「食べる」という行為の文化性については諸説ある。食人が忌避されたのは近代以降に過ぎず、未開人を揶揄する象徴として禁忌となったものだとか。日本のお隣の国では、食人という伝統を打破すべきだという主張が「狂人日記」として発表され、これが近代文学への端緒を開いたとか。そういえば、人体移植をカニバリズムのカテゴリーに含めようとする学者もいた。
人を食べないことが「狂っている」とされる時代があったのかもしれない、ということだ。
今や日本でも愉快なお祭りとして根付いたHalloween には、その起源として、古代ケルトのAll Hallows' Even がある。古代ケルトのドルイドは、新年の始まりの前日の夜に篝火をたいて収穫の祈りを捧げたという。儀式には犠牲がつきものだ……。新年が訪れると、彼らはこの火から燃えさしを授かり、各戸の暖炉を温めた。悪い妖精を遠ざけるために。
さて、この作品は、All Hallows' Even が Halloween に至るまでの〈過程〉にひそむ物語だと捉えることができるだろう。悪魔による食人と犠牲が不可欠だった時代に、これを脱却する「狂った」物語が、誰の、どのような感情に根ざしているのか。いま、私たちが当然のように享受しているこの灯りが、どのような祈りによってもたらされたものなのか。ある意味では残酷な経緯が、残酷であるがゆえに優しさを伴っている。この灯りにさらなる彩りを与えることは、今を生きるわたしたちの使命だろう。みんな、魔物と愉快に遊ぼう。彼と彼女が抱いた想いは、わたしたちにとっては幻想ではない。