【学校の炎!】

「あらためておはよう。ああ、さすがね」


 約束通り迎えに来ていた愛美のもとに足早に近づくと、微笑を浮かべそう言った。


「おはよう・・・・さすが?」


 何が、さすが、なのかピンと来ず首を傾げる私に愛美は、「授かったんでしょ?」と胸元を指差した。


「あ、これ・・・・うん」


 私はブラウスの下の勾玉のあたりに手を添えた。


「何でわかるの? 見せてないのに・・・・」

「わかるわよ。見違えるように変わったもの」

「え、 何が?」

「あなたの波動。内側から強いオーラを発してる」

「?!」


 思わず私は自分の胸元へ目をやった。


「ふふ、それを見ても分からないでしょ? とにかくあなたは変わった。さ、行きましょ、今日は敵を突き止めるわよ」

「敵?」

「階段から逃げたあいつよ。絶対に潰してやるから」

「・・・・」


 朝から荒々しい雰囲気を醸し出す愛美に少し私は気圧けおされる思いがした。


──────────────────── 

 

 遠くからけたたましいサイレンの音が、しかも複数台の重なる音が背後からふいに聞こえてきた。


「こんな朝から火事?」

「どこだろう?」


 国道横から学校へと続く長くゆるい坂道の手前まで来たところで私たちは足を止めた。

 他の生徒たちも皆、え??という顔つきで立ち止まっている。


 音はどんどん近づいてくる。

 何だろう・・・・何か嫌な予感がする。

 愛美の横顔を見る。


「ちょっと・・・・」

「え?」

「まずいかもしれない・・・・」

「まずい?」

「・・・・」


 ふいに黙る愛美の顔に緊迫感が浮かんだ。


「学校・・・・」

「学校?」

「うん、何か・・・・起きてる」

「えっ?」

「急ごう!」

「あ、待って」


 ふいに駆け出した愛美のあとを慌てて私は追いかけた。

(は、早いっ)

 走ることが得意ではない私には到底出せないスピードの彼女との距離がみるみる開いていく。


「ち、ちょっと・・・・」


 待って、と、息を上げながら言いかけた時、大音響のサイレンとともに3台の消防車が坂を上がりこちらに向かってきた。

 そのスピードに驚き私は思わずガードレールに身を寄せた。

 風圧とともに消防車はあっという間に通りすぎ坂を走り上がって行く。

 と同時に生徒たちが次々、バタバタと走り追い掛けて行く。


 前方を見るとカーブの所で愛美が大きく手招きをしている。

 ハッ、とし、私も駆け出した。


「学校が燃えてるっ!」

「ええっ!?」


 左折のゆるいカーブを曲がった所から見える校門の先、新館校舎の上部からもうもうと煙が上がっている。

 私たちのクラスがある方の建物だ。


「ど、どうして・・・・」

「・・・・」


 うろたえる私の横で愛美は睨むように無言で校舎を凝視している。

 そして、一言──

「やられたわ・・・・」

 そう呟いた。

「やられた?」

「たぶん証拠隠滅・・・・」

「証拠隠滅?」

「とりあえず 私から離れないで!」

 言うと愛美は早足で校門へと向かった。

「あ、待って!」

 追う私。

 周囲は続々集まる生徒たちで騒然としている。


「皆さん、テニスコートに移動して下さい!騒がず速やかに!」

「落ち着いて!」

 校門のところでは校長の只野太朗と女性教頭の住野牧子がすでに生徒たちを誘導し始めている。

 その号令に従い、皆、ぞろぞろと校門脇の通路から一段下がった位置にある4面のテニスコートへと移動していく。

 校舎に目をやると消火活動は始まっていながらも火の勢いは増しているように見える。


「ねえ、証拠隠滅ってどういうこと?」

 誘導されたテニスコートの混雑の中、私は愛美に尋ねた。

 すると彼女は私の手を強く引きながらコート隅に移動し、小声で「誰が聞いているかわからないから耳打ちするわ」と言い顔を近づけた。


「えっ!?」

「たぶん間違いないと思う」

「そんな・・・・」

 ヒソヒソ話の定番の耳打ちで愛美が私に告げたのは驚愕の一言だった。


(あなたを突き落とした女、たぶんあの中で死んでる)


 



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