【深紅の勾玉】
次から次へと明かされる事実に頭の中の混乱を抑えきれない私の様子に、父は「それから・・・・」と言い、少し思案をする表情をした。
「・・・・」
母も無言で頷き何やら含みのある顔つきで父の方を見ている。
「何?」
意図が見えない私のその問いには答えず、父は書の入っていた漆塗りの箱をうやうやしく手にすると何やら底の方を指で探った。
「!?」
ほどなく底板が外れ、父はそれをテーブルの上に丁寧な動作で置いた。
箱は、二重底になっていた。
そして何やら赤い和紙?の包みを手にすると、箱もまた丁寧にテーブルに置いた。
「それは・・・・何?」
父の手のひらに乗る小さい包みでありながら、不思議な存在感を放っているように感じられるそれに私の目は釘付けになった。
「これは・・・・」
言いながら、細心の注意をはらうような手つきで父がゆっくり包みを開く。
「あっ」
思わず、私の口から驚きが漏れた。
それは──
【吸い込まれそうに美しい深い
だった。
「これは華乃子、つまり前世の華蘭が身に付けていた物だ」
「えっ」
目の前に差し出されたそれに私の目は釘付けになった。
私の前世──華乃子。
それ自体をまだ事実として受け入れきれていない上、さらに身に付けていたという物が目の前にある。
この状況、この事実をどう消化をしたらいいのか、気持ちの混乱がなかなか静まらない。
「要は、形見の品だ。手に取って見てみなさい」
父の言葉に私はうなずき、勾玉に手を伸ばした。
と、その瞬間!
「えっ」
「ああっ」
「はっ」
驚く3人の声が重なった。
閉めきった室内を、まるで突風のような一陣の風が吹き抜けたのだ。
そして乱れた思わず髪に手をやった瞬間、私の脳裏に〈声〉が響いた。
【 そ な た に さ ず け る 】
(!?)
「どうした?!華蘭!」
衝撃に目を見開いた私に父がうわずった声を掛けた。
「さ・・・・さずける・・・・って・・・・」
脳裏に響いた言葉を私は口に出した。
「さずけ・・・・ああっ、おのろし様!」
「おのろし様っ!」
父と母は瞬時にして察した様子で〈おのろし様〉が祀られている蔵の方向に身を向け素早い動きでカーペットに正座をすると、ひれ伏すように手を合わせ
「お、お父さん、お母さん・・・」
面食らう私が2人に声を掛けた瞬時、再び室内に一陣の風が舞った。
と同時に一瞬、目の前に光の玉が現れたかと思うとそれは一気に勾玉へと吸い込まれ消えた。
「え・・・・」
勾玉が──光っている。
間違いなく先程までとは異なる光が内側から放たれている。
「・・・・」
気づけば私はそれを左の手のひらに乗せていた。
何という鉱物かは分からないが物質としてはあり得ない温度の温かさが手のひらにじんわり染み込んでくる。
長さ4cmほどの勾玉には、金属のチェーンではなく、何かの糸?を細かな三つ編みに固く編んだような紐が付いている。
絹糸?
金色と黒が混じったような──
「華乃子の髪だ」
「えっ」
ようやく身を起こした父が再びソファーに腰を下ろし、淡々とそう言った。
「髪?!」
「そうだ、そのように言い伝えられている」
「この黒いのが・・・・」
「神の遣いと言われている
「形見であり分身ということね」
落ち着きを取り戻した母が言葉を繋いだ。
「分身・・・・」
私は目の前に現れた光の玉が勾玉に吸い込まれたこと、そして勾玉が熱を帯びていることを2人に告げた。
「華蘭」
「はい」
「今日からその勾玉を肌身離さず身に付けておきなさい」
「え、いつも?」
「いつも、いつでもだ」
「・・・・はい」
有無を言わさない雰囲気の父の言葉に私はうなずき、そしておもむろに首にそれを掛けた。
バストの真ん中より少し上の位置に収まった勾玉がやはり温かい。
(あ・・・・)
何とも言えない不思議な安堵感に一瞬にして全身が包まれるのを私は感じた。
きっと大丈夫──何がどう、かは分からないながらそんな確信めいた感覚も心の奥に同時に芽生えていた。
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