがある。それも古風な灯り、ランタンだ。むきだしになったコンクリートの壁にボルトが刺さり、そこにランタンが掛かっていた。
ランタンは、不気味な青白い炎を揺らしている。
それ以外は、なにもなかった。幅が3メートルほどの通路だ。壁にドアは一切ない。窓もない。灯りはこのランタンの小さな灯りがすべてだ。
灰色のコンクリートしかない通路のさきは、右に直角で曲がっている。小走りに駆けた。右に折れると、また青い炎のランタンがあった。そのさきがやっかいだ。通路は左右にわかれている。とりあえず右に進んだ。
進むと、また直角の曲がり角。通路を曲がると、だいたい新たなランタンがあった。等間隔に設置してあるようだ。
右に曲がったり、左に曲がったり。たまに分かれ道があった。正解がわからないので、分かれ道では常に右に曲がってみる。
敵と言える人も動物もあらわれない。途中から全力で走った。おかしい。このビルは、そんなに広いだろうか。
リュックから人型をした呪いのクッキーをだした。これが一番このさき使いそうにない。走りながら、分かれ道の前には人型のクッキーを落とした。
走っても走っても果てがない。もどるか。
ところが来た道をもどっていくと、人型のクッキーはどこにも落ちてない。そんな馬鹿な。どこかで道をまちがえたか。
もう一度クッキーを落とす。T字になった分かれ道を右に折れた。また青い炎のランタンが壁にある。その前まで進み、すぐ来た道をもどった。
ひとつ角を曲がっただけだ。右に曲がったので、もどる今度は左に曲がる。前の場所。しかしクッキーはなかった。
「まさか、
SF小説などでおなじみだ。時の
やっべええええ! と思いそうになり、深呼吸した。親父に連れられたキャンプで、よく言われた言葉を思いだした。
「パニくるなよ。道に迷っても、野生の動物にあっても、決してパニくるな。パニくると、ほぼ死ぬと思え」
そう親父は何度も言っていた。
「そうでした。うどんとパスタだ」
ちがう世界、魔力のある世界と電力のある世界。どっちの世界でも、どこか似ている。つまり無限回廊などない。
周囲を見まわす。天井もコンクリート、床もコンクリート。壁もコンクリート。ゲームで言えば地下迷宮、ダンジョンみたいな雰囲気だが、ここはビルの中。
横の壁を見た。コンクリートという灰色だらけの世界で、ひとつだけ浮いているものがある。ランタンだ。
おれは炎のナイフを
「いくぞ、秘技、外人レスラーばりの容赦ないパイプ
あるとき気づいたのが、外人レスラーはパイプ椅子で殴るのに容赦がない。そんな勢いでランタンをたたいた。
ガシャン! とランタンの透明な部分は割れ、金具は曲がった。プラスチックではなく昔のようなガラスを使ったランタンだった。
炎が消えた瞬間、通路が消えた。あるのは、ただっぴろい空間だ。ワンフロアぶちぬきってやつ。大きな大きな四角い部屋の角にはランタンが灯っていた。
合計四つ。そのうちのひとつが、横の壁にある壊したランタンだ。残りのランタンは、まだ青い炎をだしていた。四つのランタンが
うしろをふり返ると、おれが入ってきた鉄のドアだ。
大きなフロアには建築資材もなにも置かれていない。いや、床になにかが落ちていた。近づいてみる。人型のクッキーだ。見れば、あちらこちらに落ちている。
ふと思いつき、クッキーの袋を見た。まだ一個残っている。
「どこにいるか、わかんねえけど、呪ってやるぞ」
瀬尾を思い浮かべながらクッキーを食べた。
落ちた呪いのクッキーも拾おうとしたが、思い直してやめた。ひとつで効かなかったら何個食べても同じだろう。
まあ、人を呪うというクッキーだ。味は極めてまずい。クッキーはあきらめ、おれは階段へと走りだした。
四角いフロアの対角線に、ランタンの青い光に照らされたドアが見える。あれが上にあがる階段だろう。
・・・・・・どこか洗面所でもいいから、蛇口があったら水を飲もう。ほんとに口が、パッサパサだ。
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