第28話 サファイアっぽい魔石

「吸血族か・・・・・・」


 ドワーフそっくりの坂本店長は、そうつぶやいて顔をしかめた。


 家の近所にある個人経営のコンビニ『シックス・テン』の地下だ。


 山小屋のような部屋にある古めかしいダイニングテーブルに、おれと玲奈と坂本店長が座っている。


 吸血コウモリを倒したら、吸血族がでてきたと説明した。けれど道具屋である店長は、やっぱり情報通に思われる。吸血族の名をだしても、大きくはおどろかなかった。


「店長、これは、やばい状況っすか?」

「なんとも言えねえとこだな。この世界で吸血族は、めったに人間を襲わねえ」


 それは、あの男も言っていた。


「足がつくからですか?」

「おう。先進国だと、それなりに警察は優秀だからな」

「でも、どうやって生きていくんです」

「おい、そりゃ映画の見過ぎだ」


 ドワーフ店長が吸血族について説明してくれたのだが、やつらは血を吸って養分にしているわけではないらしい。血を吸う理由は、おのれの魔力を高めるためだそうな。


「あー、じゃあ、この世界の人間の血を吸っても」

「そう、魔力は得られねえ」


 そうなると安心だ。同じ学校に吸血族がいても、生徒が危険という可能性は低くなった。


「じゃあ、普通に食事するんです?」

「そうだ。人間とほぼかわらん」


 そういや、ペペロンチーノって言ってたな。


「親父に連絡するか?」

「いえ、その話だと、危害がない可能性もあるので」


 思いっきりケンカを吹っかけていることは、店長には言ってない。親父はせっかく、母さんとの思い出の地で休暇中だ。よほどでないと呼びたくない。


「それから店長これ」


 行きはニンニク爆弾を入れたビニール袋だ。いまは吸血コウモリ付きの絞首台ロープを入れていた。


「おう。わしが買い取っていいんだな?」

「ううっそ、売れるの?」


 店長は特大のジップロックをだしてきて、ロープごと入れた。うわー、冷凍保存する気だ。


「30万ぐらいか」

「マジで!」


 玲奈の絵画に大接近!


「勇太郎、コウモリが30万。室田さんの謝礼が20万。ちょうど50万です。霊薬エリクサーを買っておきましょう」


 えー! と思ったが、たしかに正しい。あれが一本あれば、もし大けがをしても安心だ。


 おれはリュックから謝礼の入った封筒をだした。


「少し、まけといてやるよ」


 坂本店長は封筒から15万だけぬいて返した。残ったのは5万か。時給として考えると破格にいいが、三歩進んで二歩さがった感は強い。


 玲奈が、おれに向かって笑みを浮かべた。


「先日の魔石を売ったのと合わせ10万。一割達成ですよ」


 おれが絵を買いたいのをお見通しか。くぅ、きみが奥さんなら、きっと良妻!


「店長」


 玲奈が声をかけ、テーブルに置いたのはサファイアのような緑の石だ。大きさは小石ぐらいあった。


「ほう、魔石か。前よりもぐっと大きいな」


 店長が手に取る。おれは玲奈にたずねた。


「玲奈、これどこで?」

「軒下にあった雨どいの出口です」

「よく、そんなとこで見つけたな」


 玄関に灯りはついてたけど、ほかは真っ暗だ。玲奈は魔石センサーの能力でもあるのかと思えばちがった。


「吸血コウモリは雨どいにいましたので。なにか探していたのか、または、なにかを落としたのだろうと」


 なるほど。名推理だよ、明智くん。と、怪人マスタードは思った。


「こいつぁ、結構な上物だな。100万ぐらいになるぜ」


 おお、キター! 


「そうですか」


 玲奈はそう言うと、緑の石を引っこめた。


「れ、玲奈タン、売らないの?」

「室田さんの家で見つけたので、返すのが筋かと」

「えーー!」


 真面目な魔王なんて大嫌い。ウソ。昔から、そういう融通が利かないとこも大好きだった。


「おお、あの僧侶オバチャンと仲よくなったみてえだな」

「うんにゃ。ダメでした」


 おれは玲奈が魔王とバレたこと、室田夫人の様子から今後のお付き合いはないと思うと、坂本店長に報告した。


「そうかぁ」


 店長は残念そうに腕を組んだ。玲奈も真剣な顔をしているので、おれは玲奈に笑いかけた。


「まあ、おれは玲奈が魔王でも平気だ」

「はい。いつもありがとうございます」

「ペチャパイの魔王がいたっていい」

「勇太郎、わたしに魔力があったら、死んでますよ」


 ふたりで笑った。


「おまえら、タフだなぁ」


 店長も笑うが、絞首台ロープを漂白剤に漬けこめるドワーフのほうがタフだと思う。それでもまあ、たしかに玲奈といると、どんな問題でも深刻にならない気がした。


 時計を見る。山小屋のような部屋の壁にある鳩時計は、0時5分をさしていた。


「玲奈、送るよ」

「そうしましょうか」

「遅くなったな。おじいちゃんに怒られない?」

「勇太郎と一緒だと言ってますので、心配はしてないかと」


 おおう、信頼されてる! おれはもっと強くならないとなぁ。ふり返れば、死神と戦ったときも、今日の吸血コウモリも、攻撃を喰らったのは玲奈だ。


 そんな玲奈は立ち上がり、鳩時計の下にいき時計を見上げていた。


「この時計、鳩がでるのを見た記憶がありません」

「おう、それは災害予告時計だ」


 もはや名前で機能がすぐわかる。『ポッポー』と鳴ったら災害だ。おまえ、鳴いちゃダメ。そう心の中で思った。


「んじゃ、店長、またあした!」


 おれは霊薬エリクサーを一本リュックに入れる。


「おう。その荷物、この部屋に置いといてもいいぜ」


 坂本店長のご厚意に感謝。そのほうが便利だ。このリュックに入れてある炎のナイフや盾を使うようなときは、必ずここに寄るもんな。


「お言葉に甘えます!」


 山小屋のような部屋には大きな本棚があった。本は少ししか置かれていない。空いている棚に入れとけと言われ、リュックをしまう。


「店長、んじゃまた!」

「おう!」


 明日は土曜だが、ここのバイトがある。玲奈も調理場で仕事だ。


 バイトをしだすと、なかなか忙しいもんだなと痛感しながら、おれと玲奈は家路についた。

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