後編

 嫌いだったら来なくていい。


 次の週俺らは約束通りに二人で話した。工藤とのこれまでだったり、最近はあまり上手くいっていないことだったり、『サントモ』のお話だったり。


 嫌いだったら来なくてもいい。そうやって来週の約束をして、また一っ週間後に相変わらずにお話しをする。


 いつの間にか、お話会は毎週になって、夜のチャットは毎晩になった。


 ここまでくれば教室での振る舞いも必然的に変わってしまう。


 そして、その何の変哲もない変化に一番敏感であろう彼も、間違いなくその変化を感じ取っていたと思う。

 

「最近、悠人藤中は冬本さんと仲良いよね?」


 二人、自転車を突いて歩く通学路。ど直球だった。夕焼けに染まる大輔工藤の顔は、影が濃くて、暗いように見える。


「ま、まあ確かにね」


 別にクラスメイトと仲良くすること自体は後ろめたいことじゃないし、それが友達が好きな人であっても問題はないはずだ。だけど、彼の表情をみて、どうしてもはっきりと返事できなかった。


「悠人は俺が冬本さんが好きなことを知っているよね?」


「うん」


「応援もしてくれたよね?」


 彼の声は暗くて重い。まるで間違っていないだろと決めつけるように確認してくる。俺は、喉に突っかかる言葉を無理矢理に押し出して、「うん」と返事をする。


 大輔は足を止めると、足を上げて自転車にまたがった。俺はぼーっと彼の動作を眺めている。


「少しは俺の気持ちを考えてほしい……」


 彼はそう言い残して、自転車を漕ぎ始めた。


 『俺の気持ち』。彼の後ろ姿を眺めながら、その言葉を反芻した。俺が冬本さんと仲良くしていることに対しての工藤の気持ち。


 工藤にとって冬本さんは好きで大切で必死に手を伸ばしているもの。これまで俺はそんな彼のことを応援してきたし、味方の側としていろんな感情を共有してきた。少なくともライバルとしては近づいて来なかった。


 そんな純粋なる応援者がいきなり好きで大切なものを奪ったとしたら、それは何だろう。


 裏切りだ。


 毎日学校で顔を合わせ、お昼ご飯や移動教室だって共にする仲。帰ってからも週に三日くらいはメッセージのやりとりをして、月に一回くらいはプライベートで遊ぶ。


 そんな距離の近い関係性は、お互いに信頼しあって、その信頼をお互いに誠実に守りあうからこそ成り立っている。


 そんな信頼の関係は、裏を返せば、ひどい裏切りだって可能だということ。無防備な彼は刃物で刺し放題だ。そして、一度裏切れば、脆くて柔らかい信頼の関係は一瞬で破れ、二度と戻らないものとなる。


 だから、俺は二つに一つを選ばざるを得なくなっていた。


 これまで十年近くも一緒に過ごした親友を取るか、まだ数ヶ月程度しか話してなくて、関係性は友達なのか別物なのかあいまいな彼女をとるか。


 答えに迷うことはなかった。まだ引き返せる。お互いの関係をなかったことにして、始まってもいないものを、始まらなかったことにするのは容易いこと。


『もう、話すのも、メッセージするのも辞めよう』


『俺にはできなくなった』


『ごめん』


 その晩俺は彼女に3つのメッセージを送ったのちに、トークをブロックした。


 これでも数ヶ月は話した仲、礼儀とか最低限とか合ったかもしれないけれど、俺にはそれすらできなかった。面と向かって話したら、言いくるめられてダラダラと続けてしまう自信があった。


「ごめん……」


 誰にも届かない言葉を、意味もなく呟いた。

 

 * * *

 

 工藤の表情は少し明るくなった。そして、俺の心は少し曇った。

 

 メッセージを送ってから一週間。俺は学校で彼女と話していない。


 冬本さんも言いたいことはたくさん合ったと思うし、今にでも近づいてきそうだった。だけど、俺が工藤の近くにいたから、話しかけてくることはなかった。


 彼女もこの関係性をよくわかっているみたいで、流石にこの二人の間に割って入ってメッセージのことは口にできないのだろう。そのことを俺も工藤も知っていて、お互いが離れないようにした結果、話す隙が生まれなかった。


 でも、流石にこの密着はむさ苦しすぎるし、勘違いされる意味では今後の学校生活にも影響が出てきそうだと危機感はあった。だから、流石に一週間もすれば、諦めてくれるだろうと、とりあえずこの一週間耐えることだけに集中し、見事に達成した。

 

 その晩、開放感に溢れるどころか、胸のモヤモヤは強くなっていた。


 ベットに転がり天井を見る。


 スッパリと切ったはずのあの感情は、一週間経って余計に強くなっていた。


 たぶん、ホームシックみたいなもので、状況変化に対しての本能の拒絶なんだと思う。この一過性の寂しさを乗り越えて、次の状況が自分の身に馴染んでいく。


 俺は目を閉じて胸を押さえると、ドアのノックの音が聞こえた。


 うちの家族構成は、弟に父に母。あとメダカ数匹。以上。その中でノックをして入ってくるやつなんていない。鍵が空いていたら容赦なく開けてくる。強いて言えばメダカだけはノックせずに入ってくることはない。


 俺はそのノックを不思議に思ったが、特に気に留めず「はーい」と間抜けた返事をする。


 そして、ドアが開いた途端、俺はベットから飛び起きた。


 彼女は黒い髪を揺らしながら、後のドア丁寧に閉めてから、俺に振り向く。


 ヒラヒラとした淡いピンクのスカートに、ベージュのボタンパーカー。開いたパーカーからは白いキャミソールが覗く。


 彼女は無表情で、カーペットの上に座り込み、彼女は手提げカバンからスマホを取り出すと、スマホの画面を無言でこちらに向ける。


 そこには、俺がブロックした後のトーク履歴が残っていた。


『なんで? どうしてできなくなったの?』から始まって、その日のうちに数件の単発メッセージが続いた。そして、翌日からは『今日、課題多くない? 悠人は大丈夫だった?』『やっと終わったよ? そっちはどう?』なんて帰ってこないことを分かっていながらあくまでも返信を求めるメッセージが連なっていた。


 そして、ついさっきまで、彼女はブロックされる前と同じくらいのメッセージを、何もない虚空に送り続けていた。最近のものになると、『最近なんだか寂しくて……』と弱音も混じっていて、俺にはとてもスクロールする気にならなかった。俺の手が止まると、彼女がスクロールを始める。


 人との関係はそう簡単に切ることができない。俺は痛いほど思い知らされた。


 このメッセージを書く気持ちを考えれば、俺は彼女にどんな仕打ちをしたのか、痛いほどにわかる。


「ごめん」


 俺は何にもならない言葉を呟いた。


「謝らなくていい。だから、ブロックを解除して?」


「ごめん……」


 俺には謝ること以外何もすることができなかった。ブロックを解除したら、これまでのことが全部無駄になってしまう。ここまで傷つけたのだから、関係性の切断を完遂することが誰もがいちばん報われることだと思っていた。


 でも、彼女にそんなことはつたわらない。


「ねえ、解除して?」


 俺はゆっくりと首を振る。


 彼女は途端に泣き出しそうに、顔を歪める。


「もし私のことが嫌いなら、嫌いって言って……そしたら諦めがつくから……」


 『嫌い』その一言を呟けば、苦しみからは解放される。だけど、それを言葉にはとてもできなかった。嫌いじゃなかったら来て? 俺の行動に俺の心はちゃんと表れていた。


 だけど、ここでブロックを解除したら本当に後戻りできなくなる気がしていた。だから、大きなため息をつく。


「澪は俺の気持ちわからないの?」


 端から端まで全て最低だ。


 彼女が工藤に対して言った言葉。とても言えないから行動で示しているのに分かってくれないと嘆いたあの言葉。それを今彼女にぶつけた。


 結局やっていることは、逃げだ。何とか自分の気持ちをはっきりさせずに彼女との縁を切るか考えた結果だった。だけど、彼女は……。


「わからないね!!」


 大きな声でそう言った。俺を睨む瞳からは、ひとつ雫が溢れる。


「だって……」


 彼女の視線は力なく下へと落ちる。しばらくして、すがるように顔を上げる。


「ちゃんとした嫌いの仕草…………もらってない…………」


 消え入りそうな声で、絞り出すように紡がれた言葉。彼女の瞳には大粒の涙が溜っている。


 俺は俯いた。しばらく黙って、じっと床を見る。彼女はその雫を拭いながら、不安げな表情を見せる。


 俺はスマホを取り出すと、トークを開いて、設定を弄る。そして彼女にディスプレイを向ける。


「はい……解除したから……」


 その後につづけようとした、「帰ってくれ」はさすがに言葉にできなかったから、代わりに目を逸らした。まだブロックを解除しただけ、関係性が切断できないと決まったわけじゃない。そう強く思って、できるだけ冷静に接するよう深呼吸をする。


 彼女は即座にスマホに目を落として、スタスタとスマホを操作する。まもなく、通知音が手のひらで震える。


『嫌いなら嫌いって言っていいから、もう二度とブロックしないで』


 俺はトークを見てからスマホの画面を切った。彼女は俺とスマホを交互に見つめ、明らかに何かしらの意図を伝えてくる。ここでは多分メッセージに返信して、このメッセージを承諾して言うことだろう。でも俺はしなかった。


「だったら、動かない証拠が欲しい……」


 彼女は突然俺に一つ二つと迫ってくる。


「ちょ、ちょっと?」


「興味はあるんでしょ? いいじゃん?」


 彼女は目の前で手提げカバンの奥底を探り始めた。さすがの危機感を覚えて彼女の腕を掴む。


「ふざけるのはいい加減にしろ!」


「ふざけてなんかない! じゃあさっさと嫌いって言ってよ! できないんなら二度とブロックなんかしないで!」


 彼女は俺の目をじっと見つめた。その時、もうどうしようもないんだと悟った。


「わかった……」


 俺が力なく呟くと、彼女はトントンとスマホの画面を叩く。


『分かった』


 俺が送信したただ一言のメッセージに、彼女は嬉しそうにするでもなく、ホッとしたような顔を見せる。


「じゃあ、嫌いになるまで、これからもよろしくね」


 彼女の笑顔に、彼の暗い表情。


 俺は気持ち悪さを感じる一方で、少し心が軽くなったように感じた。

 そんな自分が嫌で、痛いほど拳を握りしめた。

 

 * * *

 

 それからというもの、教室で極力彼女と話さないように心がけつつ、メッセージは仲良くしつつも、心を平穏に保つという、地獄のような日々は続いていた。


 好きじゃない。


 思えば思うほどにその想いは募っていくし、忘れようとすればするほど、脳裏に浮かんでくる可愛らしい笑顔。


 そして、十月の三十一日日曜日の午後。


『ハロウィン行くでしょ?』


『私を見つけられたら付き合ってあげる』


 なんの脈絡も無く来た、二つのメッセージ。ここでいうハロウィンは、毎年仮装した人が、お祭りのように多く集まる場所のことだと思う。


『俺には用があるからパスで』


 付き合う。要するに親友を裏切る。これまでは何か名前をつけるような関係性がなかったから、たまたま仲がいいとか、いくらでも誤魔化せた。だけれど、付き合うとなればはっきりしてしまう。


『見つけられなかったら、悠人は私のことを嫌いってことにする』


『だから用事があるって……』


『先週ないって言ってたのは嘘なんだ?』


 そう言えば別件で空いているか空いていないか聞かれたことを忘れていた。これでもう言い逃れはできなくなった。


『待ってるから』


 そこでトークは途切れた。


 俺が探せば親友を裏切って、探さなければ自分の心を裏切る。どうしようもない感情と感情の間に挟まれた俺は、その時間になるまで結論を出すことができず、決断延長のために家を出た。

 


 異質さえ異質じゃなくなる人混みの中。



 誰も、顔には鮮やかにペイントしてあり、被り物だったり怪しく楽しげにコスプレをして闊歩する。


 そんな異質の集団は誰もが目立っているせいで、人が極度に探しにくい。それに俺は彼女が何のコスプレをしているか聞いていない。完全にノーヒントだった。


 そして、この広範囲と人の量である。確率で言えば俺と彼女が出会う確率は宝くじ程度のものかもしれない。そして、そんな奇跡は早々に起こらないし、宝くじは毎回三百円しか当たらない


 でもそれでいいと思っていた。自分にはどうしようも出来ないことで判断が決まってしまうなら、それはもう、それに従うしか他ないのだから。宝くじの結果に文句を言ったりはしないように。


 確かにメッセージを送れば多分どこにいるか教えてくれると思う。そういう可能性もある。だけど、それはズルである。どこかのルールに書いてあるわけではないけれど、一般常識的に考えて、してはいけないこと。だからしない。


 ぐちゃぐちゃと乱れる人混みの中、俺は流されないように必死に前に歩き、相変わらずに人を探す。決して手を抜くことはない。そうして、縦横無尽に人混みに流され揉まれて、何とか人が少ない場所へと向け出した。


 酷い目にあったと、ため息をついて顔を上げる。

 




 風でチェック柄のスカートが揺れた。





 駅の賑やかな広告の柱の下、その少女は、紺色のブレザーを身にまとい、赤いリボンを覗かせて、チェック柄のスカートを揺らす。肌寒い秋の夜、明らかな薄着に体を震わせながら、誰かを待っていた。


 

 それは間違いなく、あの時と同じだった。


 

 奇跡というものは低確率であっても場合によってはちゃんと起こるし、宝くじだって日本のどこかで誰かは確実に当たっている。だからこんなバカみたいに多い人の中からたった一人を見つけ出すことができても、別段不思議なことじゃあない。


 だけど、この奇跡は決して奇跡なんかじゃない。



 彼女はコスプレなんかしていなかったんだから。 


  

 俺は即座に目を逸らすと、逃げるようにその場を去った。彼女と目が合ったのか合ってないのかはわからない。だけれど、俺には逃げることしかできなかった。


 どうすればいい。


 あそこに行けば彼女と付き合って、友人を裏切る。行かなければあの彼女を突き放し俺の心に嘘をつく。そして答えは一つ。決断しなければならない。それなのにこの騒がしくて怪奇な人混みから抜け出せずに彷徨っていた。そして、人とぶつかる。


 ガツン。


「あっ、すいません!」


 顔を上げた先には、見覚えのある顔があった。


 でも俺はすぐに目を逸らす。そして逃げ出そうとする。


「あっ、ちょっと待って。冬本さん見なかったか?」


 工藤はそう言った。俺は少しの間下を向いたまま黙り込む。


 そして顔を上げる。


「駅前の柱のところ立ってたよ? いってらっしゃい」


 俺の選択はこれだった。たぶん工藤をけしかけても彼女の話ぶりから、うまく行かないことはわかっている。でも、これが最適解だと自分の中では思っていた。


 俺は、彼に背を向けて歩き出そうとする。


 あとはご自由にどうぞ。投げやりな思考ももう負け惜しみでしかなくて、俺はそのまま家に帰ろうと思っていた。



 だけど、俺の腕はぎゅっと掴まれた。



「見つけているなら話は早い」


 彼は俺を引っ張った。方向的には冬本さんがいる方向に。


 俺は腕を引っ張って全力で逃げ出そうとした。服の一枚。いや、腕の一本ちぎるつもりで、腕を捻り振り回し、引っ張り、彼からの脱出を試みた。だけど、彼の腕を握る力には敵わずに、離してもらえなかった。


 その格闘は人混みを進む中でも諦めなかった。連れられる先は牢屋か監獄か処刑台か。俺は死ぬ気で彼からの手を引き剥がそうとした。彼に痛みさえ加えていたかもしれない。


 だけど、結局抜け出すことは敵わずに、彼女の前で立ち止まる。


 俺は必死に下を向いた。状況はわからない。いやわかりたくない。しばらく無言が続いていた。俺の腕はさらにぎゅっと掴まれた。


「俺は澪が好きだ。付き合ってくれ」


 こんな人混みでもハッキリと伝わるくらいの大声。周りも何事だとチラリと見る人から、中には拍手をしだす人もいた。


 俺は下を向くたけじゃ耐えきれずに目を閉じた。見たくもない聞きたくもない。これから行われるのは、観衆が思っているような幸せなサプライズ告白なんかじゃない。俺の公開処刑だ。


「ごめんなさい……私が好きなのは悠人だから……」


 俺はさらに下を向く。だけど向くだけの下がもう残ってない。


 こんなことになったのも全て俺のせいだ。はっきりせずにどっちもとらずにした俺のせいだ。因果応報。これは然るべき罰なのかもしれない。胸元がムカムカして、今にでも吐きそうなくらい気持ち悪い。


 周りの雰囲気も凍てついていて、何となく俺の方に視線が向いているのが分かった。


 もうこんなクズ男、何とでも言ってくれ。そう力を抜いた時、突然頭をきつく引っ張られた。髪の毛が引っかかって痛かったけれど、その痛みはむしろ安心さえ覚えた。多分顔面を殴られるのだろう。


 でも、顔を上げて明るくなった視界に拳は飛んでこなくて、目を開けた時には冬本澪の整った顔立ちが大きく映った。潤んだ瞳と俺の瞳が交差する。彼女は肩までかかる長い髪をかきあげると、さらに距離を詰めてきて、ゆっくりと唇にぬくもりが触れる。


 地獄だった。


 彼女が好きな友達の前で、キスまでさせられた。たぶんこれは悪ノリの観客がやったのだろう。もう、彼との信頼関係なんて終わってしまったんだ。


 それなのに体だけは正直で胸の鼓動を踊らせている。もし刃物があるのならば、今すぐこの激しく刻む心臓を切り裂きたい。そんなことを本気で思っていると……。


 ぱちぱちぱち。



 一つだけぽつぽつと音がした。



 周りの空気は凍てついているのに、一つだけ拍手が鳴る。俺は怒りの限界だった。音の鳴る方へ振り向いて怒鳴りつけた。


「人の気持ちを考えずに、ちょっかいかけんな——」


 俺は途中で言葉を止めた。いや、言葉を失った。



 だって、手を打っていたのは工藤だったから。

 

 ぱちぱちぱちぱち。


 一つの拍手は、徐々に広がって。大きくなって、ひゅうひゅうと口笛まで鳴り始めた。俺にはわけがわからなかった。


「なんで…………」


 工藤は状況には似つかない、柔らかい表情でゆっくりと口を開く。



「強いていうなら、悠人の優しさが知れたから。これまで感じが悪かったの、すまなかった……」


「だから、意味がわからないって! どうしたらそうなるの?」


 俺は半分キレていた。あまりにも冗談みたいな展開で、一人だけ取り残されているような気がしたからだ。でも、その問いに対しては別の声が耳に触れる。


「工藤に伝えていたの。私が悠人に送ったメッセージ」


 俺は澪の方に向くと、悪戯っぽく笑顔を見せた。


「それにブチギレた工藤に私が言ってやったの。悠人来ているから、聞いてみたらってね」


 俺はその声を聞いた途端に、体全身の力が抜けて、その場に座り込む。すると、澪と工藤が手を差し出してくれた。俺は二人の手を取りながら、立ち上がると、ため息をつきながら、呆れを漏らす。


「じゃあ全部澪の手のひらの上だったってことか」


「ううん、違うよ」


 彼女は長い髪を靡かせながら、首を横に振る。その声は決して軽いものじゃなかった。


「全部賭けで、希望論だった……悠人が来なかったらどうせ私終わりだったしね」


 彼女は噛み締めるように、言葉にした。たぶんそれだけの思いがあっての決断だったんだと思う。


「まあでも、真っ直ぐ私の元に来てくれてもよかったんだけどね?」


「俺が良くないから!」


 彼女の安渡した顔に、彼のどこか悲しそうながらにも、ちゃんと笑えている笑顔。怪しく楽しい人混みの中、俺はため息をついた。


 そして、どうしても気になったことを聞いた。



 

「ちなみにさ、澪は何かコスプレしていたの?」


 彼女はにっこりと笑った。


「大好きな人を待つ、女子高生のコスプレかな?」

 

 そのコスプレは、彼女にとても似合っていた。










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近況ノートに解説を載せていますので、

そちらもご覧いただければ幸いです。


ハロウィン短編 ネタバレ解説 - カクヨム https://kakuyomu.jp/users/sasyu34/news/16816700428528076828


 

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コスプレにあふれるハロウィンの夜、親友の初恋相手を探す話 さーしゅー @sasyu34

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