私は貴方を祝福しています
『ここは――』
ここは悪夢の世界だった。
―いや、一人の少女の記憶の世界だったかもしれない
これは稲荷神社から始まった記憶―
階段で横並びに座り、祭りの屋台で買ったたこ焼きやラムネなどを食べている二人の少年少女がいた。
少女の方は浴衣を着ており、裾を地べたに垂らしてしまっている。
「ねぇ」
「どうした?」
少女は切なそうな顔して少年の肩をとんとん叩いた。
「来年も一緒にここで話したいよ」
少女は弱々しく微笑んだ。
少年はただ黙ったまま少女の手を取り、真っ直ぐ見つめた。
「やっぱり彩葉、俺な…」
「ちょっと…!」
少年が告白でもしそうな雰囲気の中、隣に座る少女は少年の口を掌で抑えた。
「別にいいじゃんか。受験よりも…俺は彩葉の方が大事なんだから…!」
「――」
男らしいセリフを少年は少女に向かって言ったが、真剣そうな顔して少女は首を横に振った。
「今は大切な時期じゃない。それに、こういう大切な時間って一生は続かないんだから大事に大事にするべきなんだよ」
「幸せが続かないかもしれないって言うなら、俺は絶対に彩葉を優先したいんだって」
「そう思ってくれるなら―――」
少年は少女が縦に首をふってくれることに大きな期待をした。
だけど次の瞬間、少年は頭を抱えてしまった。
「そう思ってくれるなら、私の気持ちだって……私の気持ちくらいわかってよ…!!」
少女は力なく叫んだ。震える声を抑えるために。
そのまま階段を下りていき、目尻に雫をつけた。
「彩葉!!!!」
少年が叫んだって少女は振り向くことだって、言い返すことだってしなかった。
そして少年は少女が走り出してって追いかけることも、罵ることだってしなかった。
少年は一人でしばらく一歩も動いたりしなかった。ただ唖然として瞬きだけが少年の命を知らせてくれていた。
誰かああああ、この人を止めてよ!!!!!
その悲鳴で少年はやっと我に返り騒ぎのする大通りの方へと向かうため、階段を急いで下り、人混みがいるのもお構いなしに割り込むように走っていった。
「…………………」
少年の瞳にはそこには思いもよらぬ出来事が飛び込んできた。
―先程、走り去っていったはずの少女がここで血を流して仰向け状態で倒れている
「通り魔ですって…」
「なんてことよ」
「こんな日に限って…なんで」
「―この子はもう心停止もしてるし、息もしてないのよ」
噂の中で少女は死んだという言葉が少年の耳に届いた。
「何で、何で、何で……何でこうなるんだよ…!!!!!」
少年は思いっきり叫び、感情を抑えきれずに地面に自分の拳を叩きつけた。
唇をぐっと結ぶと、何かにけじめをつけたかのように立ち上がった。そして、少女の胸部を強く押し続けた。
「戻ってきてくれ…もう何だってするから」
少年は人工呼吸だってした。周りの人々が諦めたって、止めてきたって彼だけは―
―絶対諦めない
ユウレイ少女 しゅう @kagi0716
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