第32話 お酒は飲み過ぎ注意

 カズキはカエデとサラの二人を連れて校門に向かうと、既にアイクとクレアが待っていた。


「すみません、待たせてしまいましたか」


「いや、時間には余裕で間に合ってるからね。じゃあ行こうか」


 カズキ達はどこに行くか全く知らないため、アイクに言われるがままに付いていく。勿論カズキはリストバンドをつけ直しており、足取りは若干重く見える。


「これから行く店は結構お気に入りでね、週に一回は通ってるかな」

  

 アイクの声のトーンはかなり上がっており、機嫌がかなり良い。本来なら先生と生徒になる人と食事に行くのはあまり良くないことではあるが、バレなければいいのだ。


「へえ、先生そういうのセンス良さそうですし楽しみですね」


 カズキは半分お世辞で言っている部分はあったのだが、センスがありそうというのもカズキが本当に思っていることだ。

 外見だけでモテるであろうアイクは、変な店には通っていないだろうという勝手な考えである。

 

「安心していいよ、私も連れて行ってもらった事があるが料理もお酒も中々のものだ」


 どうやらクロエも店に行ったことがあるようで、国王の娘のお墨付きもあるのであればとカズキ達は楽な気持ちになれた。

 それと同時にクロエもこんな交流をするのが意外だったため、素直に聞いた。


「そうは言っても庶民的な店にクロエも行くんだな。てっきり雇ってる料理人が作ったものしか食べないと思ってた」


 カズキが遠回しに問いかけると、クロエはクスッと笑みを浮かべて答えた。


「私は別にこだわりなんてものはないよ。安いお酒でも料理でも、美味しいと思うものは沢山ある。贅沢だけを知ってても他の人達に寄り添えないからね」


 クロエは国王の娘とはいえ、かなり庶民的なところがある。今の服装であっても、とても王女様が着るような服ではない。そこらへんの服屋に売っていそうな量産型の服。

 それでも周りから見て美しく見えてしまうのは、クロエの素のポテンシャルが高いが故だ。


「なるほど、それはいい心がけやね。結構おるもんなぁ、どっかの優秀な息子を捨てたおデブさんみたいに、自分は上の立場やって偉そうに振る舞ってる人が」


 カエデはしっかりとカズキの方を向いて言う。カズキからすればこれっぽっちも情報がなく、あるとすればそいつが親であったという黒歴史とも言える情報だけだ。


「あいつはたとえ俺の父親であってももう俺の父親ではない。あれはただの黒歴史だ」


「まあこんなええ男追い出すぐらいなんやから、カズキからしたら確かに黒歴史やなぁ」


 そう言ってカエデはカズキの腕にベッタリとくっついて密着する。


「それってもしかしてあれかい? 君と揉めてた受験生と関係があるとか」


 感の鋭いアイクは二人の話の主役を見事に言い当てた。思い出したくもないカズキは、


「そうですね、そいつの親がゴミだということだけです。ゴミはゴミ箱へってことで、その話は捨て置きましょう」


「なかなか嫌悪的だね。まあ店には着いたし、嫌なことは忘れて飲もうか」


 歩いているうちに店につき、カズキ達は中にはいる。

 少し古臭くもありながら、内装はシンプルで綺麗だ。客も多くいて酒を飲んで騒がしい。だがこんな雰囲気も酒場の醍醐味とも言える。


「さあ、好きに頼んでくれ。金はたんまりあるからね」


 アイクはそう言うが、いざとなると遠慮する気持ちが現れる。そんな雰囲気をかき消すように、サラがメニューを見てどんどん品を頼んだ。それを見てカズキも吹っ切れ、自分が食べられる量の料理と酒を頼む。


「ウチはどうしよかな〜、お酒沢山飲みたいし……」


「おい、あんまり飲みすぎるなよ。介抱するのはいつも俺なんだ」

 

「大丈夫大丈夫」


(何がだよ!)


 カズキは一度毒素分解の魔法を永久的にかけてやろうと考えたこともある。だがそれだとお酒の飲む意味がなくなってしまうため、それだけはしないでいた。

 とはいえ、酒を飲みすぎたサラとカエデが面倒くさいのは事実なため、カズキとしては複雑な気分である。


「頼むから今日は平和に飲ませてくれ……」


 カズキはほんの少しの期待を抱いて、運ばれてきた料理と対面した。

 

 


  ◆




 食べたり飲んだりをして約一時間ほどで、いい感じにお酒で酔いが回ってきたカズキだったが、意識はごく普通だ。

 今もステーキを切ろうとフォークとナイフを持っているのだが、肉はなかなか上手く切れてくれない。その理由といえば……


「な〜あ〜カズキぃ」


「ねぇカズキ、私ってまだ若いよね? 年増じゃないよね?」


「……やっぱりこうなるか」


 カズキの両腕をガッチリとホールドしているサラとカエデ。予想はしていたが、やはり二人は面倒くさくなってしまったのだ。


「あはっ、カズキ君はモテモテだね」


 アイクはお酒に強いため、平然とワインのボトル三本目に突入している。

 爽やかな笑顔で言ったカズキは、「人の気も知らないで」とぶーたれて返した。


「ん? そういえばクロエはどこにいったんですか?」


 クロエはアイクの隣りに座っていたはずなのだが、サラとカエデにかまっているうちに姿が見えなくなってしまった。

 あっさりと消えたもので気になったためにアイクに聞いたのだが、思わぬ答えが返ってきた。


「いるじゃない、後ろに」


「へ?」


 素っ頓狂な声を発して後ろを向くと、丁度いいタイミングでクロエがもたれかかってきた。そしてカズキの顔はクロエの豊満な胸に包まれる。


「むぐっ!?」


「カズキはどうしてそんなに強いのだ? 私にも稽古をつけてくれぇ……」


 どうやらクロエも酒を飲むと酔っ払ってしまうようで、カズキにもたれながらフラフラと体を揺らしている。


「ぷはっ、わ、分かったから一旦離れろ!」


 胸の呪縛から離れて息を整えるが、


「ちょっと、何クロエちゃんの胸触って興奮してるのよぉ」


「あかんでー、カズキはウチらのモンやから絶対渡さへん」


 クロエが近くにいることが気に障ったのか、サラとカエデはカズキの腕に更に力を入れて抱きしめる。


「……勘弁してくれ」


 このあとすぐに店を出たのだが、あまりに三人がフラフラしすぎているため、仕方なく毒素分解の魔法で三人の酔いを覚ましたカズキであった。

 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【いずれ最強と呼ばれる男】燃費の悪い無属性魔法で無双する〜転生した努力の化け物に異世界は楽しすぎたようです 水野凧 @15292180

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ