第30話 戦いは楽しい

 遂にアイクとカエデの試合が始まった。アイクは多少なり通用すると考えていたのだが、その考えは甘かった。


(あ、当たらない!? 全て最小限の動きで躱されてる!)


 アイクは必死に剣を振っているが、カエデはすべて紙一重で躱す。同じ剣で受け止めたり受け流したりするならまだしも、一分経ってまだ一度も剣がかすりすらしてないのだ。


「先生の剣も中々早いんやけどなぁ。ウチには遅いわ」


 そう言うとカエデは剣を躱しながら、拳を剣の腹に当てた。するとパキンッという音がなって、刀身が二つに割れた。

 カエデは、「あ、やってもうた……」とアイクの剣を折ってしまったことに青ざめる。


「ご、ごめんな? まさか折れるとは思ってなかったんよ」


 アイクが持ってきていた剣は、教師になってから使い続けていた大事な剣で、アイクは多少のショックを受けていた。だが、アイクはそれも覚悟して挑んでいたため、


「いや、大丈夫だよ。それだけカエデさんが強いってことだからね。ワクワクしてきたよ」


「そう? ならええんやけど、一応後でお金は渡すね」


「そんなの貰えないよ。元はと言えば僕が勝手にやってる試合だしね」


 そう言ってアイクは魔法の準備をする。


「──いくよ! 『極氷槍アイシクルランス』!」


 アイクが詠唱すると、アイクの頭上に冷気をまとった巨大な槍が現れた。そしてアイクがカエデに手をかざすと共に、氷の槍がカエデに超スピードで飛んでいく。


「無駄やで」


 カエデは余裕綽々の表情で跳び上がり、アイクの魔法を躱した。だが、これはアイクの計算の範囲内だった。


「避けられるのは分かってたよ。爆散エクスプロージョン


 アイクの二度目の詠唱により、氷の槍は文字通り爆散して、沢山の氷の欠片が小さな槍のようになってカエデに向かってくる。


「うわっ、そんな事もできるん!? 『守壁シールド』!」


 咄嗟に魔力の壁を創って小氷の槍から身を守るカエデだが、


「──っ!?」


 後ろに気配を感じたカエデはすぐに後ろを見た。案の定、後ろにいたアイクは既に拳を振りかぶっている。


「ハアッ!」


 かなりの溜めが作られていた突きは、かなりの威力がある筈だった。だが、それをカエデは驚異的な反応速度で空中で体をひねり、拳を躱す。


「なっ!?」


 渾身のパンチが躱されたアイクは動揺を隠せておらず、カエデは手のひらから『炎の息吹ファイアブレス』を発動させ、アイクに直撃した。


 至近距離で放たれた息吹でアイクは地面に吹き飛ばされ、背中から地面に激突した。


「ガハッ!? ……ああクソッ! もう少しだったのに〜!」


「最後のは少しヒヤッとしたわ。先生も中々やるなぁ」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。……まあ全然本気は出してくれてないらしいけど」


 どうやらアイクはカエデに本気で戦ってほしかったらしく、顔からは悔しいという気持ちがにじみ出ている。


「ウチが本気出すんは今のところカズキだけや。さあ、早くポーション飲んでカズキと試合してみ」


「はは……分かってたことだけどかなりハードなスケジュールだ」


 幸いポーションは地面にぶつかっても割れていなかったようで、アイクはポーチからポーションを取り出してごくごくと飲み干す。


「ふぅ……」


「次は俺ですね」


「そうだね。お手柔らかに頼むよ」


 いよいよ、アイクとカズキの試合が始まる。

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