第5話  完

村外れの参道


○ひろつな、登場


○女、伏してる。(清楚な衣装)




ひろつな ふい~。あぶねぇ、あぶねぇ。流石は狐、勘が鋭いぜ。(女を見つける)ってよ、あれは……女子?こんな所にイキナリ女子!?


(女に声を掛けようとする)おい、だい(留まる)いやいやいやいや、さっきのシーンの後にこれは、ないわ。怪しさ満開すぎなんだよ!


これじゃ,どこぞの三文芝居みたいじゃねぇか!へん!ひっかかからねぇよ!




○ひろつなが素通りする時、女が苦しそうな声をあげる。




女    うう。


ひろつな ん?苦しそうな声?本当に病で倒れてるのか?よく見ると……身なりも良さそうだ・・・。




○若い女の苦しそうな声




若い女の声 あぁ。


ひろつな  若い女子の声!(女に駆け寄る)どうした?大丈夫か?


若い女の声 持病の……癪が……


ひろつな 癪が!?癪といえば……心の臓!それはいけない、拙者が押してしんぜよう!さ、もう少しこちらへ……ささ。


女    つ~かま~えた~!


ひろつな げ!物の怪!


女    誰が、物の怪じゃ!


ひろつな あぁ!やっぱり、罠であったか!やっぱりなぁ、こんな話だもんなぁ。こういう展開になるよなぁ。


女    へっへっへっへ。あんた~、あんた~!捕まえたで~!




○男、登場。刀を持っている




男    ようやった、ようやった!


ひろつな 男?げげ!まさかの、美人局!?


男    おっと、動きなさんなよ。(ひろつなに刀を突きつける)


ひろつな この状態で、動くなと言われて……動かぬ者がいるものか!(女を払う)


女    あう!


男    あ、大丈夫か?


女    あぁ。


ひろつな って、おい、並んだら完全に、孫の授業参観に来た、おじいちゃんとおばあちゃんじゃねぇか!?




○○お嫁さん、登場(回想シーン)




嫁    お義父さん、お義母さん、すみません。ひろつなの参観、仕事で行けそうにないので、お願いできます?


女    お嫁さん、子供と仕事、どっちが大事なんじゃ?


嫁    どっちって……


男    そうだよ、お嫁さん。ひろつなは今が大事な時期なんじゃ。パートなんやさかい、参観日くらい、休めるやろ。


嫁    パートも大変なんですよ!なんですか、パートなんやさかいって!?パートなめんとってもらえます!




○○お嫁さん、退場(回想シーン終わり)




女、男  ってね。


ひろつな 大変なんだなぁ。同居ですか?


女    二世帯です。


男    玄関、別でも、結局、同じ。


ひろつな そっかぁ、大変なんだなぁ……って!この回想シーンを使う手口は~、姉上!




○とみ、登場(テクテク歩いて)




とみ   呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!


ひろつな 飛び出てないし!てふてふ歩いてるし!


とみ   それを言うならテクテク!てふてふだったら蝶々になるじゃない!まぁあ、蝶々のように華やかっていう意味かしら。うふ


ひろつな というか、蛾の方ですね。




とみ   なんですって!


式神(雪)蝶々と蛾は大違い


とみ   え?


式神(海)色彩、触覚、腹部


とみ   腹部?


式神(雪)腹部、つまり胴回り


とみ   つまりのつまり、ウエスト?


式神(海)蝶々は細くて、蛾は太い


とみ   う。


式神(雪)アゲハ蝶をはじめ、鮮やかな色合いで標本にしたいのが、蝶々。それ以外は全部、蛾。


とみ   全部……蛾……


式神   そう……全部……蛾。


とみ   雪~!海~!あんたら、今日残業代出ないからね~!


式神(海)え!?冗談っすよ、冗談!


式神(雪)そうそう。蛾はね~モスラのモデルなんですよ、


式神(海)え!そうなの?モスラって、世界的にも有名じゃん!


式神(雪)わぁお!モスラ凄い!




とみ   で?


式神(海)残業代カットは…………


式神(雪)止めてもらえませんか~。


とみ   考えとく。もういいわよ。おつかれっ。


式神(海)お願いしますよ~。


とみ   はいはい。


式神(海)(歩きながら)雇い主が、気分屋だとホント大変。


式神(雪)(歩きながら)っていうか、捕まえたんだからボーナスがあってもよさそうなのに!




○式神(雪・海)退場




とみ   と、いうわけ。   


ひろつな なにがですか?


とみ   あなたのおかげで、わかりやすい説明となった。


ひろつな あれが?


とみ   ええ。


ひろつな 蝶々と蛾の話しかしてないではありませんか!


とみ   だから、蝶と蛾。昼と夜。光と影。花と木。安倍清明と……


ひろつな 蝶の話を、清明につなげるには強引すぎます!


とみ   蝶と蛾のように、、分類はあるけど、見る人によっては、蝶も、蛾も同じ虫。


つまり、安倍清明と淡路おくまん。分類はあるけど、見る人によっては同じ陰陽師。


ひろつな ……。確かに。


とみ   戻ってらっしゃい。


ひろつな あっちが俺のことを嫉んでるんですよ。


とみ   あなたが、父上の技を得意げに見せなければ……


ひろつな 清明には見せてない。


とみ   これ、そのような口調で清明の名を呼んではならん!


ひろつな もう、門徒ではないので。


とみ   ひろつな!


ひろつな わぁ!ごめんなさい!


とみ   (笑う)殴りはせぬ。


ひろつな 式神は?


とみ   呼ばぬ。


ひろつな 九字は?


とみ   切らぬ。人に九字を切ることは禁じられておる。


ひろつな 子供の頃、私に切ったではありませんか!


とみ   あれは……見様見真似で、本当に効力があるか試そうとしただけ。辺りを見まわすと、調度、良き大木が目の前に……


ひろつな その良き大木の下では、幼い弟が寝てたではないか!


とみ   …………失敗してよかったのう。


ひろつな あれ、成功してたら、俺、滅されてましたから!


とみ   まぁ、そんなことも、あったのぅ。…………懐かしい……昔の話。


ひろつな あの時は……父上も驚いておられたようですね。なんせたった5歳の女子が、見様見真似で九字を切ろうとは。いやはや度肝を抜かれる思いがしたと申しておりました。俺、滅されかけたけど。


とみ   あなたは……3歳から修行に入ったんでしたねぇ。


ひろつな 姉上があの後すぐに修行したいと申し出たからですよ。5歳の女子が修行に耐えれるのなら、男子は3歳から始めなければ。という取り決めになったそうです。全く、陰陽師の修行を3歳から始めるなぞ、本来無茶苦茶ですよ。3歳で死を悟るなぞ、淡路家くらいのものでしょう。


とみ   死に近づくことで能力を高めるという荒行。それを繰り返し行うことで過酷な術に耐えうる強靭な心身を創る。荒行……私が初めて行ったのは、10の時でした。それでも、刀は……最後まで持たせてもらえなかった。


ひろつな  刀は……


とみ    刀は?


ひろつな 姉上は……女子だから


とみ   そう。女子だから。女だから、神聖な刀に触れてはいけない。   




○○父上、登場(回想シーン)




父上   ならん!お主は女子!女子は神聖な刀に触れることを禁じられておる!


とみ   なぜですか?父上?私も、父上やひろつなみたいに刀を持ちとうございます!


父上   刀は、己を守るもの、人を守るもの、人を殺めるもの。女子は……自ら血を流す。人の血まで、流さずともよい。


とみ   でも……私は……己も父上も母上もひろつなも守りたいのです。


父上   印だけでも十分守れる。それに、ひろつながおるから安心しろ。わしも母君も立派に守るであろう。


とみ   でも、ひろつなはまだ幼いから……


父上   幼いが、力は秘めておる。おお、そうじゃ。今日より、ひろつなと同じ道場に立つことを、禁ずる。


とみ   なぜです?


父上   今日より、道教の教えに入るゆえ、女子は立ち入ることを禁じられておる。


とみ   道教?道教は今の日の本では禁じられております。それを、幼いひろつなに教えるというのですか?


父上   三教全てに通ずる。それが、淡路家を継ぐ者の、辿る道。とみ。


とみ   はい。


父上   女子が、余計なことを案ずるな。


とみ   しかし、ひろつなは……


父上   あまり、深追いするな。陰陽への道も閉ざされたいか?


とみ   それは……


父上   全ては、父に任せておけば良い。この、淡路おくまんにな。




○○父上、退場(回想シーン終わり)




ひろつな ……そう……ですか。そんなことを……父上に……。だから姉上は、私から離れたのですね。いや、離されたのですね?……私は……ずっと、姉上は私のことを好いていないのだと思っておりました。疎ましく……思ってるのだと。


とみ   ……ひろつな……そんなことは…………うっ。


ひろつな 姉上?


とみ   ずっと…………思っておった。


ひろつな 姉上?


とみ   そうじゃ、お前の事をずっと…………


ひろつな どうしたのです?様子が……


とみ   そうじゃ、お前の事をずっと疎ましく思っておった。私から、刀を……力を……道場を、愛情を、父上を!私から奪ったのはお前じゃ!ひろつな!疎ましい?疎ましいとは生ぬるい!憎い、私は、貴様が憎い!


ひろつな あね……うえ……?


とみ   ……ひろ……つな……。


ひろつな 姉上!


とみ   寄るな!貴様に寄られると虫唾が走る!


ひろつな …………わかりました。


とみ   貴様に何がわかる?


ひろつな いいえ、わかりましたよ、姉上。


とみ   死ね、淡路ひろつな!(札を出し、ひろつなを殺そうとする)むにゃむにゃ


ひろつな  姉上!(とみを止める)


とみ   離せ!離しやがれ!淡路ひろつな!


ひろつな 姉上…………許して……ください。むにゃむにゃむにゃ。捕らえろ。




銀狐の声 あ~!!




○式神たち、銀狐を連れて登場。




銀狐   あいててててて。


式神   捕まえた。


銀狐   こんな……わっぱに……いててててて!


ひろつな やはり、貴様らの仕業か。姉上への術を解け!


銀狐   大した術は掛けておらぬぞ。(式神に)ほれ、離せ。(とみの術を解く)




○とみ、ガクンと意識が無くなる。


○式神たち、とみの元へ。




ひろつな 姉上!?


銀狐   安心せい、息はある。だが、術が心根に深くはまればはまるほど、身体への負担が大きいものよ。案外、あれが貴様の姉上の本音ではないのか?(笑)


ひろつな なに?


銀狐   今更なにを言うておる?憎しみ合うのが他人だけの行為だと思うておるのか?血が繋がっておるからこそ、憎しみが増す場合もあるんだぞ?(笑)女、来い。




○とみ、起きて銀狐の元へ。




ひろつな 姉上!


銀狐   お前は、刀を持ちたかったのだな。ほれ、貴様のだ。存分に暴れるがよい。敵は、目の前だ。




○とみ、ひろつなに刀を向け、斬りかかる。




式神   え?なんで、急に?(上手前に逃げる)




ひろつな 姉上!目をお覚ましください!私は、あなたの弟のひろつなです!姉上!(とみの刀から避ける、避ける)姉上、ごめん!(止める)




○とみ、再び倒れる




ひろつな 蒼、姉上を!


式神(蒼)はいよ。




○式神(蒼)、とみを上手へ。




銀狐   やっぱり、人間の女はダメだな。


ひろつな 一度と足らず二度までも姉上を愚弄しおって……貴様だけは許さん!


銀狐   では、アレを試してみるか。いでよ、狐戦隊、ムック、レンジャー!(援軍を呼ぶ)




○狐彦レッド・ゴンザレス(ブルー)・コンナ(ピンク)、登場。




銀狐   ムックレンジャー、参上!


式神   5人いなきゃ、レンジャーじゃないよ!


銀狐   ムギギギギ!痛いところをつく、わっぱどもめ!なんか、腹立つから、まずあいつらからやっつけたる!


ひろつな (札を出し、術を唱える)むにゃむにゃむにゃ




○式神(大人)、登場。




式神(大人)は!




○戦う


○とみの式神も登場。


○狐、危うし。




狐子の声 どれ、手伝いが必要か?




○狐子、登場。


○戦う


○ひろつな、勝つ。




狐子   殺せ、弱いものはいらぬ、さぁ、殺せ!


ひろつな 殺さない


狐子   今ここで殺さなかったことを後悔するぞ。いや、させてやるぞ!


ひろつな 誰が解いてやるといった?


狐子   え?


ひろつな 殺さぬが、解いてもやらん。何をするかわかったもんじゃないからな。


狐子   じゃあ?


ひろつな 貴様をあるところに送り込う、そこでせいぜい反省するんだな。むにゃむにゃむにゃ




○式神(佐川)AB登場。




式神(佐川)  まいど。


式神(佐川)B あ、キツネ?ルールルルルルル。


ひろつな    キタキツネか!


式神(佐川)B あれ?違うんですか?


式神(佐川)A 馬鹿だな、アレだよ。


式神(佐川)B アレ?


式神(佐川)A そう、アレだ。おいで、ジョリィ!


狐子      今度はいぬっころか!




式神(佐川)B 送り先は?


ひろつな   宇治の稲荷大明神まで。


狐子     げぇ!稲荷大明神の所だと!?ここで、北の国からでも、名犬ジョリィでも,なんでもやってやる!稲荷の……あいつのところだけはやめてくれ!あいつは細かすぎて合わないんだ!顔を見ると歯ぎしりしたくなる!あいつはな、鳥居が本当に千本あるか数えるような奴なんだぞ!


ひろつな   一緒に数えると良い。


狐子     私は十までしか数えれん!


ひろつな   数えれん!って、いばられも……調度良かったではないか。教えてもらえ。お願いします。


式神(佐川) はいよ、行くよ。よいせ、こらせ。


狐子     やめてぇ!淡路ひろつな、覚えておれぇ!


ひろつな   はいはい。悪者の名言と。達者でな!




○狐子たち、退場




ひろつな   姉上、帰りましょう。


とみ     戻ってくれるのか?


ひろつな   それは、わかりません。ですが……私たちのことならわかります。姉上、会えなかった日々を取り戻しましょう。姉上の好きなリンゴ焼き、焼いてあげますから……


とみ     はちみつもあるか?


ひろつな   もちろん。式神に取ってこさせましょう。


式神     マジで!?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狐の嫁入り(台本風) @9ranmaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る