私は愛する家族を残して命を失ってしまったが、一時間だけこの世に戻ることができた

金木犀

第1話 ありがとう



私は最愛の旦那と最愛の娘と暮らしていた。

今朝もいつも通りの日常で、いつものように旦那を見送る。いつもと違うとしたら昨日から私の母が二泊お泊まりに来ている事だ。

今日は母が娘の面倒を見てくれるというので、私は一人でスーパーにお買い物に行った。

今日の夜ごはんはみんなが大好きなカレーにしようと思い、じゃがいもやにんじん、玉ねぎなどカレーに入れる具を選んでいた。

最近、我が家ではプリンにハマっているので母の分と4つカゴの中に入れレジを済ませた。

スーパーから出て10分程歩くと押しボタンの信号に差し掛かった。

押しボタンを押し青になるまで待っていた。

少し待っていると青になったので歩き出した。

渡っている途中、車の音が聞こえたので顔を向けるとスピードが出ている車が向かってきていた。

私は止まると思っていたのでこのまま渡っていると『プーーー』と大きなクラクションが鳴り、気づくと『ドンッ』という大きな衝撃を受けた。

私は少しだけ意識があったが身体が痛くて動けない。周りがわざわざしていたが、それよりも私は愛する家族の元に帰りたかった。

多分私はもうだめだと分かる。

でも家族に何も伝えてない。何も言えてない。こんな終わり方は嫌だ。そう頭では思うが、それとは裏腹に身体はもう既に限界がきていた。

私は一粒の涙を流し目を閉じた。



次に気がつくとそこは見たこともない真っ白な場所にいた。

私は車に跳ねられてこの世を去ったことを覚えていた。だから多分ここはあの世という場所なのだと思った。

ここにいるとどれくらい経ったのか、時間なんてものがあるのかすら分からない。

でもそれよりも、私は家族のみんなが大丈夫なのか心配でならなかった。

娘はまだ4歳になったばかりだし、旦那は仕事もあるし家事も行わないといけないから一人で大丈夫かと心配になる。

どうしてももう一度家族に会いたい、伝えたい、触れたい。

そう想っていると何故か私の足元に、昔祖母からもらったお守りが置いてあった。

そのお守りを拾い私はそのお守りを両手でギュッと握り神様に祈った。

「どうか神様。愛する家族に会わせて下さい」

何度も祈った。祈り続けた。

どこからともなく優しい声が聞こえた。

「一回だけですよ。一時間だけ時間をあげましょう。その間あなたの行きたい所に行きなさい」

そう言われ、私は気づいた時には見覚えのある場所に立っていた。

そこは自分の家の前だった。

私は急いで家の中に入った。入ったのはいいがそこに広がっていた光景に私は衝撃を受けた。

玄関は靴がバラバラに置かれ、廊下はホコリ立っていた。

私は恐る恐る中に入りリビングに向かう。リビングを見るとそこには物が散乱していて、机の上にはカップ麺の容器が沢山置いてあった。

私は愕然とした。

私は我に返り娘と旦那を探したが家には居なかった。多分旦那は仕事に行って、娘は保育園に行ってるのだろうと思った。

『ガチャ』とドアが開く音が聞こえ振り向くと、そこには旦那と娘が立っていて、目を大きく見開いて私を見ていた。

「な、な、な、なんで!なんで居るんだ!」

「えっ!どうしてママがいるの?」

旦那も娘も驚いて私に問いかける。

私は二人の姿を見ると涙が溢れてきて二人に飛び込んだ。

「わっ!」二人とも同じ反応をしたが、その後二人とも泣き出してしまった。

みんな少しずつ落ち着いてきて、一旦リビングに行き椅子に座り私はことの説明をした。

二人とも真剣に聞いてくれ信じてくれた。

でもその話を聞いて旦那が「あとどれくらいだ!どれくらい経ってしまったんだ!」と焦りながら時計を見た。

私は夜の7時にこの世に来て、今時計は15分を示していた。残り45分しかない。

軽く話し合って三人で簡単な料理を作ろうと言うことになり一緒にオムライスを作った。

三人で料理をするのは久しぶりだったので娘が一番喜んでいた。

旦那は玉ねぎを切りながら「しみる〜」と言いながら泣いていた。

私はそんな二人の姿を見て嬉しくてまた涙を流してしまった。

みんなで作り終え二人分テーブル並んだ。私はお腹が空かないので旦那と娘が食べている姿を見ていた。

何気ない話をしたり最近の話を聞いたりしながら、今まではこれが当たり前だったんだなと命の大切さを改めて実感した。

食べ終えて時計を見ると残りの時間が着々と進んでいる。

私はちょっといいかなと二人を連れて、前によく行っていた夜景が見える公園に連れてきた。

夜景を見ながら深呼吸をすると空気が美味しくてなんだかとても落ち着いた。

このまま三人でずっと一緒に居られたらよかった。

大好きな旦那とおじいちゃんとおばあちゃんになるまで一緒に居てずっと笑い合いたかった。

大好きな娘がどんどん成長していく姿が見たかった。どんな大人になるのか、どんな相手と結婚するのか旦那と一緒に見届けていたかった。

三人で幸せな家庭をもっといっぱい築いていきたかった。

私は二人に伝えたいことがあると言い聞いてもらった。

「私がここに居られるのもあと数分。でもね、ここに立っているのってまず絶対に有り得ない事で、これは奇跡だから本当に神様には感謝してもしきれない。そして二人にも本当に感謝の言葉しか出ないよ。本当に本当にありがとう。でも先に行ってしまってごめんね。もっとずっと一緒に居たかった。色んな事みんなで沢山やりたかった。私はもうここには来れないけど二人を絶対見守ってるからね。何があっても私が着いてるから。ありがとう大好きだよ。」

私は伝えたいことをしっかり伝え二人を力強く抱きしめた。

みんな涙が溢れてきて泣きながら抱きしめ合った。

二人からも大好きだよありがとう。と言われ顔がくしゃくしゃになる程泣いた。

とうとう時間がきてしまい身体がだんだん薄くなっていった。

娘はやだ!やだよ!と泣いていたので、娘のおでこにチュッと軽くキスをして「大丈夫だよママがついてるからね」と頭を優しく撫でた。

旦那は泣きながらありがとうと言っていたので私もありがとうと言い、旦那のおでこにも軽くチュッとキスをした。

最後は三人で抱きしめ合いながら私はこの世を去った。



あれから私はあの世で二人を見守っている。

きちんとお部屋も綺麗にして、毎日旦那がせっせと家事をこなし娘の面倒も見ている。

たまに失敗をしてしまう時もあるが、二人で支え合いながら日々を暮らしている。


ありがとう出会ってくれて。

ありがとう生まれてきてくれて。



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私は愛する家族を残して命を失ってしまったが、一時間だけこの世に戻ることができた 金木犀 @drink100

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