第4話 メッセージ彼女
「帰る、寒いから」
謎の倒置法で彼女が言った。体が濡れているし帰った方がいいだろう。
「そっか、早く着替えた方がいいもんね」
連絡手段を手に入れたし、今日の成果としては十分だろう。彼女がメッセージに返事をくれるとはあまり思えないが。まあ、そこらへんは帰ってから考えるとしよう。
「じゃあね」
「待って、傘ないでしょ、貸してあげる」
「あなたはどうするの?」
「僕家近いから」
「ありがと、じゃあね」
「じゃあね」
彼女は僕の傘をさして帰っていった。男性向けの黒い傘で少し彼女には似合わない色ではあったが、まあしょうがない。
これから雨の日は早めに行かなくちゃいけない。彼女がびしょ濡れになってしまう。雨の日は外に来ないように伝えるか、傘を持つように伝えればそのようにしてくれるのだろうか。僕の行動と小説の設定のどちらが勝るのか、そのうち試してみようと思った。
僕は走って帰った。家が近いと言ってもこの雨だ、僕は家に着いた時にはびしょびしょになっていた。僕は服を脱ぎ捨ててそのままシャワーを浴びた。シャワーの後、服を着てインスタントラーメンを食べた。
僕は彼女にメッセージを送ってみることにした。
「今日は寒かったよね、体調は大丈夫?」
あまり良い文章が思い浮かばなかった。まあ返事が来るかも分からないし、どんな言葉を送るかずっと考えても仕方ない。
彼女に会って緊張していたからか、僕はすぐに眠くなってウトウトしていた。おそらく1時間ほど寝ているか起きているかという状態だった僕を、スマホの通知音が起こした。彼女から返事が来たのだ。
「今日は傘をありがとうございました。体調は大丈夫です、ご心配なく」
なかなかに硬い文章だった。だが、返事を期待していなかった僕は嬉しかった。というか普通にメッセージアプリ使えるじゃないか。彼女の設定がいまいち掴めない。まあゆっくりと知っていけばいい、そう思った。
「どういたしまして」
とだけ送っておいた。変に会話を広げたりするのも彼女には有効じゃない手段に思えたからだ。相手が硬い文章を送ってくると、こちらもそうせざるを得ない感覚になるものだなと思った。
「今日の服装はどうして昨日と全然違ったんですか?」
彼女から予期しないメッセージが送られてきた。使いこなしてるじゃん。というか、このメッセージは僕が彼女に会うのに気合を入れた服装をしていったことを分かった上でのものだろうか、だとしたらそこそこ小悪魔的な文章じゃないか。彼女は思っていたより普通なのかもしれない。「君に会うためにだよ」なんてセリフを言える僕でもなかった。
「なんとなくだよ」
と送っておいた。5分後、既読がついたが返事はなかった。僕は彼女にけっこう弄ばれている気がした。彼女は思っているより攻略難易度が高いようだ。
「おやすみ」
と送って眠りについた。
僕は彼女の夢を見た。目覚めたときにはほとんど覚えていなかったが。スマホを見てみると、昨日のおやすみに既読がついていた。返事はなかった。
彼女に限らず女性の返信のタイミングと内容というのはなかなかに理解しがたいものである。返事がすぐにきたり、ずっと来なかったり。まあ、メッセージについては深く考えすぎず、会ったときに頑張って話そうと思った。
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