閑話1

これはマルクの会議から次の任務までの2週間の間に起こった一幕である。

レンカの部屋で、ファルガとレンカは向かい合っていた。


早朝、目覚めてシャワーを浴びた後、シャワーで火照った体の熱を冷ましながら、コーヒーを片手にゆったりとした時間をレンカは堪能していた。

(忙しい中で、こうしたまったりとした時間が取れるのはありがたいな。今日は何事もなければいいなぁ。)

そう思ったことが悪かったのだろうか?そんなゆっくり流れている空間を破るように訪問のチャイムが鳴り響いた。チャイムを連打するようなこの鳴らし方は、ほぼ100%ファルガだが、特に約束していたわけでもないため、早朝のこの時間に?と多少疑問に思いながらゆっくりと玄関の扉を開けた。

「やあ!おはようレンカ君!ご機嫌いかが!?」

「おはよう、ファルガ。さっきまでとてもよかったよ。」

とりあえず、部屋の中に招き入れ、お茶を用意して、テーブルを挟んでファルガと向かい合った。

「それで、今日はどうしたんだ?」

「いや~、今日の朝、人生で最高傑作ができたんでテンションが上がっちゃって…、思わず来ちゃった♪」

ファルガのこのテンションの高さに、レンカは自分が割と忍耐強く、穏やかな性格であることを自負しているが、さすがにちょっと面倒くさくなった。それでも、最高傑作という言葉に興味をそそられて、詳しく聞くことにする。忘れているかもしれないが、ファルガは非常に優秀な機工技師である。そんな彼が、思わずテンションが上がるような最高傑作だというものだから、期待値は上がっていく。

「…最高傑作?今後の任務にも重用できるものかい?」

「それどころか、今後の人生に重用できるものさ!」

突然胡散臭くなった。

「それでそれは何だ?もったいぶってないで教えて欲しいな。」

「おう!それはな…これだ!」

テーブルの上に置かれたのは、一見眼鏡に見えるものだった。

「…眼鏡に見えるけど…」

「そう!眼鏡だ!」

眼鏡だった。

「もちろんただの眼鏡じゃないけどな!」

「ふむ…それでこれはどのような効果があるんだ?」

「聞いて慄け!これはな…衣服を透過してみることができる眼鏡だ!」

…一瞬固まったが、レンカはこの機工道具?が今後どう役立つかを考える。

(衣服を透過することで武器の携帯やその所持数を看破することができるな。それに今は衣服だけだが、今後ほかの物質も透過することができるようになれば確かに今後の作戦やセキュリティの向上にも繋がるものだ。確かに大した発明だな。)

レンカの思考は今後この発明がどのような有用性を持ち、リスクがあるかを検討し始めていた。また、これを作成していたファルガは何を目的に作ったのかも気になった。

「ファルガ、これは確かに素晴らしい発明ではあるけど、君の目的を教えてくれるか?」

「それは……女性のパンツが見たいからだ!!」

ガチでどうしようもないことだった。

「………ファルガ、それは犯罪だよ……。」

「ふっ…それは普通の場合はな。ばれない犯罪は犯罪ではないのだよ!」

もはや犯罪者の言い訳だった。

「ほんとにやめようね、ファルガ。」

「いや、でも…。せっかく作ったし、ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」

本気で止めるレンカに必死に食い下がってくるファルガ。あまりの必死な態度にレンカを仕方なく折れた。

「…わかったよ。せめてそういうサービスができるお店に行こう。状況の説明をして、お金を払えばダメとは言わないんじゃない。」

「なるほど!天才か!?…因みに一緒にお店に行ってくれる?」

「いやかな。」

「言うと思った!頼むよレンカ!お前だけが頼りなんだよ!」

「…………………はぁ。わかったよ…。俺は行くだけだぞ。」

「愛してるぜ!レンカ!」


様々な雑貨が売られている商業区画の1店舗に少し特殊な店がある。その店は外見は普通だが、売っている商品は大人向けのおもちゃを売っている店である。その店の前に来てレンカとファルガは看板を見上げた。

「ついに来たぜ。半年前にできた男の楽園、メルティ商会!」

「まあ、外見は普通の店だよね。」

ファルガは店の前で固まったが、レンカは躊躇なく店の扉を開けた。

「お前すげぇな!」

「いや、来たのならさっさと目的を果たして帰りたいだけだよ。」

レンカは既に割り切って仕事モードに入っている。店の奥にずんずん進んでいくレンカを見て、ファルガは尊敬を覚えた。

「こんにちは、レイスさん。メルティさんはいらっしゃいますか?」

「あれれ?レンカちゃん?わあ!いらっしゃい!もしかして恋人でもできて、何か買いに来たの?」

「ああ、いえ。少々事情がありましてメルティさんに相談があるんです。」

「そうなんだ~。私と遊びに来てくれたわけじゃないのね。残念。」

「とても魅力的なお誘いですが、今はメルティさんにお取次ぎしていただけないでしょうか?」

「もう!もうちょっと相手にしてくれてもいいのに~。会長ね?今呼んでくるわ。」

受付にいた妖艶な美女と会話をすると、レイスと呼ばれた女性はメルティを呼びに奥へ入っていく。ファルガがその一連のやり取りを見て、驚いたように話しかけてくる。

「おま、お前!なんでそんな親しげなの!?もしかして常連さん!?」

「そんなわけないだろう。もう2年くらい前だけど、さっきのレイスさんたちが事件に巻き込まれたときに知り合ったんだよ。メルティ会長ともその時に会っているんだ。」

「マジかよ…。どんな人生歩んでるんだ…」

昔からレンカは巻き込まれ体質だが、すっかりこういった状況に慣れてしまったので既に思うところは無い。

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