純血以外は認めない

@Itsuki_Amagiri

出会い。

「駄目だ、あいつとの結婚は私が絶対に認めない。」

冷たく父は言い放った。

「そうよ、あんなおぞましい奴なんかじゃなくて普通の人に恋しなさいよ、あなたはまだ若いんだから。」

母も同意するように、言葉を続ける。


「――どうして、わかってくれないの?!」


 そう、叫んだ声も沈黙によって掻き消された。

 こんなにも私は真剣だと言うのに……

 なぜ、どうして?

 ただ、"ちょっとだけ"他の人と違うだけなのに……

 


 時は2039年、全世界で衝撃のスクープが報道された。

今まで私たちが"宇宙人"と呼称している知的生命体が、すでに地球に在住しているというものだ。

 当初は各国政府は否定していたが、写真や動画、そして実際に首脳が対談している映像が拡散され、なし崩し的に事実だと認めたのだ。

 当然世論からの反発も大きく、世界各地でよそ者を追い出せといった運動が起きたが、彼らはそれらの不満を自分達がもつテクノロジーの開示という方針を打ち出した。これにより技術が数十年は進歩したと評され、生活に多大な恩恵がもたらされることとなった。

その結果として彼らは『異邦科学技術者』という立場で居住権を勝ち取ったのだ。


 それが私が高校二年生の時の話だ。

 当時の自分は得意な化学を使って大学に進学しようかな、とぼんやりと考えてはいたけれど、専攻したい分野も、進みたい道も、目標もなかった。

このまま適当に就職をして、結婚もせずだらだらと適当に生きていくのだろうと半ば諦めていた時だった。


 彼らの存在を知ったのは、インターネットで"超能力"と話題になっていた動画を見た時のことだ。

映っていたのは現首相が一目で人間ではないとわかる別の生物と会話している場面だった。

そして何かグローブの様な物を受け取り、それを首相自身の手に嵌めると突然周りの人間や物体が宙に浮かんだのだ。

今こうして研究者という立場から見れば、技術によって生み出された道具だとわかるが、当時は分からず、友達と一緒にすごいすごいと言って興奮していた。

 そして同時に小さい頃に読んだ漫画を思い出した。

物凄いパワーを持っていて、ピンチに駆け付けて悪い奴を倒していたヒーローは私の憧れだった。周りの子達から『男の子が読むものだから』と言って馬鹿にされて読まなくなったけれど、その動画を見て、自分もあんな力を持てたら……と一度は想像したものだ。


 それが今動画越しとはいえ、目の前に存在していたという事実が私はとても嬉しかった。

そしてそこからの行動は自分でも素早かったと思う。動画の発信元を調べたり、苦手な外国語を翻訳機を使いながら記事を読んだりして動画が本物かどうか調べられる限り調べた。そうしたら今度は彼らが空を飛んでいる物や、地面一瞬で陥没させたりなどあげればキリがないほどの動画が存在していた。


 その後、一週間後には国連を通じて"宇宙人"の存在が公に認められたのだ。


 私はそれ以来、今までとは違い、真剣に勉強に取り組んでいた。

宇宙人について知るということは、化学だけでは足りないと思ったからだ。

 そう考えると、彼らの来た場所を知るために天文学は勿論、体の構造を学ぶ生物学も必要かもしれない、いやそもそも彼らと言語が通じるのかどうなのか……

とにかく私に今出来ることはは知識を身に着ける事だけだった。


私は幸運なことに大学の研究室の中で彼らの技術を学ぶチャンスを得ることができた。



「――カオリ、結果はどうだった?」

彼は微笑みながら語りかけてくれた。けれど、その笑顔が私にはとても眩しかった。

「……あっ、あのね――」

否定されたなんて、言えなかった……それでも伝えなきゃいけない。

「大丈夫、僕がついてるから。」

優しく抱きしめてくれたその手は、ヒトとは違うけど、それでも暖かった。

「ご、ごめんねローフ! ……お父さんもお母さんも、やっぱりダメだって! 私達が結婚することを認めない、って!」

目から涙を零しながら必死に伝えた。

「うん……僕も兄さんに同じこと言われたよ……人間なんかと連れ添うことなど絶対に許さない、故郷に帰ってからいくらでもやれ、だってさ……」


「ねぇ……私達ってやっぱり許されないことしてるのかな……」

怖くて、縋りたくて、ついそう呟いてしまった。

「君まで、そんなことを言うのかい……?」

「だってそうじゃない! あなたの兄も! 私の両親も! 世間でさえ! 誰も認めてくれない!」


「――だったら、もう悪いのは私達しか残ってないじゃない……」

八つ当たりだと分かっていても、やり場のない気持ちを彼にぶつけてしまう。

だって私は彼に――

「いや、それだけは絶対に違う。」


「僕はこの行いが正しいと信じている。」


「誰にもこの思いを否定させやしないよ……そうだろ、カオリ。」

違うと言って欲しかったのだ。



「泣き止んだかい?」

「大丈夫。ごめんね、迷惑かけちゃって。」

「どうせいまから色んな人に恨まれるんだから、気にしないさ。」

「それもそうかも、なら、もっと迷惑かけるね。」

「それはやめてくれよ……」


軽口を叩く間に、準備万端と言わんばかりに機械音が響く。

私たちのやることが、他人にとっては理解されないかもしれない。

でもそんなモノはもう気にしてられない。

でも私は、異形を愛してしまったから。


「じゃあ、行こうか」

そう呟いて、私達は過ぎ去った。


後に何を残したのか、見ないふりをして。






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