【三国川教授〈2〉】

 多忙な身の上ですぐには来ないだろうと思っていた教授からの返信は、意外にも早く昼休みに入ってすぐに送られてきた。


「あ、ちょっとごめんね、家からの連絡が・・・・」

「そうなの? じゃ先に行ってベンチ押さえとくね」

「うん、ありがとう」


 今日の昼食は中庭で食べようと、一番仲の良い乃山小夜香のやまさよかと約束をしている。

 中庭の木陰には洒落たデザインの木製のベンチが6基と4人掛けのテーブルが3基、設置されており、持参した弁当などを外で食べたい者にとっては早い者勝ちの椅子取りゲームになっている。


 小走りに階段を掛け降りて行った小夜香に感謝しつつ、私は廊下の突き当たりの窓の所に行くと教授からのメールを開いた。


『メール読ませてもらいました。私の特別授業の内容に興味を持たれブログも見てもらえたとのこと、まずは大変嬉しく思います。勉強熱心な学生さんからのコンタクトは大歓迎です。さらには何か質問があるとのこと。もちろん可能な限り回答をさせて頂きたく、遠慮なく尋ねてもらえればと思います。つきましては──』


 その文面からは、出張授業先の高校生が自身の学問分野に興味を持ってくれたことに対する素直な喜びが見て取れた。

 同時に、失礼のないように、と、気遣いしながら打った文章が教授に受け入れられたことへの安堵を私は感じた。

 

『──つきましてはメールでも電話でもこちらは構いませんが、もし直接の会話の方が良いということなら都合を下に記載しますので掛けてもらう形でも宜しいです』


 たぶん几帳面な性格なのだろうと察することが出来る書き方で、通話可能な日、そして時間帯がざっくりではなく分まできっちり記されている。

 そして3候補のうちの1つは今夜の遅い時間帯が指定されていた。


〔22時15分~22時55分〕


 40分、時間を取ってもらえるなら質問には十分だ。

 私は早速、記載されている番号に今夜こちらから掛けてみようと思った。

 が──


(大丈夫・・・・よね・・・・)

 

 ふと、脳裏に不安がよぎった。


 正直、この行為については自分自身で1つだけ懸念がある。

 私が三国川教授に話を聞きたいと思うことはブログの記事内に書かれていた、謎の神とされている〈おどろし〉についてであり、それが1字違いで響きが似ている松埜まつの家の〈おのろし様〉と関係があるのかないのか──という点だ。

 もちろん、そうであってもなくても進んで知る必要もなければ知ったところで何か具体的な得があるわけでもない。

 ましてや口外厳禁の存在である〈おのろし様〉の話を引き合いに出すことは絶対にしてはならないため、なぜ〈おどろし〉という言葉に興味を持ったか? について適当な理由を作らなければならず、我が家の秘密を微塵も勘ぐられてはならないというリスクもある。


 それでも、気になる。

 引っ掛かる。


 謎の存在、真中神。

 驚愕や恐怖を意味する〈おどろし〉と呼んだ地域。

 そのことについてを尋ねないままスルーをする気にはどうしてもなれず、知りたい気持ちが私の中で高まり続け抑えることが出来ない。

 

(やっぱり今夜、話をしてみよう)


 決めた。 

 もう迷いはなかった。


 


 


 




  

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