第10話 ダブルデート
僕は竜二と大地と待ち合わせてダブルデートをすることにした。昼間はカラオケやボウリングで遊んで、夜はゲイバー「アリス」でソフトドリンクで乾杯をする。そんな予定だ。僕は楽しみ過ぎて、待ち合わせ時間の三十分前には待ち合わせ場所に着いていた。
「お前、いくらなんでも早すぎるだろ」
翔が呆れ気味に言った。確かに、三十分前はちょっと早かったかもしれない。僕は翔と並んで話をしながら二人が来るのを待つことにした。
「そういえば、翔は洋一さんとずっと仲良かったんだよね?」
「あぁ。まぁな」
「じゃあ、なんで中学時代に音信不通になったの? 昨日、洋一さんと話したら、洋一さんは何度も翔に連絡を取ろうとしたらしいよ。だけど、翔に拒絶されたって」
「そんなことまでペラペラあいつ喋ったのかよ。ったく、口の軽い奴だな・・・」
翔はブツブツ文句を言っている。
「ねぇ、翔。ちゃんと大切な人とは連絡取るようにした方がいいよ。洋一さんは親友だったんでしょ? 一方的に連絡取らなくしたら、そりゃ相手も心配するって」
「わかってるよ」
翔はぶっきらぼうに答えた。
「でも、俺、中学でゲイであることがバレたら、それまでずっと仲良くしていたやつらが一気に誰も近寄らなくなっちゃってさ。昨日まで友達だったやつが、今日は俺を無視している。陰口を叩いている。だから、なんか友達ってやつを信用できなくなっちゃってさ。洋一にもいつか裏切られるんじゃないかと思ったら、何か怖くてあいつからメールが来ても返信できなかったんだ」
「・・・そっか。でも、翔、高校時代は友達いたでしょ?」
すると、翔は頬をぽっと赤くした。
「それは、お前と出会ったからだよ」
「僕と?」
「うん。お前と。一郎と付き合うようになって、一郎は俺に、どんな時でも俺の味方でいてくれるって約束してくれた。実際今に至るまでずっとそうしてくれているよな。だから、もし今度同じようなことがあっても、一郎だけは俺の味方でいてくれるって安心できるんだ。一郎だけは俺を裏切らないって、すげぇ俺、お前のこと信頼してるんだぜ?」
「そっか」
今度は僕が顔を赤くした。
「だから、お前は俺にとって誰よりも特別な存在なんだ」
そうか。翔を決して裏切らない存在。それが僕なんだ。そんな存在になれたのは僕ただ一人だ。それは、あの洋一さんでも無理だったんだ。そうだったんだね。僕が嫉妬するような要素はどこにもなかったんだ。翔を疑うなんて僕のバカ。本当に僕は大バカモノだ。
「そんなことより、一郎。この前まであんなに洋一のことを目の敵にしていたのに、急に俺と洋一の関係を心配するなんて、どういう風の吹き回しだ?」
翔がニヤッとして僕にそう尋ねた。
「あ、えーっと、そうだな・・・。それは、なんていうか・・・、あ、竜二! 大地!」
二人が現れたタイミングは絶妙すぎるくらいベストなものだった。翔は「逃げたな」と僕に囁いたが、僕はそれを無視して笑顔で二人に手を振り続けた。
「ちゃっかりしてんな」
翔は呆れ顔でそう言っていたが、僕と一緒に二人を迎えた。
「その人、一郎の彼氏?」
翔を見た大地の頬が少しだけ赤く染まっている。
「ああ、そうだよ。赤阪翔。よろしくな」
「お、俺、新井大地です。よ、よろしくお願いします」
大地はえらくどぎまぎしている様子だ。
「一郎の彼氏、カッコよすぎないか?」
大地がそっと僕に囁いた。
「あはは、ダメだよ、大地。翔は僕の彼氏だからね」
「ば、バカ! ちげぇよ。そういうのじゃないから」
大地が汗を拭った。竜二が
「俺、伊吹竜二っす。大地の彼氏です。よろしく」
竜二は翔を睨んで、「彼氏」という部分を極端に強調して言った。おいおい、大地ったら、翔に浮気心持つとかやめてくれよ。竜二も翔にライバル心メラメラ燃やしてるし、僕も大地と翔の取り合いなんて嫌だからね。
まぁ、でも、本当に翔の顔は大地にとってどストライクだったらしい。翔がイケメンだってめっちゃはしゃいでいるんだもん。その度に竜二が翔に嫉妬心を燃やすから、僕も気が気じゃないよ。というか、この前初めて出会った時は、逆に竜二が僕にボディタッチを繰り返す度に大地が竜二を怒っていたっけ。まったくこいつらは・・・。
だが、翔と竜二はだんだんと本気のライバルになったようだった。何を巡るライバルなのかはわからないけれど、カラオケの点数でどっちが上だとか、ボウリングでどっちのスコアが上だとか、そんなことで競い合ってはバチバチ火花を散らしている。
「俺は水泳部のエースだったんだぜ? カラオケの点数では負けたけど、ボウリングではお前なんかに負けねぇよ」
「あはは、俺はサッカー部のエースだったんすよね。舐めて貰っちゃ困るなぁ」
ボウリング場でメラメラ燃える二人を僕と大地は生温かい目で見守りながら、二人で並んで話すことにした。
「もう、一郎は翔くんの幼馴染のことは解決したんだな」
「うん。した。僕が考えすぎていたみたい」
「ま、俺もお前の気持ち、わからないでもないけどさ。あれだけイケメンの彼氏だったら、心配にもなるよな」
「ちょっと大地! 翔は誰にも渡さないって言ってるでしょ!」
「あはは、冗談だって。でも、イケメンだよなぁ・・・」
大地は翔をうっとり見ている。ったくもう!
「じゃあ、大地は翔と竜二だったらどっちを取る?」
大地がぽっと赤くなった。
「そりゃ・・・」
「そりゃ?」
「・・・竜二だけど・・・」
「それ聞いて安心した」
僕はそう言って大地に笑いかけると、大地は首まで赤くなっているんじゃないかと思うくらい赤くなった。
「一郎!」
大地は恥ずかしがってそう叫んだ。
ふとレーンを見ると、さっきまでバチバチ火花を散らしていた翔と竜二がすっかりしょげている。張り合ったはいいものの、二人ともガーターを連続して出して、一本もボウリングのピンが倒れないままになっているのが見えた。
「おい、一郎、次お前の番」
翔が力なく僕に告げた。
「翔、ドンマイ」
「身体を動かすことでお前に励まされるようになったら俺もおしまいだ」
翔が情けなく笑った。
「翔、それどういう意味? 僕が運動神経が鈍いって言いたい訳?」
「よくはないだろ」
もう! 失礼しちゃうな! まぁ、よくはないけどさ・・・。
どうせ、僕もガーターだ。と、思って投げた僕の玉はレーンの真ん中を突き進み、なんとストライクを叩き出した。その時の翔の顔といったら、写真を撮って世界中の皆に見せてあげたいくらいだ。
その後、僕らはゲイバー「アリス」を訪れた。ママまで翔に鼻の下を伸ばしたりして、油断ならないよ。翔を二丁目に連れて来るのはちょっと危険かも。
まぁ、そんなこんなで僕の大学生活はスタートしたわけだけど、僕にも新たな友達が出来た。一人は翔の幼馴染の洋一さん。そして、竜二と大地カップル。そこにゲイバー「アリス」のママも加えようかな。これからの大学生活も楽しいものになりそうだ。
恋人は幼馴染に勝てるのか ひろたけさん @hirotakesan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます