⑧
「…ッ………!」
漏れそうになる声を必死で噛み締め、耐える。
暗闇に慣れ始めた瞳が捉えたのは。
元より私を捕らえて離さない、その強き眼差しだった。
「どうしても…貴方が欲しかった…。」
根拠などない。
ただ気付けばもう、夢中になっていたのだと…
すぐ目の前、
やけに男っぽい声音が…囁く。
「好きです…真幸さん…。初めてなんです、こんなに誰かを求めたのは…」
私も初めてだった。
こんなにも誰かに、
甘ったるい熱情をぶつけられたのは。
だからこそ、困る…。
「真幸さん…。」
逸らせない、振り払えない。
嫌じゃない…自分が怖い────…
「…ぁ……!」
拒まなかった私を…
彼はそっと、抱き寄せる。
土と天然の香水のような、
爽やかな香りに包み込まれ、
身体の芯がドクンと音を立て、飛び跳ねた。
「どうして…断らなかったんですか…?」
いつにもまして弱気な声。
彼にもこんな一面があることに、驚かされる。
「それは…」
何故だろう?
解らない…何故…
「男には、抵抗ないですか…?」
「そういう訳じゃ…」
じゃあ、何故?
受け身な彼が珍しく、食らいついてくるから…
私はいよいよ追い詰められ、
どうにかなってしまいそうだ…。
「私は────…」
なんと説明すれば、
彼と自分自身を納得させられるのだろう?
頭に浮かぶモノは、中途半端な言い訳ばかりで…
どれも説得力がなく。
途方に暮れ、宙を泳ぐ自身の手。
「…優しい人、ですね。」
「え……?」
私が…?
そんな事、初めて言われた。
親でも同僚でも、
常に無表情で冷たいだとかばかりで。
自分でも自覚していたのだが…。
「優しいですよ。普通来ないでしょう?ゲイでもないのに、告白された男の家にだなんて…。」
「…………」
確かに、軽率ではあったかもしれない。
これじゃ告白を、受け入れているようなものじゃないか。
「こうして触れられるのだって、本当は苦手なんでしょう?」
けれど逃げない。拒めない。
それは本当に…優しさなんだろうか?
これはいよいよ、認めるしかなさそうだ…。
「狡くても…いいですか?」
貴方の優しさに付け入りたい────…
まっすぐに愛を囁く彼のどこが、狡いのだろうか…
それは多分、私の台詞なんだがな…。
見つめる目が伏せられて、近づく距離。
もう、拒む理由などなくなっていた。
この私が自ら歩み寄った時点で、
既に始まっていた事。
だから私は潔く、ゆっくりと目を閉じたんだ。
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