第4話
洞窟の中の屋敷。豪華な一室
○野狐が舞っている。
○狐子、銀狐が酒を飲んでいる。
○コンナ、登場
○野狐、舞を止め、待機姿勢になる。
コンナ 狐子さま。
狐子 コンナ。
○銀狐、ふと顔を上げ、左右上下をゆっくりと確認する。
狐子 やられたか?
コンナ ……は。
狐子 ゴンザレスは?
コンナ やられました。
狐子 死んだか?
コンナ ……たぶん。
狐子 仲間の死すら確認せずに逃げてきたというのか?
コンナ わが身も危うかったゆえ……。止むを得ず……
狐子 ……そうか?
コンナ は。
狐子 むにゃむにゃむにゃ(復活の呪文を唱える)
銀狐 狐子。
狐子 よい。
○ゴンザレス登場
コンナ ゴンザレス!生きて、無事逃げてきたか!
狐子 あぁ。生きておった。生きておったぞ。わしに殺される前まではな。
コンナ え?
狐子 今のそいつは、ただの躯じゃ。やれ。
○ゴンザレス、コンナを斬る
コンナ ぐは!な、なぜ……?(コンナ、倒れる)
狐子 仲間を置いてくるような奴はいらぬ。死ね。むにゃむにゃむにゃ(復活の呪文を唱える)
○コンナ、立ち上がる。
狐子 弱い奴もいらぬ。わしの目の届かぬところで働くがよい。体が朽ちるまでな。連れていけ。
野狐 こっちだ。
○コンナ、ゴンザレス、野狐についていく(退場)
銀狐 ……。まぁた、むくちゃんを増やしおって
狐子 むくちゃん?それはなんだ?
銀狐 (俺に合わせろ。という合図を送る)躯だけだから、むくちゃん。
狐子 あぁ。……また安易な。ネーミングのセンスがないのぅ。
銀狐 は?では、あれを呼ぶ時はなんと呼ぶ?次から次へと躯を作りだされては……そろそろ呼び名が必要であろう。
狐子 ただの躯に呼び名を?これまた、酔狂な。……まあ、そうじゃな……あえてつけるとしたら……ムック、ムックはどうじゃ?
銀狐 あんな毛むくじゃらと一緒にするな!
狐子 あぁ。そういえば、先におったな。
銀狐 そうじゃ。さて、どうしたもんかのう?
狐子 …………殺ってしまえばよかろう?
銀狐 は?
狐子 あやつを殺ってしまえば、二番千時にならぬ。よし、ムック暗殺を命じよう!
銀狐 待て待て待て待てい!あやつは、ぜんこっくのイエティぞ!お茶の間の子供たちが泣く!それに、ムックは1匹だけではない!
狐子 は?
銀狐 今では、赤だけではなく、青・ピンクと増えておる!そのうち、黄色や緑と、もっと増えていくであろう。そして!レインボームックと称するユニットをつくり、果ては、海・外・進・出!
狐子 むむむ、こしゃくな。今のうちに手を打たねばならぬな。そうじゃ、あの頭についておるプロペラを潰してやろう!そうすれば、暑さに耐えきれずに、元の住処の北極に帰るであろう。
銀狐 あれは、エアコンであったか!?タケコプターではなかったのか!?
狐子 フジ違いじゃ!って、何奴!?(扇を振る)
銀狐 ふん。逃げたか。気取られまいと頑張ったんだがなぁ~。
狐子 あぁ。無駄な時間を過ごしてしもうた。あの気は……あの、はぐれ陰陽師であった。コンナの気を辿ってきたのじゃ。銀狐、追えるか?
銀狐 ……(気を探す)いや、完全に気を消した。
狐子 ……そうか。しかし、まだ、我が呪いは抜けておらぬはず。あの、はぐれ、なかなかやりおる。
銀狐 その、はぐれ陰陽師とは、何者じゃ?随分と気にいってる様子だが?
狐子 ……あれはな……我が母の子を覚えておるか?
銀狐 まさか!あれが、せい……いや、我が母の子か!?
狐子 いや、
銀狐 なるほど~さすがは、せい……いや、我が母の子。あの気の消しよう……
狐子 あの、
銀狐 空狐の中でも、一番の神通力を誇る、この銀狐様にも辿らせんとは。いや、見事見事!
狐子 おい、
銀狐 でも……なぜ、我が母の子が、はぐれと呼ばれる?せい……いや、我が母の子は、敵の御大将のはずであろう?
狐子 だから、
銀狐 そうか、他の奴らに任せられなくなり、自ら動き出したというところかのう。
狐子 だから、
銀狐 相変らずわんぱくな。いや、でも、それでこそ、せい……いや、我が母の子らしい。なぁ、そうは思わぬか?
狐子 お主な……
銀狐 ん?どうしたのじゃ?わかっておる。お主の複雑な気持ちは。せい……いや、我が母の子に人間なぞがいては、我が一族の恥!早く消し去ってやりたい!そういうお主の気持ち、わかっておる。
狐子 ぎん……
銀狐 だが、一方で、せい……いや、我が母の子が、憎っくき人間の中で随分快挙な働きをしておると聞くと……少し誇らしい気持ちにもならんか?
狐子 (大きく息を吸う)
銀狐 まぁ、その快挙な働きが、主にわしらに向けて、というのが皮肉なものではあるがのう。で?その、せい……いや、我が母の子をどうする?
狐子 ……。
銀狐 ん?どうしたのじゃ?
狐子 ……もう……話しても良いのか?
銀狐 あたり前ではないか!さっきから話をしておるではないか!会話は、言葉のキャッチボール!であろ?
狐子 キャッチボールになっとらん!わしが話そうとすると、お主が2行~4行しゃべる!
銀狐 あ……すまない、狐子。話しておくれ。さぁ、今から言葉のキャッチボールを始めようではないか、さぁ、話をしておくれ。
狐子 まず、ここに来ておったはぐれ陰陽師は、清明ではない。
銀狐 なに!?先にそれをなぜ言わん!
狐子 だから、言おうとしておるのに、お主がベラベラと話をして、
銀狐 お主、我が母の子を覚えておるか?と、問うたではないか!そう問われたら誰だって、あぁ、さっきのはぐれ陰陽師とは、清明のことなんだなーって思うであろう?
狐子 わしは、
銀狐 お主が、清明と呼ばずに我が母の子と申すから、あぁ、こいつはまだ、我が母が、人間と恋に落ちたことに対して、まだ腹を立てておるのだなと思い、その、お主の気持ちを組みとって、わしも、清明と言わずに、我が母の子と呼ぼう。でも、あれから何百年経ったと思ってるんだよ。ほんと、相変らずちっちゃい奴。と思うてだな、
狐子 なに!?
銀狐 あ、でも、こいつもこないだ、恩返しと称して、我が母と同じ……いや、わかっておる、心臓を食らいに行っただけということは!先に人間どもの方が、わしらの胆のうを食らおうとして、罠をあちこちに仕掛けたということも!全く、どこのどいつじゃ、わしらの胆のうが病を治すと始めに申した奴は!許せんな!あ、でも、その後、すぐに見つけ出して、そいつの心臓を食ろうてやったんだっけ、へへ。
狐子 おい、
銀狐 しかしながら、なにゆえ、我が母も、いくら我が子といえど、人間なんかに我が一族に伝わる水晶の玉と黄金の箱を渡してしもうたのかのう。それさえなければ、清明は、ただの占い屋!正暦2年、あの、天皇の病を治してしもうたばかりに、陰陽師としての出世コースに乗ってしもて、あれよあれよと、安倍清明という名をぜんこっくにしてしもうた!そして、化物退治の御大将じゃ。人と化け物の戦……。わしらと清明は、兄弟であるのにのう……なにゆえ、兄弟で争わなければならん?なぁ、そう思わぬか?
狐子 覚えておるかと、聞うただけで、我が一族の恥を、簡易版にして、1ページ半もつらつらと、ようしゃべったな!おかげで、これを見た者、みな、後々安倍清明をネットで調べるぞ!
銀狐 マジで!?
狐子 マジで。
銀狐 それでは、もっと調べやすいように、キーワードを教えんといかんな!
狐子 もうよい!
銀狐 え?
狐子 もう、よい。と、申しておる。
銀狐 は。
狐子 あの、はぐれ陰陽師は、かつては京の都で、我が母の子、安倍清明の門徒であった。陰陽師というものは、己の力を過信している者が多い。もう少し修行を積めば、もう少し金を積めば、もう少し恩を売れば、もう少し、もう少し何かをすれば。そうすれば、安倍清明のようになれると勘違いをする輩が多かった。は!笑止千万!人の子が、我ら化け物の血が混ざっている者に勝てるわけがない。だが、……あのはぐれ陰陽師は……どうか?
銀狐 先ほどの気の消しようは……見事であった。
狐子 そうじゃ……わしの呪いにかかっていても、見事に気を操れる。群衆の中に光を見たとき、清明は自分の地を危ぶんだという。そして、品性豊かだった男が、ここで、下劣な行為に及ぶ。呪いじゃ。清明は陰陽道に呪いを持ち込んだ。たった一人の男のために。面白いと思わんか?化け物の血が、たった一人の男のために、人の血に勝ったのじゃ。
銀狐 ……いつから……そのことに気づいた?
狐子 ある日……清明の気が濁っておるのに気付いた。あれは……闇じゃ。人の心の闇。めったとあやつに近づけぬが、その闇に気付いてからは、容易に近づくことができた。……よう見ると、その闇が一人の男に集中しておるのじゃ。
その男の名は……淡路ひろつな。その、淡路ひろつなは生意気にも、清明にわしが付いておるのに気付きおった。清明は気づいてもおらんというのに。だから、
銀狐 だから?
狐子 だから、そっと……
銀狐 そっと?
狐子 清明に耳打ちをした。
銀狐 耳打ち?なんと?
狐子 (笑っている)……。
銀狐 なんと?耳打ちをした?
狐子 ……そのまま進めと。そのまま進めば、あの男なぞ足元にも及ばぬ力を手にできるであろうとも。
銀狐 そのまま進めば?清明が……闇に……進めば……と?
狐子 ……そうとも……取れるであろうなぁ。
銀狐 お主は……なんと……
狐子 なんと?
銀狐 ……良きことをしたな!
狐子 そうであろう!ふはははは!人の血に、化け物の血が混ざれば、それはもう化け物なのだ!それなのに、あやつは、清明は、我が一族に伝わる秘法で、我が一族と対峙する!人間として!許されるものか!だから、ちょっと、仕置きをしただけのこと!姉としての……思いやりじゃ。
銀狐 で?どうなった?清明は、その淡路なんとかに何をした?
狐子 淡路ひろつなじゃ。
銀狐 名前なぞどうでもよい!で、どうなった?闇に落ちた清明は?どうなったのじゃ?……いや……待て。待て待て待て。確か…………あの噂は……真であったということか?
狐子 どの、噂じゃ?
銀狐 安倍清明は……鬼の総大将である。
狐子 ふははははは!京の都は、面白い地じゃ。化け物も多いが、鬼も多い。まぁ、人からすれば、鬼も化け物も同じだろうがな。
銀狐 ふん!鬼と、わが一族を同様に申すのではない!鬼の方が、よほど化け物!そうであったか、鬼と組んだか。清明。安倍清明さまが、地に落ちたということか。ぎゃははははは。
狐子 鬼で蠱毒を作り、
銀狐 清明が、ご禁制の蠱毒を!ぎゃはは!さぞかし強力な奴が出来上がったのであろうな!
狐子 ああ、特に臭いがな!ひどかったぞ!
銀狐 鬼は鬼!ぎゃはははは!それを、その淡路なんとかに放ったのか?
狐子 あぁ。放った。
銀狐 ひどいことをする!ぎゃはは……いや、待て……鬼を放たれて……その者、生き残っておるのか?強靭な鬼を倒したというのか?
狐子 刀を使う陰陽師でな。
銀狐 刀?
狐子 そうじゃ。九字の切り方が面白い。
銀狐 刀で……九字を?刀で九字を切る者は、見たことがないのぅ。
狐子 そうであろう?一見、早九字のように見えるが
銀狐 見えるが?
狐子 ……よくわからん。淡路ひろつな。おもしろい男じゃ。清明にくれてやるのはもったいない。さて……どうするかのう。
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