花言葉 アツモリソウ

 しばらく、義父の葬儀のため執筆をお休みしていました。今、山形から自宅に戻る新幹線のなかです。

 山々の紅葉は落ち始め、所々に赤い色を残してはいましたが、ほとんどが茶色い枯れ木の色に染まっていました。そろそろ、雪が降り始める時期でもあるので、仕方がないのですが、寂しさがいっそう募る山でした。


 さて、11月30日の誕生花は『アツモリソウ』です。

 花の名前は、その見た目からつくことが多いように思いますが、この花も歴史人から名がつけられています。


 アツモリソウはランの仲間です。

 袋状の花弁が平敦盛の背負っていた母衣ほろに見えることから、その名がついたとされています。

 また、アツモリソウの同属である花に、クマガイソウという名をつけ、対をなしています。この二つの花は、一ノ谷の戦いの無念さを伝えているともいえます。


 平家一門であった平敦盛は、当時、まだ17歳という若さでした。美しい少年だったそうです。

 一ノ谷の戦いに参加したときのことです。

 平家が劣勢となり、敦盛は敵に背を向け逃げようとします。それを敵である熊谷直実は卑怯もの呼ばわりするのです。


 卑怯もの呼ばわりされた敦盛は、とって返し、直実に向かっていきます。それを馬から落とし、討ち取ろうとした直実が見たのは、自分の息子と同じ年頃の美少年でした。

 首を切ることを躊躇する直実に、敦盛は命乞いをすることなく、首をとれと言ったそうです。


 涙ながらに敦盛を討ち取った直実の悲しみや苦しみ、やり場のない憤りは想像するのも、難しいですね。彼は、後に出家するのですが、敦盛を討ち取ったことが、その志をより強くしたのでしょう。


 『アツモリソウ』の花言葉は『君を忘れない』です。

 熊谷直実は、平敦盛のことを忘れたくとも忘れられなかったことでしょう。

 なお、クマガイソウの花言葉は「闘志」です。争いの続いた時代。戦わなければならなかったその闘志の裏には、悲しみと苦しみが積み重なっていたことでしょう。


 対のランとなったら彼等の魂が、穏やかであることを願うばかりです。

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