Ep.1-6

「さて盟友、午後から私たちの力が試される。そこで作戦プランを立てるわけなのだがその前にまず、互いの魔力を確認しようではないか!」


 俺を盟友と呼ぶ見た目から言葉まで中二病に染まり切った女の子、ロシェ。

 そんな彼女ロシェと午後から行われる二対二のチームを組むこととなったものの互いに名前を知った程度なので既に知り合い同士で組んでいるであろう他チームにはやや劣る。

 それを今の間で少しでも埋めたいところ。


 もはや学園の唯一の拠り所となっている屋上で落下防止用に周囲を囲む柵に寄りかかり地べたに座る俺と、いつの間にかサンドウィッチを手に持ち齧るロシェが目の前に立って胸を張る。


 この時ふと別に何が、とは言わないが

身長は同じくらいなイリアよりはありそうだな。

とか思ってしまったのは気のせいだ。


 それは何か起こる前に片隅に追いやって、まだかまだかと聞いて欲しそうにちらちらと視線を寄越し待っているロシェに望み通りであろうことを聞く。


「それでロシェの能力ってのは………?」


「ふっふっふ、ならば私のいや、我が魔力をお教えしよう!」


 序盤から怪しかったがロシェの何かを起動しまったらしい。

 綺麗な歯形で齧り取られたサンドウィッチを俺の方に向け、急に妙なポーズをとったかと思えば腕から黒い稲妻のようなものを走らせ青色の瞳を輝かせ声を大にして言い放つ。


「我が宝具はこの短剣、そして宿る魔力は虚実の悪夢ブラフ・ザ・ナイトメア!」


 決まった!と言いたげな表情でサンドウィッチをむしゃり、と齧る。

 ドヤ顔で決めているロシェには悪いが最後の方、いや最初からよく分からなかったがその宝具とやらが〈異能機具カイス〉で魔力とやらが能力、という意味の解釈で合っているだろうか。


 俺の疑問など解消されることもなくサンドウィッチをもぐもぐとよく噛んだ後飲み込んでから恐らく能力の説明?的な何かをぺらぺらと得意げに話始めた。


「その特性は我が意思と想像により生み出され映し出す。更に私のこの左目にはとある強力な魔力が封印されていて―――――」


 長くなりそうだ。

 理解不能過ぎて何言ってるのか分からない。

 そこで翻訳係を呼んだ。


(訳してくれイリア)


『僕だって分からないよ!?……………あとさ、さっきロシェの方見て何か―――』


(そうだよね、イリアにも分からないよなー………)


 やはりイリアも中二病の言葉を理解するのは難しいようだ。

 あとイリアが最後の方に何か言った気がしたがこれは気のせいだろう、多分。


『……………』


 なぜかイリアから無言の圧があるがこれも気のせいだろう。

 そうこうしている内にロシェの方の説明が終わる。


「―――というわけなのさ、聞いてたか盟友?」


 いや、全然。

とは言わずに。


「高度過ぎてワカラナカッタ」


と、誤魔化した。

  何となくだが今までロシェと付き合おうとはしなかったクラスメイトたちの気持ちが分かった気がした。


 さて、改めて凡人にでも理解出来るようレベルを落としてもらって詳細を聞く。


「全く、今の説明で分からないとは…………要するに【私が思い描いたものが実体のない幻術として現れる】ということなのさ」


「ほう?」


 実際見てみないことにはあまりピンとこない。

 それを察したロシェは自身の手のひらから黒い炎を出し、それを広げていきやがて屋上全体が黒色の炎で包み込んだ。


 端から見れば不気味な色の大火事だが何も燃えていなければ音もせず、屋上全体を包み込む範囲のため俺もその中にいるが熱くもない。


 なるほど会った初めに出た黒色の炎と、さっき見せた黒色の稲妻はこれか。


 能力に関しては納得がいったがひとつ聞きたいことが出来た。

 それをロシェに尋ねようとした時に屋上を行き来するための階段の扉が開く。


 そういえば、と思い出しては脳裏にアストロガーの顔が思い浮かんだ。

 またここへ来たのかと思っていたが扉を開いたのは金髪で水色の瞳の少女、リディアだった。


 一体何の用なのかと俺とロシェは二人してリディアの方を見た。

 ロシェの能力は既に知っているのか屋上が黒色の炎に包まれていながらも気にすることなく近くまでやって来ると一瞬俺と目が合って気まずそうに視線をやや斜め下に傾け逸らす。


 俺に用があるのかと思ったがそうではなく用があるのはロシェの方で、リディアのぎこちない声が耳に入る。


「えっと………ロシェ、生徒会の人が……呼んでる」


 それを聞いて俺とロシェは互いに互いの顔を見た。


「ロシェが?」

「私が?」


 確認するようにしてもう一度リディアの方を向くとコクンと首を縦に振る。


「ふ、なるほど。私の力が必要になった訳か。いいだろう、行ってくるぞ盟友!」


 多分だがそのことで呼んだわけではないと思うが。

 取り敢えず呼ばれていること自体は本当らしいので扉へ向かうロシェを見送った。


「おー、行ってらっしゃい」


 バタン、と扉が閉まりロシェの姿が見えなくなる。

 そして屋上に俺とリディアが取り残されたわけなのだが。


 何というか、案内してもらった日から一度も話していないので変に気まずい。

 リディアがここへ来るときに気まずそうにしていたのは同じ理由だろう。現に今も下を見たまま目を合わせてくれようとはしない。


「…………」


「…………」


 ロシェの能力の炎が消えた屋上で無言のまま時間だけが過ぎていく。

 決して仲がいい訳ではないが面識がある、といった関係の人と二人きりになった時に他のクラスメイトの人たちはどうやってやり過ごしているのだろうか。


 何か話題でも思いつけばいいのだが、なにせ祖国を出てから友達のひとり出来たことのないような嫌われ者だ。そんなやつが急に話題を出せるほどコミュニケーション能力は高くない。

 俺はイリアを頼った。


(イ、イリア代わってくれ!)


『き、聞こえませ~ん』


 白々しい応答。

 だがイリアの気持ちもよく分かる。こんな状況だ。逆の状態の時イリアに代わってくれと頼まれても俺も断っていたに違いない。


 それでもそんなことを言っていられないくらい気まずい。

 何を言っても悪い方向へと傾くような気がして何も言い出せない。


 俺もリディアもこんな調子で沈黙を保ったまま一分が過ぎようとした頃、ずっとこのままの状況に限界を迎えたのかリディアが先に口を開いた。


「あ、あのさ………」


 俺の表情をを確認するように一瞬だけチラッと目を向けてまたすぐ下に戻るリディアの視線。


「………うん」


 気の利いた返事をしてやれない。

 リディアはふー、と息を吐いて吸って、何かを覚悟する雰囲気で話し始めた。

 一体何を話すつもりなのかと俺にも緊張感が漂う。


「えっと、あの時弟に聞かれて答えられなかったんだけれど、その、悪い人じゃないってことは今日まで見てて分かってる」


「………うん?」


「あー、何が言いたいのかと言うと、ええっと、その、冷たくしてごめんなさい。勝手に冷たくしておいて、勝手に謝るのはどうかと思うのだけれど………」


「冷たく、されてたのか?」


 正直そんな風には思わないが。

 リディアに話しかけずらかった、というのは確かにあったがそれは単に途中でイリアと代わった挙句に逃げ出すようなことをした俺たちに非がある気がするが。


「え?でも先生からは委員長である私を頼れって言われてたでしょ?」


「あー、うん。でも俺もイリアも冷たくされてたなんて思ってないよ」


 何か分からないことや不便がある場合はリディアを頼れと先生から言われていた。

 あれから頼り辛らかったのは確かだが、でもずっと頼りきりなのは悪い気がするし完全に結果論だがこうして今日ロシェと友達的な関係にもなれた。リディアに頼れる状況だったら多分何度でも頼っていたためこうはならなかった筈だ。


 今日まで不便に感じていたがそれでもやってこられたから今ここにいる。

 なのでむしろよかったのかもしれない。


 それを伝えるとリディアは少しホッとしたのか肩から力が抜ける。


「………そっか」


 どうやらこのことでかなり悩ませてしまっていたらしい。

 思い返してみれば急にイリアへと代わり友達かと聞かれたリディアの弟の問いから逃げ出すように去っていったあの時。

 何だかんだ言って帰り道も教えてもらったのに。


(あれ、俺らの方が悪くね?)


 ふと思い返し考えてみると。

 リディアに謝られて身に覚えがないというのも納得。


『主に僕が、だよね………』


 一存にイリアが悪いとは言えないがあの時、あの去り方は少しまずかった。 

 友達ではないと告げられるのが怖い俺を庇ってイリアがそれから逃げるように。


 イリアと会話を始めたからか気が付けばまた沈黙に戻っていて俺は兎も角リディアは再び気まずそうな顔をしていた。


 今度はこっちから、とその他に言いたいことが。


「な――――」


「言いたいことはそれだけだから、私はもう戻るね」


 言いかけた言葉に覆いかぶさるようにリディアの声にかき消される。

 踵を返しそそくさと扉の方へと戻っていった。


 言葉にしかけた口は開いたまま、そんな俺とひとり置いて静かな屋上にバタン、と扉の閉まる音が鳴る。


 まるであの時とは逆だ。

 だがその時のイリアとは違い去ったリディアは話を聞きたくない、というよりか俺が言いかけたことに気が付いていないだろう。


 言っておきたかったが絶対に言わなければならない、というわけではない。

 それにまた何か気を遣うことになるかもしれない。

 それならば特に言う必要はない。


「…………まあいいか」


 気まずい空気から一転、いつもの慣れ親しんだイリアとのひとりぼっちの屋上へと戻り空を仰ぐ。

 いつもならこの時間はイリアと代わり仮眠をとっているかイリアと他愛もない話をしているかのどちらかなので変に疲れた。


 昼休みが始まって途中からだが今からイリアと代わるかを問う。


「ロシェはいつ戻ってくるか分かんないし代わる?」


『う~ん、どうしようかな』


 一日ずっと裏にいるというのは結構ストレスなはず。

 代われる時に代わっておいた方がいいと俺は思うが昼休み自体そこまで長い訳ではない。時間もそこまでないとなると結局すぐ戻る羽目になる。

 それを考えてイリアは迷う。


が、その迷いは一瞬で消し去った。


 昼休みが始まると同時に来たロシェ、ついさっき屋上を去っていったリディアと続き、入れ替わるようにしてたった今扉を勢いよく開いて入ってきたのはアストロガーだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

CAISSE ~指輪の異能力者たち~ anp_ @anp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ