「…ッ………!」



漏れそうになる声を必死で噛み締め、耐える。



暗闇に慣れ始めた瞳が捉えたのは。

元より私を捕らえて離さない、その強き眼差しだった。







「どうしても…貴方が欲しかった…。」



根拠などない。

ただ気付けばもう、夢中になっていたのだと…


すぐ目の前、

やけに男っぽい声音が…囁く。







「好きです…真幸さん…。初めてなんです、こんなに誰かを求めたのは…」



私も初めてだった。


こんなにも誰かに、

甘ったるい熱情をぶつけられたのは。



だからこそ、困る…。









「真幸さん…。」



逸らせない、振り払えない。



嫌じゃない…自分が怖い────…








「…ぁ……!」



拒まなかった私を…


彼はそっと、抱き寄せる。





土と天然の香水のような、

爽やかな香りに包み込まれ、



身体の芯がドクンと音を立て、飛び跳ねた。








「どうして…断らなかったんですか…?」



いつにもまして弱気な声。

彼にもこんな一面があることに、驚かされる。






「それは…」



何故だろう?


解らない…何故…







「男には、抵抗ないですか…?」


「そういう訳じゃ…」



じゃあ、何故?

受け身な彼が珍しく、食らいついてくるから…


私はいよいよ追い詰められ、

どうにかなってしまいそうだ…。









「私は────…」



なんと説明すれば、

彼と自分自身を納得させられるのだろう?




頭に浮かぶモノは、中途半端な言い訳ばかりで…

どれも説得力がなく。


途方に暮れ、宙を泳ぐ自身の手。







「…優しい人、ですね。」


「え……?」



私が…?

そんな事、初めて言われた。



親でも同僚でも、

常に無表情で冷たいだとかばかりで。


自分でも自覚していたのだが…。






「優しいですよ。普通来ないでしょう?ゲイでもないのに、告白された男の家にだなんて…。」


「…………」



確かに、軽率ではあったかもしれない。


これじゃ告白を、受け入れているようなものじゃないか。





「こうして触れられるのだって、本当は苦手なんでしょう?」



けれど逃げない。拒めない。

それは本当に…優しさなんだろうか?



これはいよいよ、認めるしかなさそうだ…。








「狡くても…いいですか?」



貴方の優しさに付け入りたい────…


まっすぐに愛を囁く彼のどこが、狡いのだろうか…

それは多分、私の台詞なんだがな…。







見つめる目が伏せられて、近づく距離。

もう、拒む理由などなくなっていた。




この私が自ら歩み寄った時点で、

既に始まっていた事。




だから私は潔く、ゆっくりと目を閉じたんだ。

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