第5話 秋灯
「これであなたも革命を経験したわけですが」
河縁を歩きながら、
革命とは、天命を承けた姓が改まること……王朝が変わることを言う。
私が皇位の継承権を失った日から数えて二百五年目に、太祖
「幾度経験しても革命はつらいものですが、
対岸に街の灯りを見晴るかしながらの夜の散策、いつもはどんな
「正直なところ、よく分かりません。
この言葉には偽りはない。
運良く皇城が燃えることなく王朝が倒れたあと、汎砂は新しい天下の主宰者と知恵の限りを尽くして交渉した。そして今がある。
古い王朝の歴史の封印……廃棄ではない……と、新しき王朝の歴史を司るために、書額堂は存続する。
「それに……」
言いさして、言葉が宙に浮く。
言いたいことが上手く言えないわけではない。
それをいま、言ってしまってよいものか、迷ったのだ。
――父も母も、そして従妹も……私が大切に思っていた人々はもう、とうの昔にこの世からいなくなってますから。
ああ、そうか。
この国がどうなろうとどうでも良かったのだ。
私の両親を殺し、大切な従妹を死地に追いやった屑どもの末裔の行く末など知ったことか。
私が大切に思った人々の血は、もう私の身体にしか流れていない。
「汎砂は、どれだけの革命を経験したんです?」
結局、言いさした言葉を呑んで、違うことを汎砂に問うた。
「今回で、五度目ですね」
「最初の革命は?」
「……書額堂の奥の書庫に眠っています。秋の夜長は書に親しむにはよい季節ですよ。暇なときに探してみると良いでしょう」
それ以上、話すこともなく、ただ歩き続け、見知った場所で足を止めた。
河原の、すこし
私とおなじ姓を持っていた皇帝をはじめとした皇族たち、権勢を
一族郎党、女も、幼児もみな。
三ヶ月を費やし、処刑人たちは腕が上がらなくなるまで斧を振るい、処刑者、その数は二万人を超えた。
血の臭いは、もうしなかった。
時の流れに似た河の流れが、みな流し去ってしまった。
対岸に、灯火がかぼそく輝いている。
戦乱は収まったばかり。
実際に街は燃えていなくとも、幾度となく戦火に脅かされ、重税に苦しみ、若い者は一人残らず軍に取られ……いま、都に住む人は盛時の十分の一にも満たない。
しかし、まだ頼りない光だが、いずれはまばゆく河面を照らすのだろう。
あたらしい王朝のもとで。
父なら、なんと
下手な詩で、過ぎゆく季節を嘆いたか……いや、あの父ならきっと、
母はそんな父に寄り添い、従妹の
「いまばかりは、泣いてもよいのですよ」
――泣くことなど、なにも。
汎砂の気遣いを無用だと、否定するための言葉は、喉の奥につかえたままどうあっても出てこなかった。
対岸の灯りが、滲む。
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