エピローグ 明日への出立
無傷だった第二シャフトから地上へ出ると、外はちょうど日が沈み始める頃だった。
西日に照らされながら荒い息でアルの体を放り出すと地面に大の字になって寝転ぶ。
しばらくそうしていると、リズが子どもたちを連れてやってきた。
「何してるの?」
「疲れたから休憩してた。こいつの体って無駄に重いのよね」
ナナは呟いてはね起きる。
向かい合うリズはアルの棺桶やサックス、大きく膨らんだバックパックなど複数の荷物を持っていた。
それを受け取ろうとしたところでナナは子供たちが自分をじっと見ていることに気づき、彼らが何を言いたいかを察する。
「もしかして、殺したと思ってる? 私がアルを」
「…………」
誰もそれに答えなかったが、ナナはガシガシと頭を掻いてから放置していたアルに話しかけた。
「もう起きていいわよ」
「……はぁ。酷いですよナナさん。撃っていいとは言いましたけど合図も無しにいきなりなんて」
そう言ってこめかみを撃ち抜かれたはずのアルがムクリと起き上がる。
子どもたちはなにが起きたのか理解できず目が点にしていたが、一人がかすれ声で呟く。
「ナナ姉ちゃん、これって……」
「これはアルの銃。私のじゃないのよ」
そう言ってナナはハンドガンをアルに投げつける。
ハンドガンは空中でグニャリと姿を変え、元の匣型となってアルの手中に収まった。
「こうやって、僕は自分の武器を変化させることができるので、ナナさんが僕が狙ったときにハンドガンの形態を変化させて弾丸を寸前で止めたんです」
ニコッとしながら明かされた種に子どもたちは唖然とした表情をしていたが、やがてホッとしたように肩を撫で下ろし、全員が彼に抱きついた。
その様子を見ながらすっかり人気者になっていることに苦笑していると、代わりに今度はリズが不安そうな顔をする。
「ねぇ、行くんでしょ?」
「……やっぱわかる?」
「わかるわよ、何年一緒だったと思ってるわけ? アンタの目を見れば考えてることなんかお見通しよ」
屈託のない笑みでリズからパンパンに膨らんだバックパックを渡される。
子どもたちにもみくちゃにされながら会話を盗み聞きしていたアルはキョトンとした顔した。
「なんの話です?」
「この子、あなたと一緒について行くつもりよ。じゃなきゃ国を脱出する時に使うバックパックなんか持ってこないわ」
その言葉にアルは信じられないという顔ををしてこちらを見てきて、プイッと視線を逸らす。
「国を出ることは前々から考えてたのよ。ただ今までは機会がなくて抜けられなかっただけだし……それに知りたいのよ、自分自身のことを。そのためにはここだけじゃなくて他の国も見て回らないと」
「それは一向にかまわないと思いますが、でもバギーはラムダに破壊されてしまいましたよ」
「分かってるわよッ。仕方ないし、これは歩いて別の国に行くしかないかな」
ナナはいかにも面倒臭そうな表情で頭を掻く。
彼女の愛車であるバギーはラムダとの戦闘で破壊されて、あの場に置いてきてしまっている。
ちなみに次の国に着くまでは、バギーなら一週間程度だが、徒歩だと約二ヶ月はかかってしまう。
しかも、そこまでの間にアンドロイドに襲われる可能性だってあることを考えると安全とは程遠い旅だ。
「それならいい物があります」
アルが何かを思いついたとばかりに口を挟み、放置されていたFMFの棺桶に触れた。
「
唱えたアルが手を離した瞬間、棺桶は変化し、そのまま一つの形を形成していくと、最後に棺桶があった場所にはエンジンの唸り声を響かせる一台の黒いバイクが出来上がる。
アル以外の全員が唖然とした表情でそれを見て、ナナが全員の気持ちを代弁するように呟く。
「こんなこともできるなら早めに言ってくれればいいのに」
「能ある鷹は爪を隠す、というでしょう」
アルは得意げに答えてバイクに跨ったが、ナナはため息をついて手早く自分の荷物をバイクに括りつける。
そして最後にリズや子供たちにハグをした。
「元気でね、ナナ」
「リズもね。また帰ってくるから。あなたたちも私がいない間リズを頼むわね」
リズと子供たちにそれぞれ一言述べてから後部座席に乗り込む。
バイクがエンジン音を響かせて走り出し、徐々に小さくなっていくリズたちをナナはじっと眺めた。
「今は悲しいですか? それとも寂しい?」
「……両方」
そう呟いてアルの背中に顔を隠す。アルはその間何も言わず、されるがままになった。
やがて、ナナは鼻をすすって顔を上げる。
「でもそれはそれ。ちゃんとこの旅を意味のあるものにしないとね」
「ナナさんとなら楽しい旅ができそうです」
アルは楽しそうにそう言って、バイクを加速させた。
アンドロイドは世界平和の夢を見るか?〜迷宮の底で出会ったのは世界を救うため作られた機械でした〜 森川 蓮二 @K02
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