第31話 予測不可能
ようやくカズキの出番がきた。
だが、カズキは試合が始まる前に両腕の両足につけているバンドを外す。
「それはなんだい?」
「これはまあ、魔法で重くしたリストバンドです。カエデ! 悪いけど持っててくれ!」
カズキはカエデに向かって一つにまとめたリストバンド放り投げた。
(あっ、やべっ魔法解除するの忘れてた)
魔法を解除していないリストバンドは、全てを合わせると重量は三百キロほど。
手のひらにリストバンドが乗り、カエデは地面に体が突っ込みそうになる。
「──っと!? ちょっとカズキ! 魔法ぐらい解除しといてくれなビックリするやんか!」
カズキは申し訳無さそうにカエデに両手を合わせる。
「それはなんなんだ? ただのリストバンドじゃないのか?」
クロエはカエデの持っているリストバンドに興味を示す。
「リストバンドに魔法かけて重量あげてるんよ。ちょっと持ってみる?」
そう言うとクロエはすぐに両手を差し出してきた。
「力ちゃんといれときや?」
カエデは忠告したが、クロエの想像以上にリストバンドは重く、手に乗った途端にクロエはバランスを崩して倒れそうになる。
「キャッ!? ……こんなものをずっとつけて行動していたのか?」
「そうそう、あの人は馬鹿や。ウチやったらこんなんいつまでもつけてられへんもん」
自分の彼女に馬鹿と言われる始末である。その話をする一方で、フィールドでは試合が始まりそうである。
「いやぁ、あれつけてると走るだけで結構疲れますからね。トレーニングにもってこいですよ」
「いや、やめておくよ。体を壊しそうだ」
アイクはカズキの馬鹿な提案をやんわりと断ったが、心の内はそれどころではなかった。
自分が重みがほとんど無い戦闘用の服で戦っていたのに対し、カズキは自分の体重よりも圧倒的に思いものを身に着けていた。
対面しただけで分かる実力の差が、更にかけ離れていくのをアイクは感じている。
(参ったなこれは。天地がひっくり返ってもカズキ君には勝てない……!)
「アイク先生? そろそろ始めましょう」
「……ん? あ、ああ……やろうか」
ほうけていたアイクは反応が遅れつつも、予備の剣を持ってカズキと向き合った。
(先手を取られたらやられる。先に仕掛けるべきだ!)
先に飛び出したアイクは、剣を上段に構えて上から振り下ろした。
それをカズキは、誰もが予想できない方法で防いだ。
「なっ!?」
カズキは剣を腕だけで受け止めていた。鉄のプレートなんかも付けずに、生身の状態で簡単に剣が止まっていた。
驚きつつもアイクは諦めずに剣を何度も振るうが、カズキは足や手を使って剣を受け流し、傷がついたのは軽く指に切り傷ができただけ。
「なんでそんな簡単に止められるんだ!?」
「いやまあ……努力したんで」
努力をするだけでここまでなれるものなのだろうか。ただの一度も攻撃をされていないアイクだが、カズキの力の底が全く見えなかった。
「……駄目だ、まいったよ」
これ以上は無駄だと判断したアイクは、人生で初めて試合の途中で降参した。だが、悔しいという気持ちよりも、カズキの強さに呆れ返っていた。
「なんやめずらしい、傷ついてるやん」
「いや、流石に先生となると実力は高い。全部無傷は無理だった」
「……なるほど、『
「よく分かりましたね」
そう、カズキは『
「流石に無理がありましたね。もっと訓練しないと」
(これ以上強くなろうとするのか。この強さで充分だと思ってた僕が馬鹿らしいよ)
「えっと、それで結果はどうなんですか?」
「え……あ、ああ、勿論全員合格だよ」
呆けていたアイクにカズキが声をかけると、少し遅れて合格を告げられた。
「……ねぇ、君たち今日は暇かな?」
アイクがカズキ達に問いかけ、その場にいた三人は首を縦に振った。
「じゃあ夜にみんなで食事でもどうだい? 僕が奢るし、カズキ君はサラを連れてきてもいいよ」
「お言葉に甘えます」
「先生太っ腹やなぁ。喜んで行かせてもらうわ」
「では、私も行きます」
多少は遠慮するべきなのだろうが、三人はほぼ即答だった。
「じゃあ夜の七時に学園の正門に来てくれ。僕は仕事があるからこれで」
これで特待生試験は終わりを迎えた。無事に全員合格ということで、カズキ達は各々喜びを噛み締めた。
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