【目眩ましの家】
「おはよう、これありがとう」
「あ、おはよう。もういいの?」
「うん。一気読みしちゃった」
「そうなの? どうだった?」
「すっごい面白かった」
「なら良かった」
「うん。それにしてもすごいね、
朝一で本を返して来た
「ん? ・・・・うん、いいよ」
私の中に一瞬の躊躇が走る。
(まあ・・・・大丈夫かな)
この子にはあそこがダミーだと見抜く観察眼はたぶん無い──そう思え、いかにも心開いてます的な笑顔を私は向けた。
横浜市内の、比較的裕福な家の娘たちが通う私立の女子学園高等科に在籍して2年目のこのクラスの中で、今のところ1番近しい存在と言えるのが彼女だ。
そして初めて〈あそこ〉に招いた存在。
〈外の世界〉に向けての
そこは築20年のごくありふれたマンションの一室。
私がお嬢様ではない、一般的な家庭の普通の女子高生であることを"印象づける"ために
そこにならば友達を招いても問題はない。
けれど──
それは先祖代々、厳格にキッチリと守り抜かれてきた数々の掟が納められている〔
【人に
私たち一族が居住している本物の家がある所には、
なぜならそれが、
〈おのろし様〉が座すその蔵の中に、私はまだ入ったことはない。
本家の者であっても、18歳を迎えるまではお目通りは許されないからだ。
だから私の中の〈おのろし様〉のイメージは両親および祖父母から聞かされる話によって出来ていると言え、
ただ、まだ6,7歳の子供の頃に祖母に聞いたことがある。
「おのろし様って人間なの?」
それは深い含みはない子供ながらの直球な問いだった。
「おのろし様はおのろし様よ。大事な大事な
「どうして大事なの?」
「どうして、って──」
祖母はいったん言葉を切ると、すうっ、と息を吸い、そして答えた。
「怒らせてしまうとね、壊れるからよ」
ポカン、とした。
怒らせる、というザックリとした
「壊れる?・・・・」
「そう、壊れるの」
「・・・・」
その後の会話は覚えていない。
祖母が再びその話に触れることも私から触れることもなく時が過ぎていった。
幼心にも、何か踏み込んではいけないような空気を私なりに感じ取っていたのかもしれない。
あれから約10年。
今もまだ、私はその意味を知らされてはいない。
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