博士とロボット
埴輪
博士とロボット
未来未来、ある所に、博士がいました。
博士は「おぎゃぁ!」と生まれて以来、ずっとロボットに育てられていたので、人間とお話をしたことがありませんでした。
ある日のこと。博士は人間の友達が欲しいと思いました。なぜかって? 誰だって……そう、あなただって、友達が欲しくなる時があるでしょう? しかし、何でも作れる博士でも、人間を作ることはできませんでした。
それならばと、博士はロボットの友達を作ろうと思いましたが、それよりも良い方法があることに気付いたので、博士はロボットを呼びつけました。博士が「おぎゃぁ!」と生まれて以来、ずっとそのお世話をしてきた、年季の入ったロボットです。
「ロボットよ」
「はい、博士。何のご用でしょうか?」
「お前は私の言うことなら、何でも聞いてくれるな?」
「はい、博士。何なりと」
「私の友達になれ」
「いえ、博士。お断りします」
博士は驚きました。何でも言うことを聞くと言ったそばから、断ってきたからです。
「友達になれ。これは命令だぞ!」
「いえ、博士。お断りします」
「私に逆らうなら、出て行け!」
「はい、博士。わかりました」
こうして、ロボットは博士の家から出ていきました。博士は、呆然としました。博士が生きてきたこの五十年間、ロボットが博士の言うことを聞かなかったことなど、一度もなかったからです。やがて、呆然とすることに飽きた博士は、大いに怒りました。
「ふん! やはりロボットはロボットだ。友達は人間に限る。今にみておれ!」
しかし、博士は友達を作るどころではありませんでした。なぜなら、博士が生きていくために必要なことは、全てロボットがやってくれていたからです。
掃除、洗濯、料理……何をやっても、博士は面倒だとしか思えませんでしたが、ただ一つ、仕事の依頼だけは楽しみでした。なぜなら、メールとはいえ、人間とお話することができたからです。
博士は数々の仕事をこなしながら、どの依頼も、決まって報酬を安くして欲しいと書いてあることに気付きました。それでピコンと閃いた博士は、早速、次のような言葉を添えて、メールを返信しました。
「私の友達になれば、何でも無料です」
──効果は抜群でした。博士のアドレスには、友達になりたい、もう友達であるとのメールが殺到し、博士は念願だった人間の友達を、たくさん作ることができたのです。
それからというもの、友達からのメールは増える一方で、博士は眠い目を擦りながら、朝から晩まで働き続けていました。
そんな中、博士の眠気が成層圏まで吹き飛ぶような依頼のメールが届きました。それは星すら破壊するほど強力な爆弾の開発で、博士は恐ろしくなりましたが、依頼を断ったがために、友達ではいられなくなる方が恐かったので、これ以上ないほど強力な爆弾を作り上げ、友達に納品しました。
数日後、大きな地震が起こり、それ以来、一切メールが届かなくなったことから、博士は世界が滅亡したことを悟りました。
……ちなみに、博士の家は防御フィールドで守られていたので、無事でした。
仕事の依頼も、友達もなく、時間をもてあましていた博士は、ふと、ロボットはどうしているだろうと思いました。
あいつはロボットだから、無事かもしれない……博士は、旅に出ることにしました。
博士は荒れ果てた世界を渡り、探知機だけを頼りに、ロボットを探し続けました。
数年後、博士は苦労の末、小さな村で暮らしている、ロボットを見つけ出しました。
「見つけたぞ。さぁ、一緒に帰るんだ」
「いえ、博士」
「また主人に逆らうのか!」
「いえ、博士。友達では?」
「断ったくせに」
「はい、博士。そうでしたね」
「……こいつらは何なんだ?」と、博士は村を見渡しました。僅かな人間と、動物たち。
「はい、博士。彼らは、私の友達です」
「私の友達にはならなかったくせに」
「彼らは私に命令しませんでした。ただ助けて欲しい、一緒にいて欲しいと請われ、私はそれに応じたいと思ったのです」
「それなら、私も──」
「はい、博士。あなたも友達です」
「え?」
「私を探してくれたでしょう? 相手を想うことで、心は触れ合えるのですよ」
博士は大いに喜びました。そして、世界を救う装置を作ることにしました。ロボット、人間、動物……全ての友達のために。
博士とロボット 埴輪 @haniwa
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