エピローグ 『俺の――いや、俺たちの冒険はまだ始まってもいないのだから』
「じゃあね。この数日間、とても楽しかったわ。あんたたちとならまた組んでもいいわね」
王都に戻る途中の町でオリビエとは別れた。皆が別れを惜しむ中、こう言って彼女は去って行った。
イリアが半泣きで段々に小さくなっていく彼女の後姿を見送り続けるのを俺は「生きていればまた会えるさ」なんて肩をたたき。そのまま抱きしめてやった。
そして、俺達も王都に向けて旅を再開した。
「どうだった?」
まるで何年も留守にしていたようだ。酒場に入ると、こう、ほほ笑んでくれたエリザの顔を見て俺は漠然と思った。
「エリザさぁぁん!」
なんて、抱きついて甘えるイリアの髪を優しく撫でてやるエリザを見て『ああ、アイツとどこか似ているな』なんて感想を抱くのだ。
「見てくれよ。レベル2になったんだ」
俺は誇らしげに『冒険の書』を開くと彼女に見せてやる。
「そう、更新できるといいわね」
「ああ」
その項を嬉しそうに眺める彼女に俺は短く同意した。
そう、評定の期限まで後半月しかない。更新可能な数値が分からない以上ぎりぎりまで経験値を稼いだ方が賢明なのだが、俺は明日、更新所に行こうと考えていた。
俺には決心があったから、結果はどうでもよかったのだ。
「なあ、今日は皆で軽い宴会としゃれこもうぜ?」
「あんたお金あるの?」
「おう、真面目に冒険したからな! 多少の余裕はある。だがな『軽い』宴会だからな。高い奴は頼まないでくれよ」
「何よ、せこいわね」
なんて、他愛のない会話で笑いあう。皆、嬉しそうだった。
翌朝、『勇者更新所』から出るとイリアとウィズがそこにいた。どうやら心配になって外で待ってくれていたらしい。
俺の穏やかな表情を見て「どうでした?」なんてウィズがほほ笑む。
「駄目だったよ。尋ねてみた所、初回の更新であれば問題のない数値だったらしい。でも、俺のニート期間が長すぎたんだって」
「そうですか」
俺の返事に二人はほほ笑みながらそう返してくれた。
「ごめんな。ここで、このパーティーは解散だ」
俺はそう言って二人に頭を下げる。
「はい、残念なのです」
二人の瞳は涙で潤んでいた。俺はそんな二人を見て、それから二人に背を向けると大きく深呼吸し目を閉じ叫んだ。
「なあ、二人にお願いがあるんだ。三ヶ月後の――次の『国定勇者検定』まででいい。俺に――勇者をクビになっちまうような、こんな情けない俺に二人の時間をくれないか?」
「次まででいいんですか?」
「ボクはいつまでだって待ちますよ。 だって、ボクたちだけの勇者様なんだから!」
「そうなのです。それにアークさんの仲間になってくれるようなもの好きはウィズたちぐらいなのです」
俺の頬を涙が伝った。それはとても、とても温かい涙だった。
そう、俺は決意していたのだ。結果はどうあれ、やり直すと……。
二人に相応しい勇者になってやるんだと。
何故なら、俺の――俺達の冒険はまだ始まってもいないのだから。
勇者Lv1 佐藤コウ @KouSikisiki
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