第5話 デート交渉

 恋とは不思議なものだ。好きな人に会っていないときの方が、会っているときよりもずっとその人のことを考えてしまう。僕は常に彼女のことを考えていた。寝ている間も例外ではなかった。僕は彼女の夢を見てしまう。その内容は朝には覚えていない。夢の中の出来事は、そんな儚い彼女との時間だ。そんな時間すら僕は愛していた。

 朝になった、僕は8時30分くらいに起きた。講義は9時からだ。僕は急いで着替えをして、テキトーに髪を整えて何も食べずに家を飛び出た。

 講義には普通に間に合った。1時間目は一般教養科目だった。講義中にふと振り返ると、講義室の後ろの方に彼女がいた。多くの人が座っているが、僕は一瞬で彼女を識別できた。僕はその講義中、何度か振り返って彼女を見た。彼女はやはり美しかった。そんなこんなで講義を受け続けた。

 いつもの時間が来た。彼女に会いに行く時間だ。今日は雨が降っていない。昨日のように彼女がびしょ濡れの状態でいる心配はない。

 僕がいつものベンチに向かうと彼女はすでにそこで本を読んでいた。僕は声を掛けずにその正面に座った。彼女の読書している顔をじっと見ていた。彼女は読書にとても集中しているようだった。今日は推理小説のようなものを読んでいるらしかったので、それで余計に集中していたのだろう。僕は机の上に手を置いた、その音で彼女は初めて僕に気が付いたらしい。驚いた表情をした。

「来たなら声掛けてくれればいいのに」

彼女は不満げな顔でそう言った。

「集中してたから邪魔したくなかったんだよ」

僕はそういったが本当はそうではなかった、僕は彼女をただ見つめていたかっただけだった。

「あなたは本を読まないの?」

彼女から僕に質問してくるとは少し意外だった。

「たまに読むよ、純文学とかは読まないけどね」

「そうなんだ」

彼女は笑顔で答えた。

「純文学読むといいよ、世界が広がるから」

「じゃあ読んでみよっかな」

こういう時の読んでみようかなというセリフはだいたい読まないものだが、彼女に勧められたので本当に読んでみようと思った。

 僕はそろそろ彼女との関係を前に進めたかった。僕は彼女をデート(?)に誘うことにした。

「このあと暇?」

「暇だよ」

チャンスだ。

「カフェいかない?そんな気分なんだ」

「いいよ」

意外にもあっさり承諾されて少し驚いた。

「もう行く?」

「いいよ」

 彼女は本をカバンにしまった。僕と彼女は立ち上がって歩き出した。近くのカフェまで僕たちは歩いて行った。どんな話を振ればいいか思い浮かばなかった。道に咲いている花がきれいだねとかそんなことを話した。僕は彼女の横にいるだけで幸せだったが、彼女はどうなんだろう。そんなことを考えてしまった。

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~空想作家と落ちない彼女~ 3か月の恋物語 絶佳(ぜっか) @Zekka27

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