Ep.1-5
たとえ敵の姿が見えたとしてもその攻撃は視認できない程に速く反応すら許さない不可避の攻撃。
見えなかったので確証はないがおそらく居合斬りに近い攻撃だったのだろう、その攻撃が直撃すれば致命傷は避けられないと勘が言う。
当然回避も防御も間に合わなかったが、そこでようやく俺の能力が発動する。
相手が透明化の能力な為に視認出来ないが俺へと放たれた攻撃はそのままそっくり透明な敵へと跳ね返った。
近くでズッ、と斬れてずり落ちる音が聞こえてくる。
本来俺が受けるはずだった致命的なダメージを与える攻撃をノーガードの相手に跳ね返したんだ、無事であるはずはない。助からない。
「正当防衛とは言えこれはもう………」
自分の命があることに喜びたいが相手はおそらく死んだ。
正直喜べないどころか逆にピンチかもしれない。
命を狙われる以上こちらも殺す気で行かなければ死ぬのは自分。
師からはそう教えられたし自分でもそう思うがここは戦場でもなければ本来俺たちが居ていい場所ではない。
第三者の捉え方次第ではどう転ぶか分からない。
死刑、国からの追放。
嫌なことばかり思い浮かぶ。
『相手が殺す気だったからこうなったんだよ?』
(そうだけど国からしたら都合よく俺たちを弾き出せる、最悪始末出来るチャンスなんだよ。問題を起こしたってことにしてさ)
もともと無理言ってこの国に入国したんだ。何もない訳はないだろうとは思っていたがまさかここまで露骨にやるのか、と疑問が浮かぶがそうであると考えれば色々と辻褄が合う。
狐面を付けた彼女が狙われない理由。問答無用で繰り出される攻撃の数々。
「滞在時間一週間にも満たないか。早かったな」
後にシュウガかはたまた軍事関係の者がここへやってきて受けるべき罰を受けることになるだろう。
抵抗など何の意味もない。
俺は指輪を外して外へと一歩踏み出した。
その瞬間に。
グイと、後ろに強く引っ張られる。
後ろを振り返れば狐面の彼女が絶対行かせてなるものか、という勢いで引っ張っている。
何をそこまで必死にさせるのか理解不能だ。
庇おうとしているのか、それとも逃げないようにしているのか相変わらず何も言わないのでリアクションが取り辛い。
どうしたものかとふと透明な敵がいたであろう方向に視線を向けて立ち竦んだ。
は!?
白いそれは骨。血は勿論臓器すらない骨だけの存在が俺の血に濡れた刀を持ち斬れた傷から青白い煙を上げて立っている。
骸骨。
フリーズする脳。
目に映るそれの存在が確かなのか意味のない分析を開始してはエラーを出す。
同じくイリアも言葉が出ない。息を飲むような音だけが聞こえてそれっきり。
何で生きている?
いや、死んでいる?
能力が解けた敵の正体がこれなのか?
押し寄せる疑問。
目に映る敵のそいつは既に攻撃を構えている。
敵……敵、そうこいつは敵だ。姿がどんなのであれ敵であることは間違いない。
動け、体。
脳ではようやく理解したのに体は動かない。
そんな時に狐面の彼女が俺と骸骨の敵の間に割って入った。
俺を守るために。
斬られ―――――
「おいこら」
突然聞こえてきたシュウガの声と同時に骸骨の動きが止まる。
その後、骸骨は首だけが勢いよく跳ね上がりいつの間にか骸骨の背後にいるシュウガの手元に跳ねた首がぽすりと収まった。
よく見ると首の断面は綺麗に切断されたような跡があり、シュウガのもう片方の手には通常の刀よりも長い大太刀が鞘に収められた状態で握られている。
いつ斬ったのか。俺には見えず分からない。
「わざわざ外で待機してやったってのに無視してくれてんじゃねーよ」
シュウガはその手にした頭蓋骨を握りつぶしてしまう。
バキャ、と音を立てて割れ目から煙が上がり始めた。それは頭からだけではなく頭と分離した体からも同じく煙が上がる。
それをただ茫然と見つめる俺にシュウガは指さした。
「ったく。お前もこんな奴守ろうとしなくていい」
こ、こんな奴………。
いやそれよりもいきなり襲ってきたこの骸骨の正体は何なのか。
シュウガが倒してしまったのを見ると国関係のものとかではないのだろう。
ならば。
「あ、あの骸骨って――――」
「それ以上何か言うとお前もブッた斬るぞ?」
俺の言葉を遮って鞘に収まる大太刀を向けられる。
言葉の通りシュウガの表情は喋んじゃねぇぞ?と書いてあるような気迫。
何も教えてくれないのは信用されていないからか、それとも教えると何か不利になるようなことなのか。いずれにしても聞くことは許されず話してもくれない。
ただ最後にこれだけは教えてくれた。
「およそ月一でこれが来る。勝手にどっかで死んでくれるのは万々歳だがあの骨どもいは殺されてくれるなよ?」
めんどくさそうに舌打ちをしながら。
翌日の学園。
昨晩起こったことが頭から離れずあまり眠れなかった。
寝不足気味ではあるが今日も今日とて授業は始まる。
午前中の授業の終盤、あくびを我慢していたところでイリアが話しかけてきた。
『昨日のやつ、アレンはどう思う?』
やはりというか、イリアも相当気にしている。
昨晩見た時には驚愕した。
今でも信じられない。姿もそうだが何より透明化の能力も持ちながら致命傷を負わされているのに再生する人ならざるもの。
正直、物に能力が宿るという〈
(透明化じゃなく姿を変化させる能力、って考えればあの見た目にも一応は説明が付くけどなんか違う気がする)
もっとこう、異質な気配。
シュウガに斬られた際に煙となって消えたのも気がかりだ。
『隣に女の子がいたのに頑なにアレンを狙ったのも分からないよね』
(単に俺たちの人種が嫌いだったのか、そうじゃない気もするけど………)
何もかもが憶測の域を出ない。
シュウガは最後に月一で来ると言っていた。その時には何か分かるだろうか。
『ねぇアレン。もしあれが〈
「おい!いい加減人の話を無視しないでもらうか!」
かき消されるイリアの声。
何事かと思えばその声の主は意外と近くにいて、と言うより目の前にいて俺に向かって言っていた。
確かにイリアと話している時に何か言っているやつがいるなぁとは思っていたがまさか話しかけられているとは思わなかった。それも女子生徒に。
百五十くらいの身長だろうか、小柄で制服の上から真っ黒のフード付きローブを着てそのフードを被り、フードから時折覗く斜めに切り揃えられた前髪は紫で右目は青く対の左目は眼帯で隠し、そしてなぜか仁王立ち。
いつからそこにいたのかは知らないがその膨れっ面を見れば一目瞭然。
俺は相当無視していたらしい。
「ごめんごめん。ちょっと考え事してて………それで話って?」
「ま、まさか本当に聞いていなかったとは………まあいい。ならばもう一度言ってやろうではないか!」
クワッ、と目を見開いた。
「お互い孤独を愛するもの同士。互いに相容れぬそんざ――――」
「いや、好きでひとりなわけじゃないんだけど……」
この人にはなぜか好きでひとりなのだと誤解されている。
出来れば俺は友達が欲しいしイリアがいる時点でそもそも孤独という訳ではない。
「口を挟むな」
「ご、ごめん」
勘違いだと指摘すると怒られた。
どうやら何か誤解があっても最後まで一通り話を聞いた方がよさそうだ。
俺が口を閉じると彼女はコホンと咳払いを挟んで続ける。
「互いに相容れぬ存在だがこれも何かの縁。今は互いに手を取り私たちで組めば悪い結果になることはあるまい。さあ………」
と、手を出した。
握手しろってことだろうか。
何というか、もの凄く聞き取り辛かったがおそらく組むというのは二人一組のチームのことだろう。
確か今日の午後から二人一組での試合もあるとかどうとか。その為に今の時間を使ってペアを組めということだ。周りのクラスメイトは各々組んではどう立ち回るかなどを話し合っている。
余ってしまったからだろうがそちらから言ってくれるのはとても有難い。
嫌われ者で友達がいない俺からしたらすぐに手を取りたい、ところだったが本能が止めておけと言っているのはなぜだろうか。手を取ってはいけないような気がする。
俺が沈黙したまま微動だにせずあからさまに迷っていると今までの強気なセリフはどこへやら、急に泣きそうな声音で俺の腕を掴んだ。
「ま、まさか断ったりし、しないよな?もう私たちしか余っていないんだぞ?」
「わ、分かった分かった。よろしく頼むよ」
なんかとても見ていられなかった。
上から言っているようで申し訳ないのだが俺自身も組む相手がいないことだし、それに組む相手がいなくて困っている自分の鏡を見せられているような気がして胸が苦しくなる。
ともあれ組むことが決まった。
ならばまずは名前すら知らないので自己紹介と行きたいところだが。
突然、俺の服を掴んでいた彼女の手が黒い炎に包まれる。
「おわっ!?」
俺は熱くなかったが反射的に立ち上がって身を退いた。
だがそれに比べ彼女は驚くほど冷静で。
「おっと、すまない。私の
ふ、っと小さく笑いながらパチンッと指を鳴らす。すると音と同時にその黒炎が消える。
「なかなかの魔力だ。一体何を封印しているんだ?」
「いや、これただの怪我なんだけど………」
包帯が巻かれた右腕。
これは昨晩の出来事で透明化していた骸骨に攻撃された時に出来たもの。
かなり深くまで斬られ騒動が終わってからも血が止まらず狐面を付けたあの子が包帯を巻いてくれたのだ。その時もやはり一言も話してくれなかったが。
今でこそもう血は止まったが何かの拍子ですぐに血が出てくるのでまだ巻いていたのだが、封印とは一体。
「私には誤魔化せないのさ。私の魔眼はその類のものを感知する」
先ほどの黒い炎をいい今度は青色の瞳が透明なもやのようなものに包まれている。
〈
それはそうといつまでもこいつに付き合っていたら話が進まない。
時計に目を向ければ時機に昼休みになる。
午前の授業で結構な体力を使ったから午後に備えてイリアと代わって休みたい。昼飯もないことだし。
が、結局時間まで名乗ってはくれなかった。俺は名乗ったのに。
正直名前が分からないと困るが幸いにも見た目があれなので見えてさえいればすぐに分かる。昼休み終了後もすぐ再会出来るだろう、そう思って昼休みが始まって人気のない屋上へ向かうがなぜか後をついてくる。
「………何でついてくるの?」
『………何でまた屋上なの?』
俺の質問の後すぐにイリアの質問が俺に飛ぶ。
そういえばアストロガーがここを使っていたのを忘れていた。また絡まれるとイリアが場所変えろと言ってくるがひとまず置いといて。
「
何言ってんだ?みたいな顔されたがそれはこちらのセリフだ。
「初めから思ってたことなんだけど怖くないの?嫌じゃないの?」
他のクラスメイトを見れば分かる。
目が合うと不自然に逸らすものやマルクのように極端に怯えるもの。ガルシアのように敵意を向けるものがほとんど。話そうとする人は勿論いない。
こんなことを聞くのはどうかと今更思うが後の祭り。
すると彼女は目を横に逸らして言う。
「………知っての通り……………ちゅ、中二病だから相手にしてくれる人いないし。あんなに話聞いてくれるのはアレンしかいないからさ………」
中二病であることの自覚はあるらしい。
なら止めればいいのに、と言葉が思い浮かんで飲み込んだ。
何かあるのかもしれないし仮に今から止めてもおそらく周りの人の見る目は何も変わらない。
まあ話に関してはそっちが勝手に話しているだけで聞いているつもりはないが。
「………そっちがいいならいいんだけど……」
微妙な空気にしてしまった。
このままでは気まずいとなんて声を掛ければいいか考えるとすぐに思いついた。
そういえば………。
「改めてこれからよろしくな」
初めは取らなかった手を今度は俺から。
それを見て嬉しそうな顔でガシッと力強く握り返してくる。
嫌われ者と変わり者の似た者同士。
「!………ロシェ=ワーテルズだよ。よろしく、盟友」
盟友。
どういう意味でロシェが言ったのかは分からないが初めて出来た友達ということもあってか俺は少しそれが気に入った。
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