第12話 コンビニの掘りだし物
地下のコンビニ商品を見てまわる。
みっちり商品があるわけではない。コンビニと同じ棚だが、大きな白いスチール棚にひとつずつ並んでいた。
「坂本さん、これなに?」
レジに立つドワーフという異様な景色。そんなドワーフそっくりな坂本店長に向かって、ひとつを持ち上げ聞いてみた。人型のクッキーが袋に入っている。
「呪いのクッキーだ」
うお、やべえ。おれはクッキーの袋をそっと棚にもどした。
さきほどの約束だ。死神の入った封じ箱をわたす代わりに、親父がクレジットで払った代金はキャンセルの処理がされ、さらに、ここの魔道具をもう一つもらえる。
もらえるとなったら浅ましい限りだが、つい真剣になってしまう。
古めかしいランタンは、聞くまでもなく魔力で火が灯るんだろう。魅力はあるが、実際に価値があるか? と問われればLEDのランタンで事足りる。
あら? そのとなりに、アラビアか中東あたりを思わせる幾何学模様が入ったものがある。形はティーポットというか、レストランでカレーのルーが入ってるやつみたいな。
「坂本さん、これひょっとして」
「ああ、魔法のランプだ」
マジすか!
「巨人でるんすか?」
「霧の巨人がでるぞ。もちろん、でるだけだが」
なんだ、願いごとは叶わないのか。
「そういや、魔法の
「なんと、マジカル・カーペットも!」
「持ち主の家が火事にあい、残ったのは
それもがっくし! ランプを置いて次の棚を見る。
食べ物から食器、雑貨まで、多種多様なものがある。どうせなら変わったものがいい。
「これは?」
金貨が五枚ほど袋に入っていた。持ち上げてレジの坂本さんに見せる。
「消えるコインだ。10枚ほどあったらしいが、残っているのは5枚だな」
それ、ほんとに消えるだけじゃん。ダメだこりゃ。
陳列された中で、なんの変哲もないロープもあった。太さもまちまちで何種類かある。50cmぐらいに折りたたんでまとめ、しっかりとビニールひもで束ねられていた。そのひとつを持ってみる。
「坂本さん、これは?」
レジの坂本さんに見えるように持ち上げる。
「それは、絞首台のロープだな」
「はっ?」
「666人の首をつったロープだったかな。呪いがついて、首に巻いたら自動で締まるらしい」
お、おっかねえ。そっとロープをもどした。異世界で魔力のある世界って、呪いとか多過ぎ。
「勇太郎、そもそも、ひとついただけるというなら、
レジの前に立つ玲奈が口をひらいた。物色するおれをながめていたようだ。
たしかに玲奈の理屈は正しい。正しいが、どうせなら面白いものがいいってのも男のロマンだ。
いや待てよ。
おれは天井を見上げた。店内のレイアウトは、地上のコンビニと同じだ。商品の並びも同じではないが、似てるっちゃ似てる。
地上のコンビニでいえば、生活雑貨などがある棚に移動した。おれがいま着ているランニングシャツなどがある棚だ。そのとなり、子供のオモチャなんかがあったはず。
おー! 意外なものがあった。トランプだ。なんかそれも箱に描かれた絵は、天使がトランプを持ち、そのトランプは光り輝いている。
トランプを持ってレジに行った。
「これって、なんです?」
レジのカウンターにトランプを置く。
「おお、いいとこに目を付けたな」
ドワーフそっくりの坂本さんが、トランプを持ってしみじみながめた。ちなみに坂本さん、ファンタジーで語られるドワーフとは一切関係はないそうだ。まあたしかに、身長は低いと言っても150cmはある。
「ピンチのトランプだな」
「ピンチ?」
おれは小首をかしげた。
「聞いた話じゃ、高度なトランプ占いと魔術を融合させた逸品だそうな」
占いって異世界でもあるのか。ああでも、魔力がある世界の占いって、めっちゃ当たりそう。
「箱をあけ、適当に一枚取りだす。すると、その時にもっとも欲しい現象が起きる」
マジすか。
「願いが叶うってこと?」
「いや、起こすのは小さな現象らしい。なので、一番効果があると言われているのが、絶体絶命のピンチになったときだ」
なるほど現象か。まあたしかに、あの子カワイイなと思った時に一枚取りだしても、風が吹いてスカートがめくれるだけかもしれない。
「この残留物は、世界で九つ確認されている。二つは使用した者がいて、おれら
残り七つの内の一つか!
「ちなみに、いままでなにが起きたんです?」
「ハートの6がでて、風が吹いたとか」
・・・・・・おれと同じ考えのやつがいた。
「風かぁ」
面白いが、なにか使えるシーンがあるだろうか。
「いや、箱によって効果はちがうぜ。記録では偶然にも同じスペードの4がでている。ひとつはトランプの上側がするどい刃になっていたらしい。もうひとつはトランプから毒がしたたり落ちたとか」
おおう、ほんとにランダムなのか。しかし、スペードは攻撃っぽいな。
「ダイヤやクローバーは、どうなったんです?」
「まだダイヤを引いたやつはいねえな」
「うん? 52枚入ってるんですよね」
「52枚あるが、効果があるのは三枚までだ」
「えっ、じゃあ、ハズレも引くってこと?」
「いや、最初の三枚が必ず当たる」
すげえ。やっぱ魔法による占いのトランプだ。
「玲奈、これでもいい?」
レジの前で待っていた玲奈がうなずく。
「文句はありませんが、その手の回数制限があるものは、使わずに人生が終わりそうですね」
あっ、やなこと言う。ゲームでも奇跡のアイテムって、もったいなくて使えないんだよな。
「しかし、異世界にもトランプがありますか」
興味深そうに玲奈がトランプの箱を見つめた。
「偶然に似てるものってのは、多いぜ。この地球上ですら、日本にうどんがあったら、イタリアにはパスタだからな」
たしかに。しかしドワーフそっくりの坂本さんが、うどんすすってるとこ見てみたい。
「そもそも、トランプってものを
おおう、なんだかややこしい話になってきた。
まあ、面白そうなので、もらうのは『ピンチのトランプ』に決める。
おれと玲奈は、すっかりお世話になったニセドワーフ坂本さんに礼を言い、店をあとにした。
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