第40話 アクシデントは金曜に

 あれから今週、なにごともなく平穏に学校は終わった。


 思えば入学日の金曜は死神と戦った。一週間後の金曜は吸血コウモリだ。


 二週目の金曜である今日、やっと、なにもない週末をむかえる。


 ご当地コンビニ『シックス・テン』のバイトを終えて家に帰った。リビングに座ると、シーンとした空気感がイヤになりTVをつけた。


 親父が家にいつもいるので気づかなかったが、ひとりでいると静かだ。


 とつぜんに、スマホが鳴った。


「おう、小林さん」

「ごめん、やっかいなことになった。スクショ送る」


 なんだろう。電話を切って待つ。何枚かの画像が送られてきた。


 メッセージアプリの画像を撮ったものだ。相手は・・・・・・中条くるみか!


 文面は、中条が一方的にケンカごしだ。『あなたのせいよ!』とか、そんなセリフを多く書いている。


 何枚か送られてきた最後。


「瀬尾さんに、来てくれなきゃ死んじゃうって送った。これで会ってもらえなかったら、あなたのせいだからね! マジむかつく!」


 おおう、中条ずいぶんな言葉だ。文章の最後には包丁の絵文字まで付いている。


 着信が入った。小林だ。


「見てくれた?」

「見た」

「あの金太郎アメを瀬尾センパイに聞いたみたいなの」

「うん。それで会ってくれなくなったと」

「そう、それで最後の文がアレ」

「やべえな。中条は、瀬尾をどこに呼びだすと思う?」

「玲奈ちゃんの予想では、高いところじゃないかって」


 もう玲奈には連絡してたか。そして玲奈の予想、おれも高いところだと思う。川べりで入水してやる! って言うのもマヌケだ。でも、この田舎だと高い建物ってそんなにない。駅前の商業ビルとマンション、それと・・・・・・


「学校か」

「玲奈ちゃんも、そう言ってた!」


 だよなー。


「んで、玲奈は?」

「すぐに学校行くって」

「りょうかい。おれも向かう」

「山河くん」

「あん?」

「ごめんね、知らない女子のために」

「バカ言え。中条は小林の友達。つまり玲奈の友達の友達だろう」

「・・・・・・うん。ちょっといま、玲奈ちゃんが、うらやましく思えた」

「なんだそりゃ」


 電話向こうの小林が笑った。笑ってる場合か。


「私もすぐ出るね」

「おう!」


 電話を切って立ちあがる。帰ってすぐに着替えればよかった。学校帰りにコンビニでバイトし、そしていまだ。服は制服のまま。


 まあ、学校に行くのだから、いいっちゃいいのか。


 リビングテーブルの上、置きっぱなしにしていた『ピンチのトランプ』が目に入った。


 絶体絶命のときに使うトランプ。それはいまだろうか。使用できる回数は、あとたったの二回。まあ、悩んでる場合じゃないか。


 トランプをポケットに入れ、おれは夜の学校へと家をでた。




 鉄のゲートが閉まった校門の前。


 玲奈と小林は、すでに来ていた。


「ここって、警備員とか防犯システムないのかな?」


 素朴な疑問だったが、玲奈から完璧な答えがでた。


「待っているあいだに、主な警備会社に近所住民のフリをして電話しました」

「さすが。なんて聞いたの?」

「警備アラームが鳴っててうるさいと」

「なるほ。んで警備会社は?」

「すべての警備会社で言われたのが、ウチではないと」


 日本の主な警備会社は数社しかない。それなら、警備システムはついてないか。


由緒ゆいしょ正しきと言うわりには、セキュリティはずさんなようです」


 玲奈が苦笑したのは、あのガマ教頭を思いだしたからだろう。


「よし、じゃあ入ろう!」


 校門のゲートは身長より少し高い。


「玲奈、足場いる?」


 足をひらいて踏んばり、腰のあたりで両手を組んだ。


「助かります」


 玲奈がそれに足をかけ、ゲートに登る。


「だいじょぶ?」

「ええ、なんとか」


 上を見あげ、すぐに視線をおろした。玲奈もバイト帰りで制服のまま。つまり、スカートだった。


 ゲートの向こうに玲奈が着地する音が聞こえる。


「ふたりって、小学生みたいな恋愛ね」


 目の前でニヤニヤしているのは、小林だ。うっせえやい。


 小林にも手を貸す。ちなみに小林は私服でジーンズだ。


 最後におれもジャンプしてゲートの上をつかみ、乗り越えた。


 校舎一階、正面の玄関へ走る。夜の学校は暗かった。住宅地のように道路の外灯がない。


 それでも正面玄関につくと、非常口を案内する緑の光と、非常ベルの装置についた赤いライトで中は見えた。


 入口の大きなガラス扉は粉々に割れている。床に黒板消しぐらいの石がいくつか落ちていた。投げつけたようだ。


「わちゃ、恋は人を狂わせるな」

「それは人によるでしょう」


 おれと玲奈の会話に、小林はなにも言わなかった。小学校からの友達がこうだ。ショックは強いのかもしれない。


 破片に気をつけながら、おれたちも割れたガラス扉から入る。屋上に向かった。


 階段を駆けあがり屋上出口までくると、さすがに息が乱れる。息を整えながら、扉の前で玲奈と小林さんを待った。


 ふたりが到着する。


「扉をあけたら、すぐ目が合うかもしれない。だれが最初に話す?」

「もちろん、私が」


 おれの問いに答えたのは、小林さんだ。


 小林さんは深呼吸し、屋上への扉をあけた。ギィ、と鉄のきすむ音がして分厚い鉄の扉があく。


 柵の外に立つ女子がふり返った。中条くるみだ。


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